#第43話 Breaking Laws
#第43話 「Breaking Laws」
―――――サジタリウスに挑む上戸鎖は―――――
「私は・・・支配する側の人間だああああああああああ!!!」
上戸鎖ことトランセンデンタル・オーガナイザーは
左腕を失ってもまだ立ち上がり、
普段のクールな彼の印象からは想像もできない程の声量で叫んだ。
・・・300mほど先に迫るサジタリウスから
彼が距離を取ろうとした、その瞬間だった。
突然、彼はまるで糸にでも引かれるように、
後方へと引っ張られた。
無抵抗のまま宙を舞いながら、100m、200mとサジタリウスとの距離が離れていく。
時速100kmほどのスピードは出ている。
「クッ・・・何が起きているのですか・・・?」
上戸鎖はサジタリウスの技かと思い、彼の体勢を気にするが、
先ほどと変わった点は特にない。
むしろ、周囲を警戒しているのか、首が左右に動いているところを見ると、
サジタリウスの技による効果でないことははっきりしている。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
2kmほど離れたくらいで、私は背中から地面に落下する形で停止し、
先ほどの戦いで蓄積された極度な疲労とダメージで
オーガナイザーへの変身が自動解除された。
しかし、すぐ背後に何者かの気配を感じ、
よろめきながらも力を振り絞って瞬時に起き上がった。
「あ・・・あなたは・・・!?なぜ生きている・・・!?」
紫紺のスーツを身に纏った、170cmほどの背丈の男。
頭髪は白髪の短髪で、顔には満面の笑みを浮かべている。
私は確実に目の前の男を知っている。
しかし、その男が目の前にいる理由だけは
どうしても理解できなかった。
「城ヶ崎 厚・・・!?」
「ハッハッハッハッ!!
なぜ上戸鎖がリブしているか分からないが、
これはビーサプライズドだね!ハッハッハッハー!!」
・・・5年前、レボリューショナイズ社の社長だった城ヶ崎 厚は
自社が開発したHR細胞を用いて、
全人類をフォーサー化する計画を企てていた。
そして、弱者を全員殺害することで努力のいらない世界、
「アンチエフォート世界」を実現することが目的だった。
私は当時レボリューショナイズ社の研究員として働いていたが、
違う目的で城ヶ崎を利用しようとしており、
あるタイミングで彼と戦うことになった。
その際、私は城ヶ崎を倒せなかったが、
彼は、私ではなく、城ヶ崎に強い恨みを抱いた他の人間に殺害された。
いずれにせよ、彼は死んでいるはず。
なぜこんなところに現れたのだろう?
「城ヶ崎社長、あなたは、5年前に死んだはずです。」
「それはこっちのセリフだよ!ハッハッハッ!!
上戸鎖、君は5年前にダイしてるんだ!」
・・・私が5年前に死んでいる?
「となると、あなたが狂っているのではないならば、
歴史が違う世界から来た、ということでしょうか・・・?」
「ほう、それはベリーインタレスティングだね!!ハッハッハッ!!」
偽物の線も十分に考えられるが、
彼の無垢な笑顔と、変な英語交じりの言葉は、生前のままで、
確実に城ヶ崎 厚本人であることは疑いようが無かった。
「そんなことより、あのバーニングモンスターは何なんだい?」
城ヶ崎は1.5kmほど前方に迫るサジタリウスを指差す。
「アーデント・サジタリウス。正真正銘の最強ブルートですよ。」
「ブルート・・・?ワッツミーニングだね。
やはり、私は他のワールドラインに来てしまったということか・・・。」
そう言い、彼の顔から満面の笑みが消えた。
「私はね、負ければ存在意義を失うのだよ。」
・・・確かに、城ヶ崎の思想は特殊だ。
彼は自分に留まらず、他人の努力までをも嫌う。
彼は、才能がない人間が努力しているのを見るのが
堪えられないというのだ。
つまり、一度でも彼が誰かに負ければ、
彼自身にも価値がなくなってしまう。
なぜなら、負けた相手に対して努力して勝ったところで
努力は彼にとって無意味なのだ。
だから、努力せずに、持ち合わせた才能だけで、
どんな敵にも初見で勝たなくてはならない。
・・・とんでもない”縛りプレイ”だ。
「そんな思想をよく貫けましたね。
社長になるだけのメンタルは兼ね備えているのでしょう。」
「ハッハッハッ!!上戸鎖、お前も支配とかなんとか言って、
私から見たら十分アブノーマルだがね!!
さて、私はあのバーニングモンスターとファイトするが、
お前はどうする?」
・・・サジタリウスと戦うだと?
「随分と気軽にその言葉が口から出ましたね。
あんな化け物を相手するなんて。」
「上戸鎖、お前は怖いならウェイトしたまえ。
私がソロで仕留める。」
「何・・・?
あれは私の獲物です。
私が1人で倒します!
私はヤツを倒さないと自分の存在意義が果たせない・・・。
ヤツに支配されることだけはあってはならないんですよ!!」
そこで私は自分の言葉を脳内で反芻した。
・・・実のところ、私も城ヶ崎と同じくらい
”縛りプレイ”が好きなのか。
我ながら、困った男だ。
「それはミートゥーだね。
私もあのバーニングモンスターを放置することはできない。
私も1人でアレをディフィートする必要があるんだ!
存在意義のためにね!!ハッハッハッ!!」
「お互い大変ですね。意地っ張りは。
城ヶ崎社長、あなたも薄々気付いているでしょう?」
「あのモンスターは、バーダンだね。」
城ヶ崎の顔から笑みが消えた。
「今だけは自分のルールを破るしか
ないのではないでしょうか?」
私は、自分の口からその言葉が出てきたことに驚いた。
「ハッハッハッ!!まさか上戸鎖がそんなことを
セイするとはね!!
まぁ、グッドアイデアと言っておこう。
私も今日はブレイキング・ローズの気分なんだよ!!」
そう言い、城ヶ崎は両手を広げて空を見上げた。
「変身!!ハッハッハッ!!」
城ヶ崎の身体は白い硬質皮膚で覆われ、
細身の宇宙人のようなフォルムに変化する。
次に、頭部は口以外の範囲が全て紫紺の強化装甲で覆われる。
強化装甲は後頭部から背中にかけて広がり、
背中から両腕と両脚を覆うように構築されていく。
腕と脚の先端は白い硬質皮膚が露出したままで、
手足それぞれの機能は失っていない。
まるで紫紺の粘土を頭から被ったようなフォルムだ。
「見たまえ!!これぞフォーサーの完成形態!!
フォーサーレベルMAX態、
”レボリューショナリー・プロディジー”だ!!」
・・・フォーサーレベルMAX態というのは何か分からない。
しかし、彼には彼なりのストーリーがあるのだろう。
彼が生き伸びた世界でのストーリーが。
見た目からはそこまで恐ろしい戦闘能力を感じることはないが、
城ヶ崎は元々”テレキネシス”を操るフォーサーであった。
それが元と比べ物にならないほど大幅に強化されていると考えれば、
非常に強力なフォーサーであるに違いない。
「さて、上戸鎖も変身したまえ!」
「言われなくてもそうしますよ。
・・・ジェネレイト!!」
私の身体は黒い強化皮膚で覆われ、
頭部には前方から後方にかけてV字型の装甲が装着される。
顔面は銀色に発行する目に代わる1本線のパーツのみで、
それ以外は強化皮膚に覆われた。
両肩からは黒いオーブが生え、
DNAの螺旋構造を模した白い模様が左右対称に刻まれる。
「ハッハッハッ!!見たことがないアピアランスだね!!」
「フォーサーゼイアー態、トランセンデンタル・オーガナイザーです。」
再変身したものの、当然ながら、
先ほど大ダメージを与えられた左腕は動かない。
しかし、その代わりに今回は戦力が追加されている。
・・・かつて殺し合いをしたはずの2体のフォーサーは立ち並び、
迫り来る強敵サジタリウスを見据える。
「城ヶ崎社長、時間稼ぎをお願いします。
私はヤツを倒せるであろう方法を既に見つけているのですが、
その準備には最低でも5分以上必要になります。」
「ハッハッハッ!!それはグッドだね!!
しかも社長を使うなんて上戸鎖らしいじゃないか!!」
「”元”社長です。」
次の瞬間、サジタリウスの永久に直進する矢、
”アルナスル”が私たちのちょうど中央を通過した。
緊張感が先ほどの状態まで一気に引き上げられる。
「なるほど、非常にリスキーなエネミーだね!」
城ヶ崎は顎に手を当て、
考え込む様子を見せる。
と、間髪入れずに次の矢が城ヶ崎へと迫っていた。
彼は両手を広げて前に突き出し、
そのまま拍手をするかのような手の構えに移る。
「デ・リイイイイイイイィィィィィィィト!!!」
城ヶ崎が叫ぶと同時に
直進を続けていた矢は不自然に激しく振動し始める。
しかし、その動きは止まらず、
城ヶ崎の頭上1mほどを通り過ぎた。
「これはビーサプライズドだね!!
フォーサーでも何でも問答無用に押し潰すアビリティを持つんだけどね!!
まさか押し潰せないものがあるなんて!」
「しかし・・・あの矢に干渉して軌道を変えるとは・・・。」
サジタリウスの脅威については、本体も矢も
一度触れるだけで即死級の攻撃であるという点があげられる。
しかし、城ヶ崎はその矢に干渉できる。
それだけで希望が見えたと言っても過言ではない。
「さて、今から5分間だけなら、
私単独でコンファインメントしてやろうじゃないか!!
ハッハッハッ!!」
「頼みました。私は準備に取り掛かります。」
私は後方へと走り、サジタリウスから更に距離を取る。
サジタリウスからは2.5kmほど離れたであろう場所で、
私は膝立ちの状態でアスファルトにかがみ、
静かに目を閉じる。
・・・サジタリウスの本体はあらゆる攻撃を熱分解で無効化する。
そして、彼の矢は対象に命中しようが、
何者かに阻まれようが、放たれた地点から”永久に”直進する。
・・・私の思い付くサジタリウスの攻略法はもうこれしかない!!
―――――その頃、旧岩手県では―――――
オメラス計画の首謀者、
岡本 龍星が身に纏うアーマーは、
過去に伊集院 雷人が開発した
”クリエイター・ノヴァイ”。
顔は”龍”を擬人化したようなデザイン。
両肩からは金色の長いマントが伸びる。
全身を皮膚のように覆う装甲は黄金の”鱗”のような突起になっている。
対する、違う【可能性の世界】から一時的に召喚された
伊集院 雷人が身に纏うアーマーは、
岡本亡き世界で、皆の協力を得て伊集院が開発した
”ドミクロン・シグマ”。
全体の配色は黒。
顔は螺旋状に前方に突き出しているだけで他のパーツはない。
身体の中央に赤く発光するラインが通っているだけで、
大部分は黒いマントで覆われていて見えない。
見た目は伊集院が5年前に使用していた
”ドミクロン”とほぼ重なるものがあるが、
アーマーにも関わらず、表面は生物的な質感を醸し出している。
2人がアーマーを纏い、対峙する傍らで、
アーマーを破壊されてしまった陽遊 基は
黙って彼らの戦況を観察していた。
「まさか、死んだはずの
伊集院 雷人の新型アーマーが見られるとはな。」
「フッ、これは私だけで開発したものではない。
皆の力を合わせた結果生まれた、”最強アーマー”だ。」
そう言うと、伊集院は腰のバックルにセットした
円形ユニットの面を拳で押し込んだ。
《Which "Laws Breakers" technology will you use?》
ガイダンス音がユニットから流れる。
「”フォーサー”。」
伊集院が応答する。
《Certified!!》
伊集院が装着したアーマーの表面が波打つように揺れ、
まるでカメレオンの体色が保護色で変化するかの如く、
滑らかにアーマー自体が形状を変えていく。
頭部を前方から後方にかけて挟むようにV字型の装甲が形成され、
マントには白いDNAの螺旋構造を模したかのような模様が刻まれた。
《Forcer's Technique!!》
まるで上戸鎖が変身する
トランセンデンタル・オーガナイザーのような容姿に変化したのだ。
「・・・アンタの新アーマーではフォーサーの力を使えるのか?」
岡本が訊く。
「フォーサーの力”も”使えるというのが正しい。
私は合計3種類の怪人の力を使用することが可能だ。」
伊集院は腰のバックルを指差した。
「3種類の怪人へと変身する機構を自らに仕組むとなると、
身体に掛かる負荷は相当なものになるはずだが。
しかも、アンタは5年前、脳内のHR細胞を破壊されて、
一時は死の境目を経験しているはずだ。
そんな状態で3種類の怪人の力を体内に構築することができるというのか?」
「このアーマーは”有機外装”でな。
言ってみれば、ドミクロン・シグマという
”人工怪人”を私の身体表面に展開し、
その人工怪人を、フォーサーを始めとする他の怪人へと
変身させるシステムを導入している。
しかも、その変身のために元にしている細胞は、
本人達から託された、本人達の細胞そのものだ。
つまり・・・。」
伊集院がそこまで言った瞬間だった。
突然、彼の姿が消える。
「・・・何ッ!?」
岡本は瞬時に姿勢を低くする。
と、ほぼ同時に輝く切っ先が彼の残像をなぞった。
僅か0.5秒ほど遅ければ
岡本の上半身は切り裂かれていただろう。
「アンタはツヴァイブレインを破壊されているはずだ。
なぜこれほどまでの高速移動が実現できる・・・?」
「私は他の怪人の力を、
オリジナルの戦闘能力を維持したまま継承している。」
伊集院は、いつの間にか
右手に平らな刃先を持つ剣を握り、振るっていた。
「継承・・・ということは、アンタの世界では
その仲間達は既に死んでいるということか。」
「・・・あぁ、そうだ。」
伊集院は剣の構えを解き、
直立に近い姿勢で儚げにそう答えた。
岡本は攻撃態勢に入らずに、言葉を続ける。
「つまり、アンタの世界でも過激な戦いは発生していて、
戦闘による死者が出ている状態。
しかも、アンタは仲間達の力を利用して
その戦いを鎮めようと試みている、もしくは試みた、といったところだな。
・・・結局は、アンタも力で他者を鎮圧し、
自分の求める理想の世界を実現しようとしているに過ぎない。
今の俺と何も変わらない!
他者の犠牲を以て世界平和は実現される!
それは過去にアンタが実行し、教えてくれた!
アンタは・・・今もかつての自身の思想に取り込まれている!!
俺はそのアンタの思想を完成させるため、ここまで来た!!
”オメラス計画”を進めてきた!!
今更、後戻りはできない!!
・・・認めろ、伊集院 雷人!!
オメラス計画は・・・アンタの悲願であると!!」
岡本は感情を露にしながら、
この5年間を否定された憤りを吐き出した。
「・・・私が本来いる世界では、確かに激戦は収まっていない。
今も、日々戦闘は続いている。
そのせいで私の協力者達も次々と命を失っていった。
しかし、それでも私は宣言しよう。
私の力は、”他者を従わせるためのものではない”と。」
伊集院は語気を強めた。
「私の力は、”他者に意見するための手段”だ。
他者に意見をぶつけ、
時には自分の思考を転換し、
他者の力を借りて、
自分の望む世界を、自分の周囲から広げていく。
それが今の私の望むやり方であり、15年前のあの日、
岡本 龍星が望んだ世界を作るために必要な過程だ。」
伊集院がそう口にした直後、
岡本はその場から姿を消した。
次の瞬間、伊集院は正面から岡本の攻撃を受け、
地面を転がるようにしてすぐさま立ち上がった。
しかし、高速で移動した岡本からの拳を顔面に食らい、
その場に背中から倒れた。
「なぜ分からない!!
俺は・・・俺は間違っていたんだ。
犠牲なくして、絶対に平和なんて訪れない!!
かつてのアンタはそれを分かっていたはずだ!!」
岡本は右手で倒れた伊集院の首を掴み、
自分のすぐ正面へと持っていく。
「こんな戦い、俺のためにも、アンタのためにもならない!!
さっさと元の世界に帰れ!!」
「・・・違うな。」
伊集院は咄嗟にバックルに自身の拳を押し付ける。
《Which "Laws Breakers" technology will you use?》
「”アトラクター”!」
伊集院が身に纏うアーマーが
一度、元のドミクロン・シグマの姿に戻った直後、再度変形する。
両腕が直径50cmほどにまで巨大化し、
紺色の不規則な模様が全身に刻まれた。
頭部には白い1mほどの角が形成される。
《Attracter's Power!!》
まるで中仙道が変身する
世刑海獣ディザイヤー・リヴァイアサンのような容姿に変化し、
そのパワーも継承しているようだ。
・・・伊集院は変形した太い腕で
岡本の上半身を殴り上げた。
その瞬間、岡本は物凄い勢いで後方へと弾き飛ばされ、
北川高校の校舎へと背中からめり込んだのだった。
「世界を平和に導きたければ、全力で意見すべきだ。
かつて、私に挑みに来た
岡本 龍星のようにな。
私は、その意思を継ぎ、全力でお前に意見しよう。」
・・・2人にとって、これは過去の自分との戦いでもあった。
過去の自分に影響されてしまった相手が互いの目の前にいる。
目の前の敵は、かつての未熟だった自分自身。
しかし、それは紛れもなく、
互いが互いを受け入れた、動かぬ証拠だった。
そして、2人の思想対立は
この世界の未来にも影響する、重大な局面であることに違いない。
”平和”とは何なのか?
誰が”正義の味方”なのか?
―――――この世界の未来は彼らの勝敗に委ねられている―――――
#第43話 「Breaking Laws」 完結
お読みいただきありがとうございます。
サジタリウスの討伐を試みる上戸鎖の前に現れたのは
かつての彼の天敵、城ヶ崎 厚です。
彼はテレキネシスの使い手で、
前作でも上戸鎖を(強化前形態ではありますが)瀕死に追い込んでいます。
しかも、上戸鎖が複数のHR細胞を体内に注入して自身を強化したのに対し、
城ヶ崎はたった1つのHR細胞のみで恐ろしい戦闘能力を発揮しています。
言わば、天才肌のフォーサーです。
そんな彼らは、一時的に手を組み、
最強ブルート・サジタリウスに挑みます。
そして、岡本と伊集院の戦いが遂に始まりました。
互いが互いに影響され、互いの思想を受け継いだせいで、
再度思想対立が勃発しました。
彼らの勝敗でこの世界の未来が変わります。
・・・果たして、この世界に平和は訪れるのか?
思想対立の勝者はどちらになるのか?
次回、最終回です!!




