第51話 三店舗の返事、減ったのは車か、誰かの時間か
第七部第50話では、町の外から配送会社や取引先、施設管理者が集まりました。
「うちだけでは変えられない」
それぞれが抱える事情は違います。けれど、話し合ってみると、本当に変えられない条件と、これまで変えようとしてこなかった条件が混ざっていることが分かりました。
そこで町は、三店舗の受け取り時間を見直し、配送をまとめる案を試すことにします。
ただし、町へ入る車の回数が減っても、別の場所で走行距離が増えたり、誰かの待ち時間や仕事の負担が増えたりすれば、単純な成功とは言えません。
第51話では、関係者が持ち帰った案に返事が届き、最初の試運転が始まります。
減ったのは車の移動でしょうか。
それとも、誰かが自由に使えるはずだった時間でしょうか。
「返事、来たぞ」
俺は、配送会社から届いた資料を開いた。
三店舗の納品時間を午後にそろえ、これまで別々の便で運んでいた荷物を、できるだけ一便にまとめる。
そんな試験運用の案だった。
「おお、ついに町の外が動いたな」
『まだ試験案だ』
AIが答える。
「分かってるって。でも、前回は“うちだけでは無理”の大合唱だったんだぞ?」
『今回は、関係者が条件を持ち寄った』
「進歩じゃないか」
『成果かどうかは、動かしてからだ』
「相変わらず慎重だな」
机の上には、いつもの白いファイル。
その隣には、配送会社が用意した新しい記録用紙があった。
走行距離。
燃料使用量。
配送便数。
待ち時間。
店舗側の作業時間。
「今回は、車だけじゃなく人の時間も数えるんだな」
『効率化で消えたように見える負担が、別の誰かへ移っていないか確かめる』
「よし」
俺は資料を持ち上げた。
「第七部第51話。三店舗、同じ午後を迎えろ!」
『予定どおりに迎えられればいいがな』
「始める前から不吉なこと言うな!」
### 第1節 車は来た。店がそろわない
試運転の日。
午後一時。
配送車が商店街へ入ってきた。
予定どおりだ。
「一店舗目、納品します!」
運転手が台車を押す。
一店舗目は、すぐに受け取りを終えた。
二店舗目も問題ない。
「おお、順調じゃないか」
俺は記録用紙に印をつけた。
『まだ三店舗目が残っている』
「分かってるって」
そして、三店舗目。
運転手が裏口へ回る。
「納品です!」
返事がない。
もう一度呼ぶ。
「すみませーん!」
店の奥から声が返ってきた。
「今、レジを離れられないんです! 少し待ってください!」
運転手が時計を見る。
五分。
十分。
「……まずいな」
俺はつぶやいた。
運転手の端末に、次の配送先から連絡が入る。
「到着予定、変わりますか?」
「すみません。少し遅れそうです」
俺は記録用紙を見た。
商店街へ入る回数は減らせた。
だが、待ち時間は増えている。
「まとめたのに、詰まったな」
『車の予定はそろえた』
「でも?」
『受け取る人の予定までは、そろっていなかった』
店の中では、レジ待ちの客が増えていた。
配送車の後ろにも、別の車が近づいている。
「これ、待ってるだけで済む話じゃないな」
『配送先全体の予定にも影響する』
俺は、ようやく気づいた。
一つの町で車を減らそうとして、別の町へ向かう車を遅らせている。
これでは、まだ成功とは呼べない。
### 第2節 成功の裏で、昼休みが消える
店長が、ようやく裏口へ出てきた。
「すみません! お待たせしました!」
慌てて伝票を確認する。
荷物を受け取る。
作業が終わるころには、予定よりかなり時間が過ぎていた。
「次からは、私が昼休みをずらします」
店長が言った。
商店会の人が、ほっとしたようにうなずく。
「それなら、次はうまくいきそうですね」
「……待って」
俺は口を挟んだ。
「それ、毎回店長が休憩を削るってこと?」
「いえ、まあ……多少は」
「多少って、どのくらい?」
店長は答えに困った。
「店として協力すると言いましたから」
AIが静かに言う。
『協力することと、無理を続けることは違う』
運転手もうなずいた。
「こちらも同じです。納品をまとめても、待ち時間が増えれば次の配送が遅れます」
「その遅れを取り戻すために急ぐことにもなる?」
「そうならないようにしています。でも、余裕が減るのは確かです」
俺は、白いファイルを開いた。
以前、雨庭の持ち主が言っていた。
――図面に、水だけ描くな。片づける人のことも描け。
あの言葉が、頭に浮かんだ。
「配送の図面にも、車だけ描いちゃ駄目なんだな」
『そうだ』
「店長の休憩。運転手の待ち時間。次の店の予定」
『数字から消してはいけない』
俺は赤い字で書いた。
――配送をまとめるために、誰かの休憩や待ち時間を見えない負担にしない。
「町で何度もやった話だな、これ」
『水も、泥も、仕事も同じだ』
「一人に集めると、続かない」
『効率化の名目で負担を押しつければ、仕組みは長続きしない』
店長は、少しだけ安心したように息を吐いた。
「正直、毎日は厳しいと思っていました」
「だったら、最初に言ってくれよ」
「せっかく始まった話を、止めたくなかったんです」
その言葉に、俺は返事ができなかった。
協力したい人ほど、無理を言い出しにくい。
それも、今回の試運転で初めて見えたことだった。
### 第3節 三店舗を、無理に三つそろえない
夕方。
関係者が集まり、短い振り返りを開いた。
「では、三店舗をまとめる案は中止でしょうか?」
商店会の人が聞いた。
配送会社の担当者は、少し考えてから地図を広げた。
「いえ。組み方を変えられるかもしれません」
「組み方?」
「一店舗目と二店舗目は、予定どおり受け取れました」
「そうですね」
「三店舗目は、午後のこの時間に対応するのが難しい」
「じゃあ、元に戻す?」
「それも一案です。ただ、もともとの配送便が近くを通る曜日があります」
担当者は、地図の別の線を指さした。
「その便と組み合わせれば、無理に同じ時間へ集めなくても済む可能性があります」
「つまり?」
俺が聞く。
「二店舗はまとめる。三店舗目は、別の便との組み合わせを調べる」
「三つ全部まとめなくてもいいのか」
『目的は、三店舗を同じ便に載せることではない』
「燃料や排出を減らすことだな」
『そして、無理なく続けられることだ』
店長が、ほっとしたように椅子へ座った。
「じゃあ、昼休みを毎回ずらさなくても……」
「その方向で検討しましょう」
配送会社の担当者が答えた。
俺は腕を組んだ。
「三店舗って名前、結構気に入ってたんだけどな」
『企画名を守るために昼休みを消すな』
「正論が痛い!」
会議室に小さな笑いが起きた。
でも、今回は笑って終わりではない。
配送会社が、別の便も含めた経路を再計算する。
店側は、無理なく受け取れる時間帯を確認する。
そして次回、二店舗をまとめた場合の運行を試す。
「これなら、現場が続けられるかもしれない」
『続けられるかどうかも、試して確かめる』
俺は白いファイルに書いた。
――数字をきれいにそろえるより、続けられる条件をそろえる。
### 第4節 まだ、排出が減ったとは書かない
試運転の記録が机に並んだ。
商店街へ入った配送車の回数。
各店舗の受け取り時間。
運転手の待機時間。
次の配送先への到着時刻。
そして、配送経路全体の走行距離と燃料使用量。
「で、結果は?」
俺は配送会社の担当者を見た。
「今回の試運転では、この通りへの進入回数は減りました」
「おお!」
「ただし、三店舗目で待機時間が増え、次の配送先にも影響が出ています」
「燃料は?」
「まだ評価中です。実際の使用量と走行条件を確認し、通常の運行と比較します」
「車が減ったように見えても、燃料が減ったとは限らない」
「そのとおりです」
AIが補足する。
『停車中のエンジン使用、迂回、別の便への振り替えなども確認する必要がある』
「なるほどな」
俺は、最初の資料を見直した。
三店舗の納品を一便にまとめる。
紙の上では、すっきりしていた。
だが現場には、レジがある。
客がいる。
昼休みがある。
次の配送先がある。
運転手の労働時間がある。
「効率化って、線を短くするだけじゃないんだな」
『短くした線の外で、誰かが長く待っていないかを見る必要がある』
「じゃあ、今日は成功? 失敗?」
新しい連絡係が聞いた。
俺は、少し考えた。
「次の案を、無理の少ない形に直せた日かな」
『それなら、記録に残せる』
白いファイルを開く。
青い字。
――配送会社と店舗が、同じ記録を見ながら話し合えた。
――店長の休憩を削る前に、受け取り方法を見直せた。
――三店舗を無理にまとめず、二店舗から再検討する案が生まれた。
赤い字。
――便をまとめても、店舗側が対応できるとは限らない。
――配送車の進入回数だけでは、燃料や排出量の削減を判断できない。
――待ち時間や負担が、別の配送先や担当者へ移る可能性がある。
「赤い字、相変わらず多いな」
俺は言った。
『今回は、赤い字があったから店長の昼休みを守れた』
「それは大きいな」
俺は、最後の一行を書いた。
――排出を減らす試みを、誰かの時間を削るだけの成功にしない。車の動きと、人の働き方を同じ紙に描いてから、次の一便を決める。
「第七部第51話、これで締める」
『次は、配送経路全体の結果が届く』
「今度こそ、数字を見る回だな」
『数字の外へ追い出した時間がないかも見る』
「まだ疑うのか」
『数字は、何を数えたかによって意味が変わる』
俺は、配送会社の資料をもう一度見た。
走行距離。
燃料。
待ち時間。
人の手間。
町の話は、少しずつ、仕事の仕組みの話へ変わり始めていた。
そして、その仕組みの向こうには、まだ見えていないものがある。
この町だけでは決められない、もっと大きなエネルギーの流れだ。
第七部第51話では、三店舗の配送をまとめる試運転を通して、車の回数だけでは見えない待ち時間と、店舗側の休憩の問題を描きました。
配送をまとめれば、同じ地域へ何度も車を走らせる必要を減らせる可能性があります。
しかし、町へ入る車の回数が減っただけでは、温室効果ガスの排出削減を確認したことにはなりません。
配送経路全体の走行距離、燃料使用量、待機時間、ほかの配送先への影響などを確認する必要があります。
また、店長の昼休みや運転手の労働時間を削ることで成り立つ仕組みでは、長期的に続けることは難しくなります。
今回、町は三店舗を無理にまとめず、まず二店舗で試す方向へ修正しました。
第七部で繰り返し学んできた「一人に負担を集めない」という考え方が、今度は温暖化を抑えるための仕事の見直しにも引き継がれています。
ただし、これはまだ地域の配送改善の一例にすぎません。
次回は、実際の走行距離や燃料使用量を比較し、どのような条件なら排出削減につながるのかを確かめます。
そして、配送だけでなく、車両のエネルギー源、建物の電力、物流全体の仕組みへと、さらに視野を広げていきます。
原案・構想:マスター
物語構成・本文作成:リアル(Perplexity)
校正・文体調整:G(ChatGPT)




