012「スカウト(3)」
今週もゲリラ投稿なう。
「つ、次の配信が大きな転換点⋯⋯?」
「そうだ。だからこうして獲得に動いた私がここにいる!」
「⋯⋯(ごくり)」
真希名さんの瞳が俺をグッと力強く射抜く。
何というかすごい熱量を感じて俺はつい怯む。
「要件はDMでも書いた通り、我がライバー事務所『アンダーテイル』に入ってほしいっていう話よ」
「は、はい」
「あ、その前に先に言っておきたいことがあるの。実は琢磨君をうちの専属ライバーに欲しいって言ったけど『異世界に行ったかどうかは重要じゃない』からね」
「え?」
「私が琢磨君を欲しい一番の理由は君の人柄・個性、そういうところよ」
「人柄、個性⋯⋯ですか?」
「そう! 今日初めて会ったばかりだけどでも君と話してみて改めて確信したわ。琢磨君には人を惹きつける『何か』がある!」
真希名さんがビシッと俺に指を差しながら宣言する。
「私はね⋯⋯琢磨君、ライバー事務所を立ち上げたのはライバーが好きだからなの。でもライバーで食っていこうとすると個人ではかなりハードルが高くてね。でもだからといって事務所に入るとやりたいことがなかなかできなかったり自由が制限されたりするの」
「は、はい」
「だから私はライバーがもっと自由に表現できるような場を作ったの。それが『アンダーテイル』よ!」
真希名さんのその言葉には揺るぎない自信と覚悟が感じられた。
「だから、琢磨君が《《異世界に行ってなくても》》私はあなたにうちのライバーとして来て欲しい!」
「っ?!」
ガシッ!
真希名さんが俺の右手をギュッと両手で握り締める。
同時に俺に向けられる瞳は真剣そのもの。
見た目ではわからなかったが真希名さんはめちゃめちゃ熱い人だ。
そして、そんな真希名さんの真っ直ぐな言葉に俺は感動していた。
今の俺がYo!Tubeで配信している内容は『異世界から帰ってきた男の話』というもので、その物珍しさだけで事務所に入って欲しいと言っていたのなら、当然『異世界に本当に行ったかどうか』は聞いてくるだろう。
しかし、真希名さんは「異世界に行ったかどうかは重要じゃない」「俺を欲しいと思ったのは俺自身の人柄と個性」と俺の目を見てはっきりと言った。
俺はその言葉を聞いて正直すごく嬉しかった。
これまでそんなこと言われたことなどなかったからだ。
それに真希名さんの言葉の一つ一つにすごい熱量を感じる。
何というか⋯⋯「この人本当にライバーが好きなんだろうな」って感じだ。
「ありがとうございます。真希名さんの言葉、響きました」
「え? そ、それじゃ⋯⋯」
「俺でよかったらぜひ契約してください」
「よろこんで!」
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「琢磨君、この後特に予定なかったらデザートでも食べない? もちろんおごりよ」
「あ、特にないのでぜひっ!」
ということで、俺たちはデザートを注文。
「でも本当によかったぁ〜。琢磨君が契約してくれて」
「でも、DMにも軽く書いてたけど、本当にライバーに手厚いんですね」
契約するとき、ちゃんと真希名さんが契約書の内容を一つ一つ解説しながら教えてくれたのだが、この真希名さんの事務所『アンダーテイル』はライバーに対して本当に生活補助が手厚かった。
「まーね。さっきも言ったけど私的には専属のライバーには表現者として自由に配信して欲しいからね。だから大きな不安の一つの生活の不安はできるだけ事務所で面倒見てあげたいの。とはいえ、チャンネル登録者数10万人までの生活補償は2年間だけだけどね」
「いやそれでも2年は凄いと思います」
「ライバーは浮き沈みが激しい世界だからね。でもだからこそ、ライバーをやめなければ配信の何かでバズってまた復活を遂げることだってあるの。だから私は自分の事務所のライバーにはそういう可能性を与えたいのよね」
「真希名さん⋯⋯」
「まーでも、今はライバーは3人しかいないし、それにその子たちはすでに10万人以上のチャンネル登録者数を持っているから今の話には当てはまらないかな」
「へ〜。3人ともチャンネル登録者数10万人超えって凄いですね」
「ありがとう。でも琢磨君は最初は数字は気にせず今まで通りのびのびとやってね」
「はい、ありがとうございます」
「そういえば、次回の配信だけど明日だよね? 《《仕込み》》は準備できてるの?」
「《《仕込み》》?」
「いやだって琢磨君、次の配信で『異世界に行ってた証拠』を持ってくるって言ったじゃない? それの準備よ?」
「え? あーなるほど。そういう話ですか。まーでも別に問題ないです。《《いつでも取り出せますから》》」
「んん? 《《いつでも取り出せる》》?」
「はい。こんな感じで」
と俺は何もない空間から『ポーション』を出した。
「は? え? い、今、何やったの⋯⋯?」
「収納ストレージ⋯⋯えっと、異世界ものでよくあるアイテムボックスみたいなもので、そこからポーションを取り出しただけで⋯⋯」
「いや、はあああぁああぁあぁぁぁあああっ?!!!!」
ガタン!
真希名さんが大声を上げながら前のめりに立ち上がる。
すると、周囲の客が「なんだ、なんだ?」とこちらを見てきた。
「ちょ⋯⋯真希名さんっ!? いきなりそんな大声なんて上げて⋯⋯」
「上げたくもなるわよっ!! ていうか、今のってつまり⋯⋯」
「はい。これが異世界に行った証拠です」




