#最終話 Thinking Wars
#最終話 「Thinking Wars」
―――――旧長野県では―――――
元ブラックマイスター首領である中仙道 武雅と、
死んだはずのブラックマイスター団員である明慶 司は、
互いに宿敵と手を組み、九州Qtainこと
鎧方操帝キュービスティック・エントロピーと臨戦している。
中仙道が変身するのは
2.5m越えの巨大な海獣、
臨世刑海獣エネルゲイヤ・リヴァイアサン。
明慶が変身するのは
銀色に赤いラインが目を引く、
聖幻獣スカーヴァティ・ユニコォン。
「食らいやがれ!!」
リヴァイアサンの拳が九州Qtainの操る
キューブ・スコルピオに命中。
キューブ・スコルピオは立方体となって空中に飛散するが、
再度元の形状へと再生する。
「上手いこと衝撃を吸収していますね。
ただ力任せに攻めても破壊できません。」
ユニコォンはリヴァイアサンの背後から助言する。
「お前も、俺も列記としたパワータイプだろ?
ならば、俺たちに残された手は一つしかない!
”力任せ”だ!」
「それじゃあダメだって言ってるのに・・・。
まぁ・・・それが中仙道様らしいと言えばそうですね。
仕方ない。」
ユニコォンはその場からとんでもない脚力で空高く跳躍すると、
ちょうどリヴァイアサンから見て
九州Qtainを中心にして反対側へと降り立つ。
「2方向から攻撃すれば倒せると思った?」
九州Qtainがそう呟くが早く、
彼女の武器であるキューブ・スコルピオが立方体に散らばり、
彼女を円形に取り囲む城壁の如く変形する。
「中仙道様!今です!」
「お、おう!!」
中仙道はよく分からずも、
九州Qtainの城壁へと向かって走り出した。
「バッチリです。」
ユニコォンもそれを確認すると
反対側から城壁に向かって接近する。
「死ねえええええええ!!」
リヴァイアサンは右手の拳にこれでもかという程に力を込め、
彼の全体重を乗せたパンチを城壁に向けて繰り出す。
「フッ。」
対するユニコォンはメタリックレッドに輝く右脚に力を込め、
城壁に向け、加速の勢いを乗せた渾身の回し蹴りを繰り出した。
アトラクター2人の攻撃は同時に城壁へと命中し、
凄まじい衝撃が空気中に伝わる。
刹那、城壁はガラスの如く崩れ去り、
内部の九州Qtainが姿を現す。
「そんな事が・・・!?」
・・・リヴァイアサンの拳には地震を引き起こすほどの力があるが、
ユニコォンの蹴りも、それと同等な瞬間火力を発揮していた。
驚きのあまり固まる九州Qtainに遠慮もせず、
2人はまっすぐに彼女へと向かっていく。
「これでッ!」
「グッドラックだぜええええええッ!!」
再度、リヴァイアサンの右拳と、ユニコォンの右脚が、
寸分の狂いなく九州Qtainを同時に捕らえる。
瞬間、まるで風船が破裂するように、
アーマー片と血肉の塊が周囲に飛び散った。
「・・・円形に構築してしまえば、
直径の両端から同時に攻撃を受けることで衝撃吸収が機能しなくなります。
彼女が自由にパーツが分離するサソリ型メカのまま攻撃を仕掛けてきていれば
戦況はもっと厳しいものになっていましたね。」
ユニコォンは変身を解き、
明慶へと戻る。
「俺はそんなこと考えていなかった。
とにかく力で押し切ることしか頭になかったな。」
中仙道も同じく人間の姿へと戻っていた。
「フッ、よくあなたみたいな人がこんな世界で生き残れていますね。」
そう言う明慶の身体は、
段々と色が薄くなり、
まるで背景と同化していくような状態だった。
「どうやら、俺の元の世界に戻れるようです。
俺がここにいるのは奇跡のようなものですからね。」
明慶は顔は笑っていたが、
口調はどこか寂しそうな様子を醸し出していた。
「・・・もう中仙道様と会うことはないでしょう。
私の世界の中仙道 武雅は亡くなっていますから。」
「それは、お互い様だな。」
中仙道は右手の拳を突き出した。
「まぁ、またヤバい時には力を貸してくれ。
今回の件は感謝する。
俺は俺で理想の世界を作るから、
お前もお前で自身の望む世界を作れ!」
彼の呼び掛けに反応する形で、明慶も同じように右拳を突き出した。
「その幼馴染感覚、何なんですか。
もう会う事はないと言ったばかりでしょう。
・・・それに、あなたに言われなくてもそうしますよ。
中仙道様も早死にしないよう、
もう少し慎重に考えて、行動してください。」
2人の拳が重なったその瞬間、明慶は完全にその場から見えなくなった。
中仙道はそれを見届けると、
旧バーバレス基地の入り口へと向かって歩き出した。
彼のミッションはブルート製造機構の破壊であるが、
既にリヴァイアサンが起こした地震の衝撃で基地は潰れており、
かつ、ブルートの発生は止まっているため、
ほぼ完遂していると言っても過言ではない。
彼はブルートの発生から世界を守ることに成功したのだった。
―――――旧福井県では―――――
「デ・リイイイイイイイィィィィィィィト!!!」
城ヶ崎こと
フォーサーレベルMAX態、
”レボリューショナリー・プロディジー”が叫び、
彼の両手は拍手の格好で閉じられる。
周囲を業火の海へと帰する最強ブルート、
アーデント・サジタリウスの身体が数ミリ単位で圧縮されたが、
すぐにまた元のサイズへと戻る。
「クッ・・・やはり、私のアビリティでも、
あのバーニングモンスターにはワークしない!」
城ヶ崎は後退しながら、何度も同じ動作を繰り返す。
・・・通常の敵であれば、
どんな相手でも一撃でプレスして有無を言わさず絶命させる能力を持つ技が、
サジタリウスには意味を成さない。
これにはさすがの城ヶ崎も腰を抜かしていた。
「上戸鎖!まだか!
もうタイムアウト直前だ!!」
彼の後方で膝立ちしている上戸鎖へと問う。
「・・・もうすぐです。あと・・・30秒!!」
上戸鎖こと
フォーサーゼイアー態、
”トランセンデンタル・オーガナイザー”が答えた直後、
サジタリウスから矢が発射される。
「もう何回目なんだか・・・デリィィィィィト!!」
気怠い様子で、城ヶ崎はその矢に向けて両手を伸ばし、
拍手の要領で閉じる。
すると、矢の軌道がやや上方向に逸れ、
彼らの遥か後方へと向かって飛んでいった。
「無駄な真似を・・・。貴様らは間もなく我に吸収されて一つになる。
共に目指そうではないか。”神”という高みへと。」
サジタリウスは燃える道をまっすぐに、
一歩ずつ確実に前進する。
サジタリウスは既に彼らまであと320mほどの距離まで迫っていた。
「・・・”神”で良いのでしょうか?」
「?」
上戸鎖は膝立ちの状態で下を向いたままそう呟く。
「私は・・・いずれ”全てを支配する”存在です!
そこの社長や、サジタリウスですら、神すら超える最強の存在!!
私の方が・・・確実にポテンシャルがあるんですよ!!」
上戸鎖はそこで勢いよく跳躍し、
上空に手を伸ばした。
すると、何もない空間から一筋の光が飛び出し、
物凄いスピードでサジタリウスへと直進していく。
「無駄だ。我に近付くものは全て熱分解する運命。
この鉄壁の防御が崩れる訳が」
次の瞬間、サジタリウスの歩みが停止した。
「な・・・何が・・・起きた?」
サジタリウスは恐る恐る自身の胸部へと視線を移すと、
そこに広がる光景に絶句する。
彼の胸部は、彼のコアを貫かれた状態で撃ち抜かれた後だったのだ。
「あ・・・あぁ・・・あああああああああああ!!!
我が・・・我が・・・致命傷を食らうなどあり得ない!!!」
着地した上戸鎖はすっと立ち上がり、
右の拳を固く握った。
「ハッハッハッハッハアアアアアアア!!
私は支配者!!たかがブルートが勝てる相手ではないんですよ!!」
「なるほどな、上戸鎖。
私はアンダースタンドしたよ!」
2体のフォーサーは苦しむサジタリウスを前に、
楽しそうに騒ぎ出した。
「なぜ・・・なぜ攻撃が通った・・・?」
サジタリウスは両膝を付き、上戸鎖に問う。
「私は、プロパンブレード等の自分専用ウェポン以外にも、
化学的組成が分かっている物体を生成することができます。
かなり時間は掛かりますがね。
あなたは私の左腕に永久に直進する矢を命中させました。
それによって私の左腕は使い物にならなくなり、
あなたの勝利は確定したかに思えた。
しかし、永久に直進する矢が左腕に触れた瞬間、
私はその”化学的組成を完璧に把握”していました。
これにより、私にも永久に直進する矢を生成する能力が備わった。」
「左腕が機能しなくなるほどの攻撃を受けると同時に、
組成を把握するための分析を行う余裕があったというのか・・・?」
さすがのサジタリウスも驚きを隠せない様子だ。
「しかし、先ほども言った通り、
私は専用ウェポン以外の物体を生成するのには
動きを停止しなくてはならない他に、非実用的なほどの時間を要します。
その隙にあなたから永久に直進する矢の攻撃を受けでもしたら、
命中箇所によっては即死していました。
・・・悔しいですが、そこのエセ外人社長のお陰です。」
上戸鎖は城ヶ崎の背中を指差す。
「ハッハッハッ!!
あのアローをインターセプトできるのは私だけだからね!!」
「・・・城ヶ崎社長の能力が無ければ敗北していたことは事実です。
ちなみに、永久に直進する矢は、
無数に連なる形で、あなたの身体にマントのようにぶら下がっています。
つまり、当然ですが、
あなたの武器は、あなたの熱放射下で熱分解しないことが分かっていました。
それに加えて、私の桁違いの観察力によって、
あなたのコアの位置は遠目からでも特定可能。
永久に直進する矢を私に掠らせた時点で
あなたは敗北への一歩を踏み出していたのです。」
彼らの楽し気な雰囲気と対照的に、
サジタリウスは両手を高速道路のアスファルトへと叩き付ける。
「・・・神を超えるのが・・・”人間”なのか・・・。
確かに、我を創り出したのも人間であった・・・。
我は・・・”とんでもないもの”に戦いを挑んでいたようだ。」
サジタリウスはそのまま灰化するように黒くなり、
粉末状になって地面へと散乱した。
コアを破壊されたブルートには生存する手段がないのだ。
「チャリティーをしてやろう!」
城ヶ崎はそう言いながら、両手を広げて前方へと突き出すと、
恐るべきことに、瞬時に業火の海が鎮火されたのだった。
「使い勝手の良い能力ですね。」
「ハッハッハッ!!
私の能力は任意対象を空間ごと切り取って
そこにテレキネシスを作用させるものなんだ!!」
「・・・ようやく、終わりました。」
上戸鎖は変身を解き、
そのまま仰向けの姿勢でアスファルトへと転がった。
「ハッハッハッ!!随分とディフェンスレスなものだ!!」
そう言いながらも、城ヶ崎も変身を解く。
「この世界の私を殺したところで、あなたに何の利点もありませんからね。」
「ザッツライト、だな。」
そこから20秒ほどの沈黙の後、
上戸鎖はやおら起き上がり、
微笑を浮かべながら周囲を見渡した。
2人は崩壊した高速道路と、
消化された煙がモクモクと沸き立つ森林を眺める。
彼らの中には、間違いなく”世界の危機”を救った実感があった。
「たぶん、これでハピリーエヴァーアフターじゃないんだろう?
上戸鎖。」
沈黙を破ったのは城ヶ崎だった。
「ほう、よくご存じで。
しかし、他の地方の雑事は仲間に任せてあります。
まぁ、こちらの方がおそらく圧倒的に過酷な任務でしたよ。」
上戸鎖は自身の動かなくなった左腕を右手でさする。
「ハッハッハッ!!”仲間”とはね!
変わったな、上戸鎖!!」
「そうでしょうね・・・。
1人で実現できないことも世の中にはあります。」
「それが支配者のセリフとはね!!」
「他人の力を借りる支配者がいても、
不自然ではないでしょう?
過去の歴史を見ても。」
「ザッツライト!!
私も、私の世界では仲間に頼りっぱなしなところはあるよ。
あらゆるチャレンジはチーム戦なんだ!!」
城ヶ崎がそこまで言ったところで、
彼の身体は段々と透過し始めた。
「ハッハッハッ!!
どうやらザタイムハズカムのようだ!!」
城ヶ崎は満面の笑みを浮かべる。
「上戸鎖!!お前が支配者なら、
私はその支配者よりもストロングな存在になるよ!!
ハッハッハッ!!」
「・・・ならば、私はそのストロングな存在の支配者になりますよ。」
上戸鎖はそう言い、鼻で笑った。
「ハッハッハッ!!それは面白い!!
その時には今度こそセトルメントを付けよう!!」
「はい、喜んで。
それでは・・・お元気で、城ヶ崎社長。」
城ヶ崎はサムズアップを上戸鎖に向け、
「グッバイ」とだけ呟き、姿を消した。
「来てくれて助かりました、城ヶ崎社長。」
上戸鎖は数秒前まで
城ヶ崎の立っていたところに最後の挨拶をすると、
右腕に体重をかけて立ち上がった。
彼はそのまま踵を返し、高速道路の元来た方角へと
ヨタヨタと歩き始めるのだった。
―――――旧岩手県では―――――
現在、廃校となっている北川高校の校庭では
この世界の明暗を分ける戦いが繰り広げられており、
それを陽遊 基は校庭の傍らから見守っていた。
「うあああああああああ!!!」
北川高校の校舎の壁にめり込んだ岡本は突如叫んだ。
両肘の突き付けによる衝撃で校舎を破壊し、
壁から抜け出すと、そのまま破片と共に落下し、着地した。
「俺は・・・俺は犠牲を以てこの世界に平和をもたらす!!
かつて伊集院 雷人がそうしたように!!」
岡本が右手を高く上げると、
突然、空の彼方からヘリコプターのプロペラ音が鳴り響く。
校舎の裏から金色を基調とするヘリコプターが出現し、
彼の頭上で2つの黒い棒状の物体を落下させる。
岡本はそれをすかさず両手でキャッチすると、
再び戦闘態勢に移行する。
彼が手にしたのは巨大な黒い斬馬刀のようなウェポンと、
黒い長刀のようなウェポンである。
両手にそれぞれ握っている。
「ほう、それはDSアゲインとDPリゲイナー。
そこまで私の開発品に頼られるとは、逆に心外だ。」
伊集院 雷人は彼の様子を見て呟く。
岡本が使用しているアーマー、
クリエイター・ノヴァイ、
および彼が両手に握る武器、
加えて、アイテムを落下させた金色のヘリコプターは
全て伊集院 雷人が過去に開発したものである。
「俺はアンタを超えられなかった。
だからこそ・・・過去のアンタの思想を完成させてみせる!!」
瞬時に岡本の姿が金色の残像となって消える。
「もう、何を言っても無駄という訳か。」
伊集院は自身の拳でバックルを叩く。
《Which "Laws Breakers" technology will you use?》
「”コマンダー”!」
伊集院が纏うアーマーが、
ドミクロン・シグマの初期状態へと戻り、再度変形を開始する。
マントが皮膚に吸い込まれるように消え、
全身が筋肉質な強化皮膚へと変化する。
両手には、持ち手から先端まで
燃える炎の刹那を切り取ったような形状をした、
漆黒の槍をそれぞれ握っている。
《Commander's Speed!!》
次の瞬間、岡本の斬馬刀による斬撃が
伊集院の顔面に迫るが、
両手の槍でそれを弾いた。
「その姿は・・・!?」
岡本は声色を変えてそう訊く。
「お前もよく知っているだろう?
”時柳宋 衛久守”、
バーバレスの怪人である”コマンダー”の力だ。」
伊集院は両手の槍を構え、
それでも瞬時に岡本の手前まで移動する。
しかし、ツヴァイブレインを発動している岡本は、
その動きに素早く反応し、防御の姿勢を見せずに超高速の攻撃を繰り出す。
2人の戦いは、もはや一般人から見れば
黒色と金色の”閃光”にままならない。
10秒ほどで金色の閃光は勢いよく地面へと激突し、
仰向けの状態になる。
「くっ・・・なぜだ・・・。
俺が使っているのはツヴァイブレインだぞ!!
これでも力不足だというのか・・・!?」
岡本はすぐさま立ち上がろうとするが、
すぐに仰向けの状態で再度倒れる。
「ここで・・・諦める訳には・・・!」
力を込めるあまり震える岡本に、人影が被さった。
「なぜ私に勝てないか、分からぬようだな。」
伊集院は仰向けの岡本を
彼の足元の方から見下ろしていた。
「人間一人の力など底知れている。
お前がいくら私の開発品に頼ろうとも、
過去に囚われて、かつての私の”古き思想”に拘る限りは、
最新の私には勝てない。
・・・かつての私は他者を上手く利用し、
自分の思想を貫き通すことしかしなかった。
だから、15年前のあの日、私はお前に負けた。」
伊集院はまるで
過去の自身の過ちを悔やむように静かに言った。
そして、自身の腰に巻いたドライバーを外し、右手に握った。
・・・もう彼にこれ以上の戦いを続ける気はなかった。
「・・・そういうアンタも、
そのドミクロン・シグマっていうアーマーは
他のローズ・ブレイカー達の力を利用して戦っているんだろう?
俺と何も変わらない!!」
岡本はそう言い、アーマーを纏ったまま
やおら立ち上がるが、
先ほどのダメージが蓄積されているのか、姿勢が保てないでいる。
「私はローズ・ブレイカー達から細胞と共に”思想”を託された。
私には彼らの思想をも継承する責任がある。」
「そういうことなら、俺にも過去のアンタの思想を継ぐという責任がある。」
「この世界の私は、過去にお前に対して
”私の思想を継ぐよう”に懇願したのか?
これは完全に私の推測だが、そんなことはなかったのではないか?」
伊集院の問いかけに、岡本は沈黙するしかなかった。
・・・岡本は伊集院が戦死する直前、
岡本自身の思想を貫くように懇願されていたのだ。
「俺も・・・勝手に俺のかつての思想を継ぐことなんて許可していない!!」
岡本は傍らに転がっていた自身の斬馬刀を瞬時に拾い上げると、
目の前にいる生身の伊集院目掛けて振り下ろした。
「お前は・・・15年前の岡本 龍星は
何のためにわざわざ私を倒しに東京のアブソリュート・アーツ社まで来たのだ?」
伊集院は回避の姿勢すら見せず、
腕組みをした状態で岡本を見据えている。
「何のために15年前の私を倒し、
何のために巨大テロ組織バーバレスと戦い、
何のためにオメラス計画とやらを遂行していたんだ!!
目を覚ませ、岡本 龍星!!」
伊集院の叫び声が校庭に響き渡る。
それと同時に、斬馬刀による斬撃の衝撃が
土煙を巻き上げた。
土煙は風に巻かれて5秒ほどで消え去った。
そして、その後には2人の人影が向き合っていた。
「・・・無理だ・・・。なぜ・・・ここまで来て・・・!!!」
岡本はその場で跪くと、
ベルトを投げ捨て、変身を解除した。
そして、すぐさま四つん這いの姿勢になり、
目には涙を浮かべ、
何度も何度も校庭に向かって両手の拳を振り下ろす。
・・・目の前の悔やむべき結果は、
彼自身の甘さが招いたことであることには変わりなかった。
しかし、それは紛れもなく彼自身の本心であった。
それを自覚することで彼はますます悔しさを抑えられない状態に陥った。
「お前は仲間を失い、信じた者には裏切られ、
もしかすると、私以上に壮絶な過去を経験したのだろう。
しかし、お前の行動理念の核心は、
”1人でも多くの悲しむ人間を減らす事”だったはずだ。
私を倒したのも、バーバレスを倒したのも、全てはその目的のための手段だろう?
それなのに、15年後の、今私の目の前にいる岡本 龍星は
犠牲を望むのか?それでお前の望む平和は訪れるのか?
・・・誰よりも痛みを知っているお前だからこそ、
犠牲なんて求めない平和を成し遂げられるはずだ。」
伊集院は、必死に校庭に拳を叩き付ける岡本の
すぐ目の前で、諭すように、そう告げた。
「俺は・・・俺は・・・。
間違っていたのか・・・?」
拳を止めた岡本は肩で大きく呼吸をしながら
四つん這いのまま、伊集院を見上げた。
その表情は、涙でぐしゃぐしゃだ。
「いや、お前は、岡本 龍星は最初から間違っていなかったのだ。
お前の唯一の間違いは、”正義の味方”に成り上がろうとした点だろう。」
伊集院は目を閉じてそう呟く。
・・・それはまるで、彼自身にも呼び掛けるような口調だった。
「私は、15年前に岡本 龍星に負け、
その後、バーバレスとの戦いを通して考えた。
他者を押しのけ自分の正義を貫く姿勢は、争いしか生まない。
・・・人間は間違いだらけの生き物だ。
【正義の味方】になることなど、到底目指すべきではない。
正義の味方は自分のエゴを貫き通す”言い訳”だ。
本当に必要なことは、
【正義の”見方”】をより多くの人間がより深く考え、
他者と思想対立し、
時に自分の思考を転換し、
他者の力を借りて、共に共通の平和へと歩むことだ。」
伊集院はそう言い終わると、
踵を返し、四つん這いの岡本に背を向けた。
「時が来たようだな。
これが、正真正銘の”お別れ”という訳だ。」
彼はそう言いながら、一歩、また一歩と
岡本から離れていく。
「伊集院・・・!!」
離れていく伊集院の背中へと、
岡本は急いで立ち上がり、泣きじゃくりながら叫んだ。
「・・・俺は・・・アンタに負けないように、
平和な世界を創り上げてみせる!!
いつか、違う世界で生きているアンタにも届くように!!!」
その声を、立ち止まらず聞いていた伊集院は、
岡本に届きそうな、それでも風に掻き消されそうな声量で
ゆっくりと返答した。
「フッ・・・もう迷うな。
この世界は任せたぞ、岡本 龍星。」
その言葉を最後に、伊集院 雷人は
空気と同化するかの如く、姿を消したのだった。
「・・・ありがとう・・・伊集院!!」
岡本が叫んだ直後には、
それに答えるが如く、暖かい春風が辺り一面に吹き渡った。
岡本の顔には無数の涙が溢れていたが、
紛れもない笑顔だった。
それは、彼が5年ぶりに見せた、心からの笑顔。
伊集院、つまりは
過去の岡本自身からの贈り物だ。
「正義の”見方”・・・か。」
そう呟く岡本を確認し、
先ほどの戦いを観戦していた
陽遊 基は笑顔を浮かべる。
「もう、迷いはないって顔だな!岡本さんよ!」
彼の身体は、もう岡本からは見えていないらしく、
返答することはなかった。
「もう遮断されちゃったか。
まぁ、これで世界の危機は免れたという訳だ!
欲を言うなら・・・俺も思想対立に参加したかったけどな!」
陽遊 基は僅かに残念そうな笑顔を見せると、
踵を返し、そのまま校舎を後にした。
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・・・俺は大切なことを忘れていた。
俺は、自分が伊集院の思想を継ぐために
命をかけて作り上げた計画を、
伊集院自身によって瓦解させられた。
アンタの意思を継ぐための計画・・・。
それがこの”オメラス計画”だった。
しかし・・・”理想郷オメラス”は今日限りで崩壊する。
俺は自分の中に、”新たな希望”を見つけられたから。
人は誰でも理想を抱く権利がある。
その理想は時に他者との違いを生み、
その違いが原因で争いが起きる事もある。
でも、この世はそうやって成り立つべきだ。
そう・・・思想対立によって。
#最終話 「Thinking Wars」 完結
お読みいただきありがとうございます!!
2017年から書き始めて、
今回でようやく最終回となりました!
【正義のミカタ】シリーズ自体は
2012年(作者が高校2年生)から書き進めていたので、
8年越しのシリーズ完結となりました。
”正義の味方”をテーマに、
各個人の思想対立を描いたシリーズとなりました。
シリーズ通して読んでいただけると、
各個人がどのような環境に置かれ、
どのように思想が変わっていったのかが読み取れて面白いと思います。
一応、本作品・本シリーズは
次のエピローグで完結となりますので
あと1話、宜しくお願い致します!




