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競馬場物語  作者: ミー子
4/4

新しい家・新しい場所

4話目です。府中の不思議が少しずつあかされていきます。

夕食を食べ終わり、洋服売り場に足を踏み入れた。

馬はさすがに服に毛が付く、ということで、エクレールとシルバープリンスは店の入り口につながれた。

不満そうにこちらを見る馬たちを横目に、ましろたちは楽しそうに洋服を選んだ。


「パジャマは向こうにあるけど、かなり簡素だから、ここで買っていった方がいいかもね」


あめこはそういって、暖かそうなパジャマをましろに持ってきた。


「私服も買いましょう! 私服も!」


かしわは楽しそうに、水色や黄緑色のワンピースやら、ブラウスやらを持ってきた。

こんなしにっかりしているところなのだから、お値段も高いはずだ……とおびえながら値札を

見てみたら、しっかりとお手頃なお値段で、ましろは拍子抜けした。

先ほどのカフェも、とても良心的な値段で、ましろでもしっかり支払うことができた。


「当分はましろさんは、競馬場の住宅に住むんですから、下着類は一通り向こうにあるけど

自分のもののほうが落ち着きますもんね」


かしわはそういいおいて、次々とましろの買い物かごの中に、下着やら何やらを入れてゆく。


「洗濯機は向こうにあるし、家電製品もそろってるから、その辺は気にしなくていいからね」


あめこはそういって一通りかごに入れたましろをレジに案内した。

値段は10,000円行かずに、これまたましろは驚いた。


「ええ! こんなに買って10,000円行かないんですか?」


「だって、この百貨店、良心的なお値段で府中市民に慕われてるもん」


ましろはニコニコとエクレールの引き網を手に、東京競馬場へとましろを案内する。

正門付近に、小さな家がずらりと並んでおり、目を丸くした。


「こんなところ、あったんですね……!」


「あったんですよ、知らなかったんですか?」


場所は、バラ園から絶妙に見えない位置だった。言われても気づかないだろう。

ちょうど、バラ園から見えるアパートにさえぎられていたから、気が付かなかったのだ。


「じゃあ先に、エクレールたちを馬房に入れてくるから待っててね。ここは安全だから大丈夫だよ」


そういいおいて、2人は馬房へと向かってしまった。

1人残されたましろは、ポカンと正門を見つめる。

バラで彩られた、何度も見たバラ園。

お父さん曰く、ここは黙っててもお金が入ってくるから

こんなにきれいにバラを咲かせることもできるし、花壇を整えることができるのさ。ということらしい。

今は夜だが、バラの花は夜も美しかった。


「きれいだなぁ」


ましろは、誇らしげに咲いているバラを眺めていた。

いつの間にか上がった雨に気が付き、夜空を見上げれば、三日月が青白く輝いていた。


「車が走る音がしないから、静かなのか。さすが、馬社会だね」


独り言で、ふっと笑いながら言う。

どこかの家から、馬が嘶く声が聞こえて、馬のにおいがかすかに漂ってくる。

空気に、馬の落ち着くにおいが溶け込んでいるのだ。

アニマルセラピーという奴だろうか?

今、自分はぼんやりと安らいでいる。今日は、水音のお葬式で、ひどく落ち込んでいたはずなのに。

府中は平和なのだ。

だから、自分は安らいだ気持ちでいられるのだ。


「ただいま~ましろちゃん、遅くなってごめんねぇ」


あめことかしわが駆けてきた。


「じゃあ、社宅に案内するから、ついてきて!」


バラ園を抜けて、かしわが、小さな門にカギを挿し込み、きぃ……と開けて、社宅へと向かった。

3人で小声で話しながら進む。

左右には等間隔で小さいながらしっかりとした平屋が並んでいたが、その入り口は個性にあふれており

だれがどこに住んでいるのかがすぐにわかるようになっていた。

表札がかわいらしくデコレーションされていたり、最初のままだったり、入り口に

うさぎの置物なんかを置いていたりする。


「中はフローリングだからね。絨毯は無地の水色の毛足がもふもふな奴が敷いてあるよ」


あめこがあれこれと説明する。


「家具も一式置いてあるし、独り暮らしするにしろ、お金と最低限の着替えがあればもう

その日から生活ができるからね」


「お風呂もついてるんですよ! もちろん洗面所とおトイレは別です。

あめこさん、ここに来る前ひどいアパートに住んでたって言ってて、ここに来た時

何度も案内してくれたジョッキーさんに聞いてましたもんね。

本当にお風呂と洗面所が別なのかーっ! て」


「ああ、恥ずかしいからその話は……」


あめこは顔を真っ赤にして慌てて遮った。その様子が面白くて、ましろは思わず笑った。


「あめこさん、もしかしたら、木造40年とかのアパートに住んでたんですか?」


「そ、そう! 初期費用で30万持ってかれたのに、変な住人が住んでて

1年で府中に逃げ込んできたの。だから、ましろちゃん。住みたいアパートがあっても

ちゃんといろいろ確認するのよ!

府中は幸い、競馬場があるから物価は安いから」


さりげなくましろに助言した後、目的の家にたどり着いた。


「はい、これカギです。まず今日はちゃんと休んでくださいね」


かしわがカギを手渡す。

カギには、モーリスのストラップが揺れていた。


「あ、モーリスのストラップですか?」


ましろが嬉しそうにかしわに訊いた。

かしわはうなずいた。


「ずーっと昔の、実は、エクレールの祖先なんですよ」


かしわが、あめこを見ながら微笑んで言う。


「えーっ! エクレールの! 全然似てないですね」


ましろは驚いた。

エクレールは栗毛で靴下をはき忘れているが、モーリスは、鹿毛で、右後ろ脚の蹄に

マニキュアを塗っている。


「性格は絶対エクレールのほうが悪いからね」


あめこはそう言って笑い、ましろに、未開封のグミを差し出した。


「これ、さっき買ったやつ。あげるよ。じゃあ、今日は、私も帰るわ。眠いし」


あくびをしながらあめこは自分の社宅に戻っていった。

かしわは一度振り返って、ましろに言う。


「ましろちゃん、かわいい服買ってたから、明日また見せてくださいね!

エクレールとシルバープリンスも楽しみにしてましたから!」


そういって、あめこの後についていった。

2人の後姿を見送り、自分も社宅の中に入り、見て回った。

小さな玄関は、清潔に保たれており、入ってすぐは台所、奥にはお風呂があった。

湯舟はそこそこ広めであり、新しかった。

お風呂の隣にはトイレ、そして、独立洗面所、そしてフローリングの部屋が2つある。


「こっちはリビング? こっちは寝室かしら……」


水色の絨毯はふかふかであり、小さいながらテレビもおいてある。

時間はちょうど、ましろの好きなドロドロの恋愛ドラマを放送している時間だった。

寝室と思われる部屋には、シングルサイズのベッドがおいてあった。


「よし、ドラマを見て気を落ち着けよう」


ましろは切り替えて、今日くらい夜にお菓子を食べていい、と決めて

冷蔵庫の中にストックされていたミネラルウォーターのおつまみに、さっきもらった

グミを食べながら、ドラマを見た。

物語は不倫をしていた男が、だました女2人に復讐される場面で終わった。


「すっきりした! お風呂入って寝よう」


ましろはシャワーを浴びて、新品のパジャマを着て、そのままベッドに飛び込んで寝た。

夢を見た。

夢の内容は、ましろはなぜか大量のニンジンを持っており、そのニンジンを狙う

エクレールに追われるという、なんともシュールな内容だった。

気が付けば朝の9時になっていて、ましろは慌てて着替えた。

昨日買った服のタグを切り、頭からかぶり、ズボンを履く。

今は10月なので、秋色コーデ。というやつである。

スマートフォンの充電は10パーセントを切っており、何か忘れている気がして

慌てて持ち運びのバッテリーで充電する。

競馬場の中にあるお土産屋さんに行けば、かわいい充電コンセントが売ってたような気がするので

今日買ってこようと思った。


「あ、カフェに電話!」


充電しながら、ましろはカフェに電話をかける。


『お電話ありがとうございます。~G1珈琲店です』


同僚の声が電話に出た。


「あ、おはよう。私、新島ましろ。お願いがあるんだけど、店長と変わってくれる?」


同僚の声を聞いて少し安心したましろは、店長に話があるから変わってほしいと頼んだ。


「店長おはようございます。新島ましろです」


ましろは、昨日何があったかをすべて話した。


「実はですね、昨日、シェアハウスを追い出されてしまいまして……

それで、府中本町に乗り過ごしてたどり着いてしまいまして……

はい、隣の県に友人のお葬式に行っていました。

それで急に。はい、大変でしたが、今は府中本町で親切な方……

はい、競馬協会の方に拾っていただいて、競馬場内の社宅に泊めていただきました。

なので当分は府中にお世話になるので、私は当分お休みする方向で

お願いしたくて……また進展あったらまたご連絡いたしますので

よろしくお願いいたします」


店長はひどく心配していたが、競馬協会の人に拾ってもらった、競馬場内の社宅にいること

府中にいることを話したら、安心して、また何かあったら電話をかけてくるように

ましろに念押しをしていた。


「よし、一安心」


店長を驚かせてしまって申し訳ないと思いつつ、ましろは実は、大好きな競馬場で

夜を明かしたことに、内心ワクワクもしていた。

大好きなエクレールの得意コースなのだ。

ピンポーン、と、インターホンが鳴った。

モニターを見てみると、馬の鼻づらが見えて驚いた。

シルバープリンスとも、エクレールとも違う、黒い鼻づら。


「はい、おはようございます……」


外に出てみると、あめことかしわがそれぞれ、エクレールとシルバープリンスを連れて立っていた。

さらに驚いたことに、青鹿毛の馬を連れた、あめこと同じ背丈の女性が立っている。


「おはよう。君がましろちゃん? わたしはかのこ。あめことかしわと友達。

この子は、ソードマスター。今年の札幌記念を勝ったの」


ましろはもちろん知っていた。

ソードマスターももしかしたら見れないかな、と思っていたけれど、本当に見れると思っていなくて

ましろはうれしくなった。


「ソードマスター! 一度だけ毎日王冠で見たけど、かっこいいです!」


『そう? そりゃ、札幌記念を最低人気で勝利させてもらったからね』


ソードマスターは、透明感のある声で、ましろに語り掛ける。

エクレールのように子供っぽくも、シルバープリンスのように気取ってもいない

自然な声であった。


『私の名前はソードマスター。以後お見知りおきを』


ソードマスターは、そう言って頭を下げた。


「ん。いい子だねソードマスター」


かのこはソードマスターの頭を撫でてやる。


「ソードマスターがね、札幌記念を勝った時、面白かったんだよ。

札幌競馬場全体がざわついて、阿鼻叫喚の地獄絵図みたいでね。

勝つ瞬間は、断末魔がこだましたって、後で、見に来てた馬主に教えてもらったんだ」


楽しげにかのこはましろにその時の様子を教えてくれた。


「あめこのエクレールが340倍で勝利した時とどっちが断末魔響いたんだろうね」


そういってましろを、かのこは見た。

ソードマスターもましろを見る。

ましろは、答えられなくて、笑ってごまかした。


『俺様は最低人気じゃなかったけど、ソードマスターは最低人気だったから、ソードマスターの

ほうが断末魔が響いたんじゃないか?』


エクレールが威張り散らしてそう言った。

そのエクレールを、かのこも、かしわもまるで小さな男の子が威張っているのを温かく見守る

ような、シュールな空気が漂い、あめこは居心地悪そうに、こらっ!と、軽く

エクレールの額をたたいた。


「あ、今日は競馬場の中案内しようと思って、ましろちゃんを迎えに来てみたんだけど

一緒にどうかな? もう何度も来てるから知ってる?」


かのこがましろに尋ねた。

ましろは今日は、お土産屋さんにある、馬の耳が付いたかわいい

充電ケーブルを買おうと思っていたのだ。

ついでに買わせてもらえばいいと思い、口を開いた。


「あ、案内のほうぜひお願いします! お土産屋さんで買い物したくて……」


ましろがそうお願いすると、3人と3頭はにっこり笑って(馬のほうは、柔らかい雰囲気で鼻を鳴らして)

頷いてくれた。

ましろはポケットに折り畳み財布と、持ち運びバッテリーで充電中のスマートフォンを

突っ込んで手ぶらで出てきた。


「あ、そういえば、ましろちゃんに渡したいのがあるんです」


かしわが、シルバープリンスにかけてある袋から、何かを取り出した。

白い布で、それをかしわが広げる。


「はい、これ、トートバッグ」


ゆるい馬のイラストが描いてある、かわいいトートバッグだった。


「黒いカバン以外持ってないの思い出して、私が買ったんです。

よかったらどうぞ!」


かしわが笑顔でましろに言う。

ましろは笑顔でお礼を言う。

こんなにたくさん人に親切にしてもらえると思っておらず、ましろは戸惑っていた。

トートバッグの中に財布とケータイを入れて、鍵を閉めて、4人と3頭で並んで

競馬場の中に歩いていく。

後ろではエクレールが一方的にソードマスターを威嚇しており、それをソードマスターは

涼しい顔でやり過ごしていた。

かのこもあめこも冷静なので、エクレールが襲い掛かる様子もない。

まったく、動物とかかわり切れる人はすごいと、ましろは心の奥底から思っていた。


「バラが相変わらずきれいですね~!」


うっとりと、かしわが言った。


「ましろちゃんは、バラは好きですか?」


ましろはもちろん! とうなずいた。


「はい。いつも、ここに来ると必ずバラ園は見るくらい、バラは好きです」


「ましろちゃんが来てたのは、主に土日だよね?」


あめこが口を開く。


「はい。エクレールや、ソードマスター、シルバープリンスが走るのが

土日だったので。」


『そっか! じゃあ、平日はびっくりするぞ。いろいろ様子が違うからな!』


エクレールは自信満々に言う。


『だって、子供たちが掃除してるんだぜ!』


ましろは目を丸くした。

競馬毎日やってもいいんですよ(小声)

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