【人造魔王エルバルト】
押し寄せる魔物の群れを前に、
アリアンネは言葉を失っていた。
魔王だけでも精一杯。
そこへ、森を埋め尽くすほどの魔物が迫ってくる。
それでもエルゼは、
魔王ゼルヴァディオンと一人で戦っていた。
「こんな状況なのに……
どうして、あなたは戦えるの……」
アリアンネは、エルゼの姿を見つめていた。
その背中を見つめているうちに、
アリアンネは握っていた剣に、もう一度力を込めた。
「そうね……諦めたら終わりよね」
「私は剣聖アリアンネ・クロスウインドよ」
アリアンネは、魔王へ向かって駆け出した。
同じ時間、別の場所で。
その場にいるのは、
カミラと数名の男女。
「カミラ、なんで戻ってきた?」
「古代の魔王ゼルヴァディオンよ?」
「だから?」
「あれを相手に生き残れるはずないでしょ」
「カミラ……君は遊びすぎなんだよ」
「だから魔王を使ってるじゃない」
「もういい、エルバルト。
剣聖はおまえが片付けろ」
「了解……」
「あの男が一人で剣聖を
やれるわけないじゃない」
「一人ならな……魔王と数多の魔物が、
いるだろう?」
「そういう事……」
場所は戻り魔の森。
エルゼとアリアンネの猛攻により、
魔王ゼルヴァディオンの動きがわずかに鈍った。
だが、それでも倒すには届かない。
そこへ、一人の男が現れた。
「そろそろ頃合いだな……」
『万魔簒奪』
足元から黒い霧が広がり、
魔王と魔物たちを包み込んだ。
次の瞬間、魔王と魔物が黒い球になり、
その男に吸い寄せられる。
男の姿が、徐々に変わっていく。
禍々しい鎧を身に纏った姿へと。
右手には、大きな鎌が握られていた。
(気をつけろ琴音、何かヤバそうだ)
『鑑定眼』
エルバルト・クロウゼイン ♂年齢:35
Lv60 人間族 職業:人造魔王
「さて、魔王の力を試してやろう」
エルバルトがアリアンネに襲いかかる。
紙一重で躱し反撃するが、
剣が当たる瞬間エルバルトが転移する。
アリアンネが叫ぶ。
「エルゼちゃん後ろ!」
エルゼが後ろへ振り向くと、
目の前に振り下ろされた鎌が迫っていた。
半身エルゼが、エルゼの身体を蹴り飛ばす。
(悠人!?)
エルゼが体勢を立て直し、
エルバルトに向けて構える。
(助かったわ、ありがとう)
(ああ、しかし速さがさっきまでとは、
全然違うな……)
(うん、しかも今転移したよ)
アリアンネがすかさず斬りかかり、
剣を振るうが、
エルバルトは大鎌の柄でそれを受け止めた。
そのまま刃を返し、横薙ぎに払う。
アリアンネは身を沈めて躱すが、
鎌の刃が髪先をかすめた。
エルゼもエルバルトに斬り込む。
剣と鎌がぶつかり、火花が散る。
エルゼが踏み込む。
だが、鎌の刃が剣を絡め取った。
「くっ……!」
次の瞬間、エルゼの体が横へ弾かれる。
エルゼは鎌の軌道をかいくぐり、
一気に懐へ踏み込もうとする。
「遅い!」
エルバルトは転移でエルゼの背後へ飛び、
鎌を振り下ろす。
そこへアリアンネが剣で受け止める。
受け止めたアリアンネの腕が震える。
「重い……」
「今よ!」
エルゼがエルバルトの懐に入り、
斬りかかる。
だが、刃が届く寸前、
エルバルトの姿が揺らいだ。
(また転移……!)
エルゼがそう思った瞬間……。
悠人が空間の歪みを見つける。
(こっちだ!)
半身エルゼが反応し、
魔法弾を撃ち込む。
次の瞬間、
何もないはずの場所にエルバルトが現れる。
「なっ……」
エルバルトの反応が遅れた。
半身エルゼの魔法弾が、禍々しい鎧を撃ち砕く。
「ぐあっ……!」
エルバルトの体が大きく吹き飛んだ。
地面を転がりながらも、
エルバルトは大鎌を杖のように突き立てる。
「魔王の力を得た俺が……」
その体から、黒い霧が漏れ出していた。
取り込んだ魔王と魔物の力が、
少しずつ剥がれ落ちていく。
エルバルトの体勢が崩れる。
アリアンネが鎌を弾き飛ばす。
「エルゼちゃん、今よ!」
エルゼは一気に踏み込み、
剣を振り下ろした。
「これで終わり!」
刃がエルバルトの胸を斬り裂く。
「魔王の力を……上回るのか……」
その言葉を最後に、
エルバルトの体は黒い霧となって崩れていった。




