#第32話 他人の力を借りること
#第32話 「他人の力を借りること」
・・・新しく第11小隊に入隊した
藤崎 寧が自殺した翌日。
東京パーマネント・ガーディアンスの大火災から
既に8日が経過している。
避難施設では、東京の作戦指揮官である
上戸鎖 祐樹が指揮を取り、
臨時の集会を開いていた。
ヴァルゴの音波攻撃の不意打ちを食らい、
東京で入院中だったはずだが、
火災の中で無事に生き残り、ここまで自力でやってきたとのことだった。
ショッピングセンターの広場のような場所に
イベント会場のような配置で椅子が規則的に並べられ、
小隊長らを始めとする15名ほどが着席して、
指揮官の話を聞いている。
その前方の簡易ステージ上には、上戸鎖と、
彼の隣には大阪から派遣されてきて
この1週間ほど現場の指揮を取っていた
中仙道 武雅が着席している。
「つまり、”オメラス計画”を唱える敵は
ブルートを操り、人類の生活を脅かした上で、
壁の中で今後も人類を生活させる事が目的です。
おそらくではありますが、東京が偶然にも例外なだけであり、
他のパーマネント・ガーディアンスでは
敵の勢力がQtainや、総司令官として
実権を握っている可能性が高いです。
状況を考慮するに、
1年半前のパーマネント・ガーディアンス構築自体、
敵の計画の一部となっています。」
「つまり、敵を倒すために、
他の地方に直接の協力要請をするのは危険ってことだ。」
上戸鎖の隣で中仙道が補足する。
「既に敵が【ブルートの制御コード】を手にしている事を考えると、
我々がこの1週間、敵への妨害が何もできていない点は
非常にまずいと取れます。
しかし、我々もまったくの無能ではありません。」
上戸鎖が目の前のノートPCをいじると、
プロジェクターが起動し、白い壁へと画面が表示された。
「他のパーマネント・ガーディアンス内には、
我々とコネクションのある者も多数います。
彼らの協力は得られています。」
画面上には、日本地図が表示され、
地図上ではいくつかの赤い点が点滅している。
「まず、最優先課題は燃えるSランクブルート、
アーデント・サジタリウスの討伐。
現在は東京から西に向かって、旧東海地方へと進行しているようです。
次に、オメラス計画の首謀者、岡本 龍星の身柄拘束。
こちらは、東北パーマネント・ガーディアンスの更に北、
旧岩手県の南部に彼の本拠地があるようです。
加えて、ブルート製造機構の破壊。」
・・・ブルート製造機構?
「私の調査で、長野県の元”バーバレス日本支部”に
ブルート製造機構が存在する事が判明しました。
バーバレスに技術提供を行っていたZZZZZが
調査と称して裏ルートで設置した可能性が高いです。」
ブルートはやはり、国内で秘密裏に製造されていたという事か。
「以上、3点を達成する事で
今回のミッションは完了します。」
「・・・質問がある。」
俺は手を挙げて、上戸鎖に問う。
「岡本 龍星はブルートの制御コードを入手したと聞いたが、
一番厄介な”サジタリウス”は制御しようと思わなかったのだろうか?
あんな大火災を誘発するようなヤツが野放しになっているなら、
いずれ岡本達自身も被害を受けそうだが。」
「なるほど。
それは私も考えましたが、既に制御している可能性もあります。
しかし、彼が手にしたのは【制御コード】のみで、
実際にブルートを制御する技術までは
追求できていない可能性も考えられます。」
「岡本の本拠地が旧岩手なら、
その付近に不自然にブルートが集結している、
といった情報もないと?」
「現時点では、そういった情報はないです。
しかし・・・これは私の憶測に過ぎませんが、
岡本 龍星は非常に計画的な人間です。
彼ならブルートの制御が実現できていない状態で
コードだけ奪いに来るとは考えにくい。」
・・・なるほど。
噂では聞いていたが、
岡本と上戸鎖は
かつて何らかの作戦で手を組んでいたらしい。
「・・・作戦概要に戻ります。
おそらく、一番厄介であろうサジタリウス討伐は
この私、上戸鎖が”単独で”担当します。」
周囲がざわつく。
「おいおい大丈夫かよ、上戸鎖さんよぉ?」
彼の隣にいた中仙道が
からかうような笑みを浮かべて顔を覗き込んだ。
「サジタリウスに対抗できる能力を持つ者は限られています。
私は既にある程度の策を講じているのでご心配なく。
しかし、そうなると他の問題が発生します。
岡本 龍星の身柄拘束も、
ブルート製造機構の破壊も、
攻略難易度はかなり高いものと予想されます。」
「その言い方だと、お前以外、この中に強いヤツはいないと聞こえるな。」
またしも中仙道が突っ込む。
「良いだろう!俺がブルート製造機構の破壊を”単独で”行う!!」
中仙道は立ち上がり、
勢いよく机に両手を叩き付けた。
話の流れ的にはキレているのかと思いきや、
彼の口元には笑みが浮かんでいる。
「そうなると、残りのSAS装着者は全員で、
岡本 龍星の身柄拘束を実現してください。
私は作戦指揮官として本作戦を明日までに詰めます。
明日、再び集会を設け、明後日、作戦決行予定です。」
・・・ブルートにせよ、岡本 龍星にせよ、
攻略の難易度はどれも高い事には間違いなかった。
生きて帰ってこられるか、という視点で見たら
3ミッションとも怪しい。
その後、ミーティングは終了し、
それぞれ解散の流れとなった。
・・・その日の17時過ぎ。
俺はショッピングセンター跡入口の
ベンチに腰掛け、夕焼けを見つめていた。
自殺した藤崎 寧に言われた事について、
俺はあれから何度も考えていた。
『人は誰かに頼らないと、誰かを信じないと、前に進めないんです。
でもそれはカッコ悪い事でも、変な事でもない。
人間なら普通の事なんです。』
俺が心から頼れる人間、信用できる人間なんていない。
俺は自分の事を信じ、ずっと生きてきた。
あの日から・・・郡川 春乃が自殺未遂をした日から
他人を信用できなくなった。
でも、藤崎が言うには
このままだと俺は前に進めないというのか?
「おーっす、どうした?暇そうにして。」
突然の呼び掛けに隣を見ると、
1週間前に出会った謎の中二病患者、
陽遊 基が立っていた。
先週と同じく、薄紫色のパーカーを着て、
黒いスウェットを履いている。
「よいしょっと!」
彼は俺の隣のベンチに座ると、深く息を吐いた。
「・・・陽遊 基。
お前は、この世界で誰かを信じたのか?」
「は?なんだよその質問は!哲学者かよ!」
ケラケラと彼は笑っているが俺は真顔だ。
「まぁ、普通は誰かを信用しないと生きていけないと思うけど!
俺は、というか一般人は無自覚で周囲の人間を信用してると思う。
でもなー、俺も一度自分1人の力で世界を変えようとした時があった。
それは”力を得た”時だった。」
陽遊 基は、
声は明るいが神妙な顔付で話し始めた。
「俺はフォーサーとかアトラクターとかの”人間を超える力を持つ者”、
つまりは【ローズ・ブレイカー】を片っ端から消そうとした。
その時、俺は岡本 龍星に逆に消されたってワケだが、
思い返してみれば1人でできる事なんて限られてるんだよなー。」
・・・そうか。
俺もこの男と同じく、自分1人で何でもできる気でいた。
でも、実際は違った。
何でもできないから、郡川をサジタリウスに殺された。
藤崎を励ませず、彼女は自殺してしまった。
「俺は・・・”何でも屋”ではなかったんだ・・・。」
この瞬間、自分の惨めさを噛み締めると共に、
なぜか、心地良さが込み上げてきた。
ずっと、俺は自分について分かっていなかった。
結局、自分の嫌なことから目を背けて、
1人ではできない事から逃げていたくせに、
完璧を自称していた。
・・・痛いヤツだな。
今、俺の隣にいる
陽遊 基と何ら変わらない、
俺はただの”中二病”だったって訳だ。
「そこに気付けたら、これからお前は変われるさ。
”完全なる何でも屋”になれ。」
「なんだそれ・・・正直、痛過ぎるぞ?」
「いんだよォォ!!ちょっとヤバいくらいがそそるんだぜ!」
陽遊 基をイジったものの、
俺は自分でその名前を気に入っていた。
他人の力を借りることで、
俺は本当の意味での”何でも屋”になれそうだった。
#第32話 「他人の力を借りること」 完結
お読みいただき、ありがとうございます。
日本国内にブルートの製造機構がある事が判明しました。
これによって、1年半前の東京に落下した隕石に
地球外生命体が付着していたという情報は誤りである事が判明しました。
製造機構の設置場所は、前作、ブレイキング・ローズの最終決戦場所である
テロ組織”バーバレス”の日本支部。
ブルートを開発したZZZZZ社は
世界規模の巨大テロ組織であるバーバレスに技術・資金提供を行っていました。
その際、ZZZZZ社の反逆勢力が
密かにブルートの技術提供も行っていました。
反逆勢力というのは、被検体監視役であった中久喜 麗央率いる
ZZZZZ社・社員の少数チームです。
バーバレス日本支部は5年前の前作で滅ぼされましたが、
その施設はZZZZZからの偽の調査団(反逆勢力)による
解体調査という名目のもと、ブルートの実験場として引き続き使用されていました。
つまり、前作に登場したバーバレスは今回の件には一切関わっておらず、
あくまでも基地の設備や残留資源を
ZZZZZの反逆勢力に勝手に使われた、
というだけです。
・・・上記が、キャラの都合的に本編に書けなかった設定です。




