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白猫は懐かない  作者: 森乃さんご


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第6話 私と契約すればいいじゃない

「重い……」


 オレは真っ昼間の炎天下の只中で、それはそれは重い段ボールをえっちらおっちら運んでいた。オレが山の窓口をするようになってから、こんな荷物が届くのは初めてだ。薫が住むようになってからは、細々した宅配便が頻繁に届いてはいるけれど。朝にいつもの郵便が来ないなと思っていたら、お昼になってこんな大荷物が届いてしまった。山の上の水城邸につく頃には息も絶え絶えで、意識するまでもなく変化が解かれてしまう。


「ましろくん⁉」


 薫がぱたぱたと駆け寄ってくる音が聞こえた。

 段ボールと共にオレは家の中に回収される。薫はすぐに水を持ってきてくれた。オレは猫の姿のまま、ちびちびと水を口に含んでほっと息を吐く。


「それ、すっげえ重かったぜ。何入ってんの?」

「そういえば、この前の絵葉書に書いてあったわね……」


 薫は段ボールの中から、重そうに何かを取り出した。オレの目の前にドンッと置く。


「わ!」


 緑と黒の縞模様、厚い皮の中からかすかに漂う甘い匂い。


「すいかだ!」

「一緒に食べましょ」


 薫は、すいかをここで切ってしまおうと思ったらしい。まな板と包丁、そして皿をいっぺんに持ってきた。


「ましろくんは、小さくカットした方が食べやすいかしら」

「それで頼むわ」

「わかったわ」


 ザクッと気持ちのいい音を立てて、鮮やかな赤が顔を出した。


「母が、畑で育てたすいかよ」

「お前の家族って、遠くに住んでんの?」

「うん、埼玉……て言ってもわからないかしら」

「わかんね。お前もそこから来たんだよな?」

「……ええ。あそこは人が多くてね。人の多さに疲れてしまって、この山に来たの。ちょうど、祖父母のこの家がここにあったから」

「へえ」


 疲れるほど人がいるという状況がオレにはよくわからない。ここには多くの妖が住んでいると思っていたけれど、その数もなんだかちっぽけに思えてしまった。だって、オレはそれに疲れたことがないもの。あ、でも。


「絵葉書の多さには疲れねえの?」


 オレは毎朝届けてるから、その疲れるっていうのがちょっとわかるぞ。

 オレがテーブルに顔を乗せて薫を見上げると、彼女はくすりと笑った。


「いつも届けてくれてありがとう。それは、不思議と疲れないの」


 すいかを三角の形に切り分けて、そこからさらに一口大に切っていく。


「前にも言ったでしょう、絵葉書を送ってくれるのは母や複数の友人だって。みんな、私が心配で送ってくるの。その絵葉書の絵が毎回違うのは楽しい。たまに、絵を描いたり、手紙を書いたりするのも楽しいから」

「ふーん」

「ましろくんには迷惑かけるわね。私は、山を出ないから」


 そう話す薫は、なんてことないように、いつものように少し口角を上げていた。オレはふーん、とまた繰り返す。

 別に、こいつがどんな理由で山を出ないと言っていようと興味がない。それで郵便物が増えても、それはオレの役目なので気にしていない。あ、でも。


「はい、どうぞ」


 薫が一口に切ったすいかをたくさん皿に盛って、オレの前に置いてくれた。


「わっ、うまそう!」


 ばくりと口に入るだけすいかを頬張る。薫も微笑みながら、まな板の上の余ったすいかをフォークで刺して口に入れた。オレはごくんとすいかを飲み込むと、薫を見上げた。


「オレはいいけど、役目がミコに代替わりしたらわからねーかも」

「え?」

「ま、ミコはお前に懐いてるみたいだし、大丈夫か」

「代替わりするの?」


 薫の驚いたような声に、オレはこくりとうなずいた。この役目で一番接しているのは郵便局員と薫だ。郵便局員は、ころころ人が変わるので言いにくいけれど、薫には言っておいた方がいいかもしれない。


「オレ、たぶん来月くらいで寿命が終わるんだ。オレが死んだあとはミコに山の窓口は引き継ぐ予定」

「え、寿命が終わるって……え?」


 薫の顔から血の気が引いていく。あれ、ちょっとまずったかな、と思いつつ、オレは自分のことを話した。


 人間の生気を吸い取って生きなければならない妖だということ。今までは神力を吸い取っていたけれど、それももう二か月前で打ち切られてしまったこと。共生する人間を見つける気がないので、もう生きていられないこと。


「生気、て。もしかして、祖父母の生気も?」

「うん。契約してたから。あ、それで人間の寿命が縮むことはねえからな? オレが吸い取るのは余剰分、家に漂ってる生気だから」


 右手に何かが触れた。目をやると、それは薫の手で、ふるふると震えていた。


「私と契約すればいいじゃない」


 薫の顔を見る。けれど、この時ばかりは前髪のせいで薫の顔が見えなかった。けれど、震えている声にオレは何を言えばいいかわからず唇を尖らせた。人間の繊細な感情に触れるのは、あまり慣れていない。だから、余計なことは考えず、思ったままを素直に口にすることにしている。


「……嫌だ。オレが契約するのは、後にも先にもジジババだけだ」


 薫は、黙って手を自分の膝に戻す。今の薫が何を考えているのか分からない。居心地が悪い。


「すいか、オレが全部食べちゃうけど」


 返ってくるのはやっぱり沈黙で、オレはそっぽを向いて、種も一緒にすいかをかみ砕いた。

明日完結です。

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