#第21話 Sランク VS 海獣
#第21話 「Sランク VS 海獣」
「・・・俺で良ければ話を聞こう。」
細い脚にアザが目立つ女性に
俺はこう持ち掛けてしまった。
厄介事に首を突っ込みたくなるのは
元の時間で何でも屋を営んでいたからに他ならない。
俺は彼女に肩を貸してベンチに座らせ、
その隣に50cmほどの空間を空けて座った。
「俺は萩間 拓だ。
お前の名前は?」
「・・・藤崎 寧です。」
女性は赤い目をこすりながら
うつむき加減でそう答えた。
女性としてはやや低めで、アクセントのない声。
泣き顔とのギャップが印象的だった。
「・・・誰にも言わないって約束してくれますか?」
藤崎はそう言って一瞬俺の顔を見据えたが、
すぐに自ら視線を逸らす。
「まだ話は聞いてないけど、
言って得があるような話じゃないだろう?」
「まぁ・・・」
彼女はそう言って切り出した。
「私には婚約者の男性がいます。
でも彼は2週間前、壁の外で
同じ小隊の友人を目の前でブルートに殺されてから、
闘う気力を喪失したんです。」
「なるほど。」
俺自身、同じ小隊の人間が死ぬ様を
この世界に来てから既に2回も見ている。
アレは精神が弱い人間にはきついだろう。
例え、男性とは言えども。
「パーマネント・ガーディアンスの掟として、
婚約ペアの片方が戦闘に参加できない場合は
壁の外に追い出されます。
だから、私が代わりにSASのトレーニングを受けて
明日の作戦から第11小隊に加わる事になっています。」
「・・・それは奇遇だ。
俺がその第11小隊の中の1人だからな。」
第11小隊は
隊長の西園寺、隊員の神楽
が今日の作戦で死亡している。
そこに新しい隊員が補填されるのは不自然な話じゃない。
藤崎は目を丸くして
俺の顔を2秒ほど見据えた。
「それは、凄い偶然ですね。」
再び俯いた横顔は驚いているが、声は相変わらず平坦な調子だ。
「女性のSAS利用者は
東京では全体の3%らしいんです。
そんな現状だからこそ、怖いけど
女性でも戦えるっていうところを見せたいというか・・・。」
「でも、お前がさっき泣いていた原因は
そんな事じゃないだろう?」
俺は懲りずに理由を尋ねる。
「・・・婚約相手から・・・毎日暴行を受けています。」
泣き止んでいた彼女だったが、
再び目が赤くなった。
「俺は何でも屋を営んでいてな。
以前にそれに似た依頼を受けた事もある。
その相手との婚約を破棄すれば、
お前はDVから解放されて、壁の中に留まる事ができる。」
「確かに、それはそうです。
でも、義人は私のために
怪物と戦って、それでおかしくなった・・・。
なら、私も恩返しをしないと不公平だと思います。」
整った顔立ちや、全体的な服装から、
変に飾らない真面目な女だと勝手に思っていたが、
あながち間違いではないらしい。
「・・・”人”っていうものは時間が経てば別物に成り果てる。
昔の思い出から今現在の人格を見出すのは、たぶん合理的じゃない。」
これは俺自身、郡川 晴乃の件で
自分にも言える事だろう。
「でも・・・人格が変わっても、
今の義人が昔とは違うとしても、
彼から受けた恩は消えないんです。」
「俺なら忘れるけどな。そんなもの。」
覚えていれば辛いだけ。
そんなのは目に見える。
「藤崎、お前の意見を曲げさせる気はないが、
それでいてお前はこの先、耐えられるのか?」
そう言うと、藤崎は一瞬だけこちらを見たが、
また目を逸らす。
「私は・・・」
彼女が何かを言い掛けたその時、
俺と藤崎のスマホが同時に鳴り響いた。
「この音は、緊急メッセージか?」
俺はポケットからスマホを取り出し、
メッセージを確認する。
「えっ・・・」
藤崎は俺よりも早く読み終えたらしい。
「なるほど・・・。」
「どうしましょう?
私達も行くべきですか?」
内容は東京パーマネント・ガーディアンスの外壁が一部破壊され、
1匹のブルートの侵入を許した、というものだった。
「招集命令はまだ出されていない。
下手に外を出歩くのも危険だ。
ここで待機するとしよう。」
もし、その侵入したブルートが外壁を自身で破壊したとなれば、
相当な攻撃力を誇るブルートであるという事になる。
言わずもがな、交戦は危険だ。
―――――その頃―――――
「クッ!!」
「退却だ!勝てる訳がない!」
キャピタルタワー付近に出現したブルートに対抗するため、
偶然にもタワーの中にいたSAS装着者20名ほどが応戦している。
壁の中に侵入してきた全長2mほどの体格の良い人型のブルートは
20人を相手にしても完全に優勢だった。
・・・燃える様に赤い全身、
まるで闘牛のような鋭い黄金の2本角。
両手両足に黒い輪のような模様が描かれている。
「グオオオオオオオ!!」
赤いブルートは吠えると、軽くかがんだ姿勢に入り、
一番近くにいたSAS装着者へ角の突きを繰り出す。
防ぎようがなかったSAS装着者は
そのまま腹部を貫かれ、ブルートの角に吊られるような形で絶命した。
「くそ・・・なんていう筋力だ。」
SAS装着者たちは一斉に距離を取る。
ブルートは角に刺さった死体を、
頭を振り回して放り投げると、
次の標的に向け、角を突き出して走り始める。
・・・その時だった。
「邪魔だ!どけ!!」
SAS装着者たちの背後から、
突如巨大な”モンスター”が出現し、
重厚な二足歩行でブルートに接近していく。
その乱入してきたモンスターは、
標的にされていたSAS装着者を押し飛ばし、
ブルートの角を両手で掴んだ。
青と緑色がグチャグチャに混ざり合ったような体色。
身長2.5mを越えるだけに留まらず、
横幅もそれに伴って拡張されている。
両腕、両脚は大木のように太く、
頭部には1mを越えるまっすぐな白い角。
「貴様、何者だ!」
「大阪から臨時派遣されている中仙道 武雅。
またの名を、世刑海獣ディザイヤー・リヴァイアサンだ。」
リヴァイアサンは”アトラクター”という、
フォーサーともSASとも違う別個の技術で生み出された怪人。
5年前、彼は”ブラックマイスター”という組織の首領であり、
日本の法制度を改善するために大量殺人を犯した過去がある。
怪人態は、犠牲にしたスピードのステータスを
パワー面に全振りしたようなスタイルである。
拳一撃を地面に突き付けるだけで周囲に地震が起き、
高層ビルを倒壊させたほどだ。
「グガアアアアアアア!!」
「ほう、俺でも押さえるのに一苦労とはな。
このパワーは”Sランク”か?」
リヴァイアサンは角を掴んだ状態でブルートを持ち上げ、
投げ飛ばした。
赤いブルートも十分に巨大で筋肉質だが、
リヴァイアサンの重量及びサイズには劣っている。
彼らの戦いを海獣の背後で見守っていた20人近いSAS装着者たちは
思わず皆、立ち尽くしていた。
が、その中の1人がふと叫んだ。
「リヴァイアサン!
そのブルートを照合した結果、
Sランクブルートの
“エンシュージアスティック・タウラス”と判明しました!」
「フッ、以前に確認されていたか。
・・・安心しろ。
このリヴァイアサンの前ではヤツも無力だ。」
Sランクブルートがこうして壁の中に入ってきている現状には
中仙道も内心では驚いたが、
彼には余裕があった。
「早々にケリを付けるとしよう。」
そう言うと、リヴァイアサンはどこからか
金色の液体が揺れる試験管を取り出し、
自身の巨大な口に流し込んだ。
リヴァイアサンの身体が発光し始めたかと思うと、
青系の色がごちゃ混ぜになっている体色に”金色”が混ざり、
両手の拳から上腕にかけては
ダークブルーの分厚い硬質皮膚が、ナックルの要領で生成された。
更に、白い角は金色に変色し、こちらも輝きを放っている。
ゴールドが追加されたことで一気に派手な体色になったが、
これまでよりも確実に威圧感を増している。
「この5年間、俺は更なる力を手に入れるべく研究を続けた。
これが研究の末に手に入れた”アバリシャス”。
そして、適合率を極限まで上昇させて手に入れた形態、
臨世刑海獣エネルゲイヤ・リヴァイアサン!!」
彼の話の途中でタウラスは
再び襲撃を試みて角を突き出すが、
リヴァイアサンはそれを片腕で軽く弾き飛ばした。
「フハハハハハ!!
この程度でSランク判定とは。
本部はブルートを買い被り過ぎだなあッ!!」
その様子を見ていたSAS装着者たちは
後方で震えあがっていた。
Sランクブルートと戦闘を行えば
少なくとも50人は犠牲になるのがこれまでの戦績だった。
しかし、目の前の金色海獣は1人でSランクを軽く相手している。
「グウウウウウ!!
グオオオオオオオオオオオオ!!」
タウラスは咆哮を上げ、
何やら自分の両脚をまじまじと確認している。
「どうした?その程度か?」
リヴァイアサンがそう吐き捨てた次の瞬間だった。
タウラスはいつの間にか
リヴァイアサンの腹部に自身の角を突き入れていた。
その衝撃に、思わずリヴァイアサンは5歩ほど後退する。
分厚い表皮で高い防御力を誇るリヴァイアサンは
その程度で致命傷には至らないが、
瞬時の反撃に驚きを隠せない。
「コイツ・・・高速移動持ちか?」
そう言っている隙に
今度は背後から角の連撃を食らい、
リヴァイアサンは前のめりにこけそうになる。
あまりの体重に体勢を立て直すのも
一苦労のリヴァイアサンが姿勢を戻した瞬間、
彼の背後で叫び声が連続で上がった。
「ぐあああッ!!」
「やめろおおお!!」
リヴァイアサンが振り返った時にはもう既に、
観戦していたSAS装着者たちは全員血だまりに倒れていた。
「チッ、様子が変わりやがった・・・!
なんだ、あのスピードは?」
リヴァイアサンの欠点の一つとして、
凄まじく鈍足である事があげられる。
つまり、素早い相手とはタイマンの相性が悪いのだ。
尚且つ、今回の敵は移動の際の目視もキツいほどの相手。
スタミナ切れ勝負になるかと思ったリヴァイアサンは、
タウラスが疲労の様子を見せていない事を察する。
「フッ、良いだろう。
たまには刺激を求めるのも悪くはない!」
「グオオオオオオオオ!!!」
リヴァイアサンとタウラスは向かい合い、
今にも戦闘を再開しようと互いの出方を窺っている。
#第21話 「Sランク VS 海獣」 完結
お読みいただきありがとうございます!
今回は主人公の萩間と
虐待を受けている藤崎との出会い。
そして、Sランクブルートとの戦いを書きました。
リヴァイアサンは前作でも活躍してくれましたが、
明確な弱点があるのが辛いですね(;'∀')
ちなみに、まだ能力は発揮し切れていないので
次回をお楽しみに!