#第31話 誰かを信じるということ
#第31話 「誰かを信じるということ」
―――――萩間が謎の少年、
陽遊 基と会話をしていたのと同時刻、
東京パーマネント・ガーディアンス内部では―――――
「これか・・・。」
黒いSASアーマーに身を包んだ男は、
誰もいなくなった燃える市街地の中を歩いていた。
突如、片膝を付き、
落ちていたスマートフォン端末のようなものを拾い上げると、
起動スイッチを押して、動作を確認した。
「無事に手に入った。計画の達成は目前だ。」
男の正体は岡本 龍星だった。
”オメラス計画”を成し遂げるため、
中久喜 麗央が手に入れた
【ブルートの制御コード】を入手しに火の海へと飛び込んだのだった。
中久喜本人は、そのスマートフォン端末のすぐ横に
死体となって横たわっていたが、
熱による肌の荒れが酷く、もう元の姿を残していない。
・・・その時だった。
岡本 龍星の元に
1人の男が接近してきていた。
シルエットはスリムだが、ただの人間ではなく、
”フォーサー”である事を彼は瞬時に見抜いた。
「久しぶりですね。岡本 龍星さん。
こうしてお会いするのは5年ぶり、
長野県のバーバレス日本支部攻略以来でしょうか?」
「・・・上戸鎖か。」
トランセンデンタル・オーガナイザーこと、
東京の作戦指揮官、
上戸鎖 祐樹だった。
「無事だったか。ヴァルゴの音波にやられて入院していたと聞いたが。」
「先ほどの大火事で自主的に逃げていなければ死んでいましたよ。
先ほど、遠巻きに見ましたが、
あのオレンジ色の燃えるブルートは何者ですか?」
「アーデント・サジタリウス。間違いなく最も厄介なブルートだ。」
「ほう・・・なるほど。そういう事ですか。」
上戸鎖ことオーガナイザーは、
何かを察した様子で腕組みをした。
「上戸鎖、どうした?」
「サジタリウスの説明をするあなたは妙に落ち着いている。
それに、この状況で一切の焦りが見えない。
加えて、あなたの声は通常よりもトーンが高い。
詳細は不明ですが、何らかの作戦が上手くいっている状況である事は読めました。」
「フッ、さすがオーガナイザーの観察力だ。」
岡本は短い笑いを漏らした。
「この5年間、一切の連絡が取れなかった事も加味した上での分析ですよ。
何を考えているんですか?」
「俺は・・・理想郷オメラスを完成させる。
あの、伊集院 雷人が求めた理想の世界を。」
岡本はそう言うと、
瞬時に片腕についているパイルバンカーのような武器を
オーガナイザーに向けて突き付ける。
しかし、その瞬間にオーガナイザーは残像となって消え、
岡本の背後へと移動していた。
「フッ、まだ伊集院 雷人の事を語りますか。
いつまで死人の思想に囚われているのでしょうかね?」
「やはり・・・お前は邪魔になるな。上戸鎖。
以前からお前のデータ収集には力を入れるように内通者に要請していたんだが、
オーガナイザーは”これまでに本気で戦った事が一度もない”。
そうだろう?」
岡本は振り向かず、背後のオーガナイザーに向けてそう問う。
「バレていましたか。
しかし、そういう岡本さんも
だいぶ強化してきたようですね。
その装備以外にも隠し玉があるようですが?」
「見抜かれたか・・・。さすがだ、上戸鎖。」
岡本は体の向きを180度ずらし、
オーガナイザーを凝視した。
「ここで決着を付けても良いが、
互いに相手の全力が未知数という事を考慮すれば、
機会をあらためよう。
俺は【ブルートの制御コード】を無事に持ち帰る必要もあるしな。」
「・・・ナメられたものですね。
まぁ、私も強制退院直後で体調がすこぶる悪いので、
あなたがここで最終決戦をすると言い張るのであれば退いていましたよ。」
上戸鎖がそう言うと、
岡本はその場から瞬時に消えたのだった。
―――――その頃―――――
・・・この俺、萩間 拓は
あれから6時間ほど徒歩で移動し、
臨時の避難施設へと辿り着いた。
既に時間は午前1時を回っていたが、
入口に担当者の姿はあった。
避難施設はかつてのショッピングセンターを奇麗に改装したもののようで、
特に外装はそのままだった。
2階建てのそこまで大きなものではないが、
ブルートの侵入した形跡はなく、元の状態で保存されていたらしい。
しかし、電気が通っていないので内部は真っ暗闇。
閉店後のショッピングモールそのものだった。
あちらこちらで避難者のロウソクや懐中電灯の灯りがともり、
支給された寝袋で大勢の人達が休んでいる。
パーマネント・ガーディアンス居住権獲得の特性上、
男女のペアで寝ている者達が大半だ。
「萩間さん・・・!?」
突然、小声で声を掛けられ、視線を向ける。
すると、そこには、
7時間ほど前に本部タワーで会話していた第11小隊の新メンバー、
藤崎 寧が寝袋にくるまっていた。
・・・婚約相手の姿は見当たらない。
「無事だったか!良かった・・・」
「萩間さんこそ、心配していましたよ・・・。
東京パーマネント・ガーディアンスは火事で全域が火の海になったと聞いたので」
俺は支給された寝袋にくるまり、
藤崎の隣に横になった。
「・・・お前のDV彼氏は、無事なのか?」
小声で聞いてみた。
・・・横になった瞬間に強烈な眠気が襲ってきたが、
この時間まで眠れずに横になっていた藤崎は
ずっとその件を気にしていたに違いない。
「・・・分かりません。
避難者のリストは閲覧したのですが、
そこには名前がなくて・・・不安で、不安で仕方がなくて・・・」
藤崎は堪えていたと言わんばかりに
涙を流して泣き出した。
「そうか・・・。
俺は・・・さっき郡川が・・・妻が死んだ。」
藤崎は泣き続けているが、
こちらの話を聞こうと、泣き声を極力抑えている。
「でも、俺は・・・彼女の死を素直に悲しめなかった。
俺は誰かに自分を認めてもらいたいだけ・・・だったのかもしれない。
自分が何を望んでいたのか、分からなくなった。」
「萩間さんは、ずっと一人だったんですね?」
藤崎は背中を向け、小声でそう言った。
「・・・どうして・・・そう思った?」
「なんとなくです。
人は・・・一人では生きていけないんですよ。」
藤崎は必死に泣くのを堪えながら続けた。
「人は誰かに頼らないと、誰かを信じないと、前に進めないんです。
でもそれはカッコ悪い事でも、変な事でもない。
人間なら普通の事なんです。」
「・・・その信じる対象が、世間、
或いは自分が認めないような変なヤツでもか?」
「そうです。
自分が認めなくても、その人を信じて頼って良いんですよ。
人一人の力なんて、限界があるので・・・。」
藤崎と喋るのはこれで2回目だが、
心情を見透かされている気がしてならなかった。
誰かを信じて、誰かを頼る・・・。
確かに、それは俺が人一倍苦手なことだ。
俺は未来で人間不信に陥り、
それから極力自分の力でどうにかしようとして生きてきた。
それは紛れもなく、俺が誰かを信じたり、
誰かに頼る勇気を持ち合わせていないからだ。
・・・でも、自分が認めない相手を
信じて頼るなんてことなんてできるのだろうか?
「俺は・・・長らく孤独だったのかもしれない。」
「そうなんですね。
でも、凄いです。
そんな状況で・・・私なら・・・生きていけません。」
藤崎の声はそこで途切れた。
さすがに彼女も眠かったのだろう。
俺の人生の中でも密度が特に濃い一日が終わり、
俺もスッと眠りに落ちた。
・・・翌日、SAS装着者たちは調査隊として、
東京パーマネント・ガーディアンスの焼け跡に派遣された。
現場の指揮は、ちょうど大阪から派遣されてきていた
中仙道 武雅が取った。
調査は5日間続き、
毎日、最新の遺体リストが発行された。
そこには、司令官の明電 峰隆や、
彼と同じくZZZZZ社の人間兵器である
時柳宋 衛久守の名も刻まれていた。
5日目で一旦の調査が終了し、
死者・行方不明者は700名を越え、合計で723人となった。
・・・それから2日後、藤崎 寧は、
避難施設から1㎞ほど離れた密林地帯で
首を吊り、単独での死亡が確認された・・・。
最後に更新された5日目の調査結果を反映した遺体リストには、
彼女のDV彼氏の名前が載っていたのだった。
#第31話 「誰かを信じるということ」 完結
お読みいただきありがとうございました。
今回は、主人公が自分の感情を再確認する、
意外と重要な回でした。
主人公の考え方に踏み込んでくれた藤崎 寧は、
自分の婚約者が遺体リストに載った事をきっかけにして、
首を吊って自殺してしまいます。
しかし、彼女の存在は、
今後、主人公である萩間 拓に
多大な影響を及ぼします。




