014「異世界ボケ」
「え? 今のリアクション⋯⋯何?」
俺の反応に疑問を抱いた真希名さんがキョトンとしながらそんなことを聞いてきた。
「えっと、実は俺、異世界から戻ってまだ一週間くらいしか経っていないので、何というか現代の常識が戻っていないというか⋯⋯⋯⋯『異世界ボケ』みたいな?」
「異世界ボケ?」
真希名さんにまだ異世界で生活している感覚のほうが強いこと、そのおかげでいろいろと発言やら行動やらに『齟齬』が起きているという話をした。
「な、なるほど⋯⋯?」
「だからそう⋯⋯例えばさっきみたいに収納ストレージを無頓着に使ったり、あと配信で視聴者から『異世界に行った証拠を見せたほうがいい』と指摘されて『そりゃそうだな』とそこで気づくとか⋯⋯そんな感じなんだけど⋯⋯わかります?」
「つ、つまり、異世界での日常⋯⋯当たり前が抜けていないってこと?」
「あ、そうそう! そういう感じ!」
俺は真希名さんの要約に思わず感心し拍手を送る。
しかし、真希名さんの顔はいまだ穏やかではなかった。
「真希名さん?」
「えっと⋯⋯ごめん。正直まだテンパリ過ぎてて状況が⋯⋯」
「え?」
「だって、今出したポーションだとか、そのポーションを出した収納ストレージだとか、今この状況が《《琢磨君が異世界に行ったものとして》》普通に会話しているというこの状況こそがかなり常軌を逸脱しているってことなんだけど⋯⋯⋯⋯わかる?」
「え? あ、まあ⋯⋯一応」
「うん。それ絶対にわかっていないときの返事ね」
「うっ?!」
バレテーラ。
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あの後、一度コーヒーブレイクを挟んで真希名さんの頭の整理と精神の回復を待って再開となった。
「と、とりあえず、理解はしました。つまり琢磨君は本当に異世界から帰ってきた⋯⋯異世界帰還者であると」
「はい」
「正直、あんなのを見せられてもいまだに信じられません。でも⋯⋯」
と、真希名さんが机に置いてあるポーションを手に取る。
「実際に目の前でこれを出されちゃね⋯⋯」
「試してみますか?」
「え?」
「ポーションです。どこかケガしたとことかないですか?」
「え、えーと⋯⋯あ、そうだ! それじゃこのかさぶたになりかけの傷で試してもいい?」
そう言って真希名さんは左腕の肘近くにある擦りむいたような傷を見せた。
たしかにちょっと治りかけているのか、うっすらかさぶたが見える。
「傷口にポーションをかけるのでこのままだと机や床が汚れてしまいます。何かバケツのようなものあります?」
「あ、待ってて」
そういうと真希名さんがバケツを持ってきた。
「じゃ、バケツは机の上に置いて⋯⋯それじゃあいきますね〜」
ドボドボドボ⋯⋯。
俺は瓶の蓋を開けて真希名さんの傷口に向けてポーションを雑にかける。すると、
「え? え? き、傷が⋯⋯どんどん塞がって⋯⋯!」
ポーションをかけてわずか数秒で真希名さんの傷が完全に塞がった。
「す、すごい⋯⋯! 傷口が⋯⋯映像を巻き戻しているかのように塞がったっ!? マンガやアニメに出てくるポーションと全く同じだ⋯⋯っ!!!!」
さっきは突然だったこともあり疲れていた様子だったが、しかし今の真希名さんは驚いてはいるものの、どちらかというと目を輝かせてワクワクしているように見える。
「いや〜俺も異世界に行って初めてポーションで傷の回復を見た時は今の真希名さんみたいに感動したな〜」
「正直、もうこれだけ見せれば異世界に行った証拠になるわ」
「ですよね! あ、でも⋯⋯」
「どうしたの?」
「いえ、どうせなら次回の配信ではこのポーションだけじゃなくて『魔法』も披露しようかと思いまして」
「ま、魔法だとっ?!」
ダン!
真希名さんがファミレスの時と同様机を叩きながら立ち上がる。
真希名さんって本当に驚いたときは机叩いて立ち上がる仕様かな?
「琢磨君、魔法⋯⋯使えるの?」
「はい。使えますよ」
「⋯⋯」
「⋯⋯」
「琢磨君、それって今ここで見せられるの?」
「はい。見せれますよ」
「⋯⋯」
「⋯⋯」
「お願いしまぁぁぁすっ!!!!!!」
真希名さんは勢いよく叫ぶとそのままきれいに90度のお辞儀をした。
彼女にとって『魔法』はよっぽどのことなのだろう。
そんな真希名さんの魔法への想いは伝わった。
「もちろんです。ではいきますよ」
ごくり⋯⋯。
ふと、真希名さんの息を呑む音が聞こえたような気がした。




