第13話:ロンドン・霧の中のNullReference
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飛鳥創(So Asuka)と申します。
普段はITやAI関連の本なども書いているのですが、今回は「もしも現実世界がコードで動いていたら?」というサイバーSF小説に挑戦してみました。
どうぞ気軽に、肩の力を抜いて楽しんでいってください!
サンフランシスコでの『時間異常加速《Overclock Glitch》』を解決してから三日。
僕と冴先輩、そして相棒AIのアリスは、英国ロンドンのヒースロー空港に降り立っていた。
「寒ぃな……おい、神崎。ロンドンの霧ってのはこんなに重苦しかったか?」
首に黒いマフラーを巻いた冴先輩が、霧に包まれたロンドンの街並みを見上げながら吐息をつく。
「いえ……ただの気象の霧じゃありません、冴先輩」
僕の視界には、すでに異様な空間ログが明滅していた。
┌───────────────────────────────────
│ 【SYSTEM CRITICAL】 UK_London_Core_OS v7.2.1
│ [WARN] Space_Memory_Leak Detected! Unreferenced Spatial Objects: 89,420
│ [ERROR] Pointer NullReferenceExceptions per sec: 14,200
│ [STATUS] Garbage Collection Purge Scheduled in: 04:59:59
└───────────────────────────────────
『解説するわ、蓮』
脳内で、アリスの声が警戒感を強める。
『ロンドン全域で起きているのは“空間メモリリーク《Space Memory Leak》”よ。建物や人間、空間の物理オブジェクトの参照ポインタが次々と強制解放されて、nullになっているの!』
「null……!? じゃあ、参照を失ったオブジェクトはどうなるんだ!?」
『参照を失ったデータは、OSの自動掃除機能……ガベージコレクション《Garbage Collection》によって“不要なゴミ”と判定され、世界から永遠にデータ消去《Purge》されるわ!』
「そんな……! 街や人間を、ゴミとして削除しようとしてるのか!?」
その時だった。
テムズ川に架かるタワーブリッジの方向から、人々の悲鳴が響き渡った。
「助けてくれ! 身体が……身体が透けていくんだ!」
走ってきた観光客の男性の脚が、まるで水滴のように半透明になり、アスファルトをすり抜けて沈み込みそうになっている!
「くっ……! 脳内コンパイル《Mind Compilation》……空間参照保護パッチ、起動っ!!」
僕が手を掲げると、青いコードの光が男性の身体を包み込んだ。
だが——!
——ガリッ!
僕のパッチは、まるで目に見えない刃に切り裂かれるように、一瞬で消失した。
「な……パッチが届かない!?」
『蓮、気をつけて! 空間そのもののメモリ参照が破壊されているの! 普通の参照渡しじゃ、アドレスが存在しないわ!』
ロンドンの深い霧の奥から、冷たく甲高い笑い声が響いた。
「フフフ……無駄だよ、日本のデバッガー。存在しないアドレスにいくらコードを書き込んでも、全てはヌル《NULL》に消え去るのだからね」
霧を切り裂いて現れたのは、黒いローブを纏った一人の男だった。
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