7月27日 革命少女と木の下に佇む少女
昨日、類はある意味何もしていなかった。ただこの島に上陸し、ただ鳴瀬家まで地道に歩いていっていたのみ。
そんな程度の何ともし難い1日であった。類はある夢を見ていた。この島に上陸してから、ある謎の声が聞こえたりするのであった。夜明け、類の部屋にも日が少しずつ射して来て、眠りから意識が少しずつ浮上していこうとした時、小さい女の子の声が聞こえた。
「起きてー….ねえ起きてってばー 朝ですよー」
類はその声に少し反応した。しかし、島の夏の朝はそれなりに気持ちが良く、まだ眠っていたい気分であったもので、ありきたりな返答をしてしまった。そう、あれだ。あの「あと5分」だ。それを聞いた女の子は腰に手を当てて、少し策を考えてみた後、大学生にとって致命的なあの話を絡めることにした。
「起きないと遅刻しますよー 単位落としちゃいますよー」
類はその聞き捨てならないセリフを聞いて、慌てて跳ね起きた。そして、自分の周りをキョロキョロと慌ただしく見回し始めて、自分の家ではないことを確かめるとホッと息をついた。
「やっと起きた….そんなに慌てても何もないですよぉ〜だって夏休みなんですから。」
類は少し機嫌を斜めにしたが、そんなことを彼女に言っても仕方ないと思い、心の中にしまった。しかしながら、これはからかいの限度を超えていると思った類は、それを正すべきだと思ったのか、注意した。
「…冗談でも言っていいことと悪いことがあるんだぞ…死ぬかと思ったわ。」
類は脱力しながら、洗面所に向かい、顔を洗った。夏の水はぬるく、顔を洗うのに最適ではあったが、同時にそのまま飲むのには少々ぬるすぎるぐらいの温度だった。ふと、類は今から漂ってくるいい匂いに気がついた。ごま油とか、何かそこらへんの匂いがしてきた。
「この匂いは…..ん?炒飯か?」
類は朝から炒飯…というのに見覚えがあったような、どこかの誰かが考えたシナリオのような気がした。まあ、もちろんこれはデジャヴュというやつであるだろうが。
「朝ごはんできてますよ。今日は美樹さんは仕事でいないので、2人きりです。」
わざわざその”2人きり”という言葉を入れたのには理由があるのだろうかという…文芸部の困った癖が類の脳で働いてしまったが、その考えを潰した。ただの事実を述べただけなのだと解決して、座って、炒飯をレンゲに掬って一口食べる。
「普通だな。」
類は率直に意見を言った。しかし、凪沙はそれが気に入らなかったのか、少し引いたような顔をして声を張り上げた。
「な…なんですとー!」
凪沙の機嫌を損ねすぎるのもよろしくないため、類はお世辞でもいいから褒めることにした。
「いや、嘘。美味しいよ。凪沙がこんなもの作れるなんてな。」
類は純粋に、凪沙がこんなプライドを持つようになったのかと思った。幼い頃からずっと見てきたから、どこか感慨深いものがあった。凪沙ももうこんなに成長したのかと….父親のようなことを思っていた。
類が褒めると、凪沙は頬を少し染めて、もじもじしながら体の前に手を置いて、こっちをチラチラと伺っていた。
「もう…そんなことないですよー…おとーs….羽依佐さんの味覚が安すぎるだけです。」
味覚が安い…類にクリティカルヒットした。いや、何がヒットしたかといえば、その言葉自体ではなく、満更でもなさそうな表情や仕草をしながら、刺々しい態度を口では言ってくるのが、類の心臓を貫いたのである。
そんなやり取りを交わしながら、一口一口をしっかりと味わって、食べ進めた。
食べ終わると、凪沙は立ち上がって、類の隣にドスンと座り込み、何やら神妙な面持ちで類の顔を見始めたと思ったら、口を開いてこう言った。
「美樹さんに負担をなるべくかけないために、自分の身の回りのことは自分で済ます。役割分担しましょう!」
類は食べ終わって立ちあがろうとした足を止めて、凪沙の方に体を向けて、その話を真剣な顔で聞いている…ふりをしていた。実際は、ただその顔が可愛いなと思っていただけである。
すると、凪沙はすっと立ち上がり、自分の部屋の方に戻ったかと思ったら、何やら箱を持ってきた。降って見ると、どうやら中にいくつか紙が入っているようである。
「くじ引きしましょう。洗濯、風呂掃除、その他掃除、食器洗い、調理、倉庫整理がありますけど….」
凪沙はいくつか候補を挙げたが、その他掃除とか曖昧だし、倉庫整理は1人ではなかなか達成しきらんのと….少しボリュームが場違いなものがいくつかあったのは、類の気のせいであろうか。
「え…ジャンケンとかじゃなくて?」
類がそう質問すると、凪沙は人差し指を立てて自慢げに一言説教し始めた。
「いいですか?ジャンケンは3択じゃないですか。しかも動きを見ればコンマ数秒で出す手を変えることができるんですよ?そんなのダメ。ずるい。くじ引きならその弱点もないでしょう?」
そう言われて、類と凪沙は1人一回ずつくじを引いてみた。
「お願いします….洗濯は来ないで!」
目を瞑ってものすごく念入りに祈っていたため、類は何故洗濯物がそれほど嫌なのかを気になって聞いてみた。
「え…なんで….」
すると、凪沙は怪訝そうな顔をしながらこっちをみて
「…だって、男の人のパンツとか洗いたくないじゃないですか。」
凪沙はそれぐらい分かれよと言うような目で、頬を膨らませながら類の方にそう言った。
「俺は別に凪沙の下着を洗うのは苦じゃないぞ?むしろご褒美…ふへ」
類は思わず欲望から少し変な笑い声が出た。類自身でも引くレベルの、過去一のキモさだった。もちろん、その欲望の対象である凪沙からも引かれた。当たり前だ。
「は?..ロリコン?…..キモ。」
結局のところ、類は何故か二つくじを引かされて、洗濯と倉庫整理となった。早速その役目をこなすために、倉庫の方へ向かった。相変わらずそこは凄まじい量のものが置かれていて、みただけで目眩がしそうだった。少し目を逸らした後、また倉庫の中を見て入り
「…..I’m on it」
類はそう気合を入れて、作業に取り掛かった。そして…それを塀の隙間から覗いていたものがいた。その女の子はそれを聞くとさっと塀に身を隠して、胸を隠すように自分の体を抱いた。
「(…..I’m on itって…何をやるの?もしかしてエッチなこと!?…あんなところでなんて破廉恥すぎるでしょ!)」
その存在に気づいた類は塀の方へ向かって、その女の子に声をかけた。
「おい…ここで何してるんだ?覗き見か?….よくないぞ….教育が必要かな….」
声をかけると、その女の子は一層体を縮めて、恐怖を体全体で表現しながら距離を取った…とはただの芝居で、その表情とは裏腹に発言は勘違いだらけだった。
「教育って…まさか….手込めにするつもり!?せ…せめて最初は優しく….」
「へ…?何言ってんだ?」
類がそういうと、その女の子は顔を真っ赤にして類の方を見ながら
「あなた….もしかしてあなたが噂の….羽依佐って言う人?」
「噂?」
「当然よ。一段と盛ってそうな男の子が来たって噂よ?知らないわけないでしょ。」
「…..どこ情報だそれ….虚構で塗り固められた話だな。」
そう言うと、その少女は黙り込んだ後、すぐにその場を離れていった。
….真上に太陽が照ってきた頃、10分の1程度片付いてきたような気がするようなしないでもないような…少なくとも面積上はそれぐらいは片付いていると頭の中で処理した。昼は暑いし、あまり作業をしたくもない。
凪沙もどこか別のところで遊んでいるようなので、類は家から出て、気になったドイツ料理屋にでも食べにいくことにした。しばらく歩いていると、川が見えた…そこには昨日突堤にいたあの少女が座っていた。少し気になったので、類は精一杯大きな声で少女に話しかけてみた。
「おーい!…君!そこで何してるのー!」
類の声が響き、類の声にびっくりしたのか、その少女は体が少し跳ねた後、声が聞こえた方角…つまり類の方を恐る恐る見て、類自身に気付いた為、類は道から川の方へ降りて、その少女の方に近づいて声をもう一度かけてみた。
「….君、そこで何してるの?」
類は少しその少女の顔を覗き込んだ。しかし、その少女は全く歓迎する意を示さないどころか、露骨に顔を顰めて体を退け反らせた。
「…..誰。何の用?ナンパ?….どっかいって。」
その少女は落ち着いたような声をしていたが、ほんの少しだけ、寂しげな雰囲気を纏っていた。
「おい…はぁ…俺は羽依佐類。君、なんていうの?そこで何してるの?」
今度は自己紹介を付けてみて、もう一度聞いてみた。すると、よくわからない返答が返ってきて、すぐに追っ払うような動作をした。
「しつこい….紬…水量調査。もう答えた。消えて。」
確かに答えたはいいが、その次の追い払う言葉が、ただ素っ気ないのではなくてさっきよりも明確に、拒絶の意を示す強い言葉になっていたので、類はこれ以上触れるべきではないと思い、その場を後にした。
それからしばらく歩いていると、海岸沿いの一本道に入ってきた…そこを海沿いを見ながら歩いていると、目の前にルイと同じぐらいの歳の若い男が立ちはだかった。その男は類の手首に巻かれている腕時計を見て
「…おい。ここでそんなもの付けてると危ない。マジで。」
それを聞いて理解不能状態に陥っていると、背中から何か爆風のようなものが類の背中に当たった。類は突然の衝撃に体が前によろめき、咄嗟に足を前に出してなんとか踏みとどまった。そして後ろを見るとそこに立っていたのはまたもや1人の…少し小柄な少女だった。
「おい!そこのブルジョワ!早々にその腕時計を売却し、財産の50%を町に還元しろ!さもなくばこのレボリューションボルテックスMK2の餌食にしてくれる!」
一体何を理由に予告もなしに爆風を撃ってきていいと思っているのか不明だが、類の意識はそれよりもその痛みやその状況の全体に困惑していた。急に爆風が自分の背中に当たったかと思えば、それを発したのはゴツい武器…のような空気砲を持った少女だったしで。
「ちっ…少女革命隊め…..下がってろ。俺が相手をする。その間にお前は逃げろ!」
類は不可解ながらもその男の言うことに従い、追い越して向こうに走って逃げた。後ろで激闘が繰り広げられている音がした。一回…二回….少しずつ音は遠ざかっているが、いまだに聞こえる。空気砲にしてはやたらと音が大きかった….ふと、後ろを振り返るとその男の服は破けていて…後1発で倒れそうな状態だった。それでも構わず類は逃げ続けた….すると、音が止んだかと思えば、次の瞬間、バタっと言う音が聞こえた。
しばらく進んでいると、中心街にやって来た。そのメインストリート沿いのどこかにあった記憶を辿って、ドイツ料理屋に入った….ポトフとパンを注文してそれをいただいた。
それを食べ終わった後、また少し街中を歩いていると、一つの神社が見えた。不思議な雰囲気だったので、その中を確かめてみると…何もいなかった。いや、何もいなかったと言う表現は確かではない。木の根元で眠っている少女が1人だけいた。そっとしておくことにした。すっかり夕方…陽も傾き始めていたので、類はそのあとはまっすぐ帰宅した。そのあとは昨日と同じような感じで過ごした….そうして2日目が終了した。




