【攻めの二刀流と二丁魔導銃】
翌日。
ルナルロッカの外れにある、
アリアンネの別宅。
朝からアリアンネとエルゼは、
戦闘訓練をしていた。
二人の手には木剣。
だが、防具はつけていない。
「防具なしで、本当に大丈夫なんですか?」
「魔物との戦闘では、
一撃が致命傷になることもあるわ。
感覚を磨くためにも、
防具はつけない方がいいのよ」
「でも当たれば痛いから。
避けないと辛いわよ」
アリアンネはそう言って、
木剣を静かに構えた。
木剣は、
痛みだけが強く残るように加工されている。
薄手の訓練着越しに受けても、
骨を折るほどの怪我にはならない。
訓練が始まると二人は激しく打ち合う。
二人の動きは速い。
踏み込み、避け、斬り返す。
木剣同士がぶつかる音だけが、
庭に何度も響いた。
「今のエルゼちゃんは、近接の一撃が軽いわ。
なら、手数で補った方がいいわね」
アリアンネにそう指摘されていたのだが、
片手だけでは、どうしても手数に限界がある。
息を切らすエルゼを見て、
アリアンネは静かに木剣を下ろした。
「これを使ってみなさい」
アリアンネが、
庭の隅に置いてあった短い木剣を投げ渡す。
エルゼはそれを左手で受け取り、
右手の木剣を握り直した。
左手に短い木剣。
右手に木剣。
エルゼは二つの重さを確かめるように、
構えを変えた。
最初は思うように動けなかった。
左手の短い木剣が遅れ、右手の木剣の軌道を邪魔してしまう。
「普通なら、左は守り。右は攻め。
でもエルゼちゃんの場合は違うわ」
「違うんですか?」
「あなたの一撃は軽い。
なら、守るより先に攻め続けなさい」
アリアンネの言葉に、エルゼは息を整える。
左で斬り込み、右で追う。
右で押し込み、左で打ち込む。
受けるためではない。
相手の動きを止めるために、二本の剣を振るう。
今まで無理に繋げていた動きが、
一つの流れに変わっていく。
《新規スキル『双刃戦技』を取得しました》
訓練は、さらに激しさを増していった。
アリアンネの動きに、
エルゼも少しずつ食らいついていく。
夕刻が近づく頃には、
二本の木剣の動きが完全に噛み合っていた。
左で斬り、右で重ねる。
右で押し込み、左で踏み込む。
守るための二本ではない。
攻め続けるための二本だった。
攻撃のたびに、
溜め込んだ力が剣撃へ自然に乗っていく。
今まで身体の奥に溜めていた力が、
剣を通して外へ流れていくようだった。
《条件を満たした為、スキルが変化しました》
《『蓄積解放』が『闘剣解放』へ変化しました》
「今日はこれくらいにしましょう」
「ふぅ…… アリアンネさんが相手だと気が抜けないですね!」
「気を抜かせないための訓練だもの。
でも、よくついてきたわ」
アリアンネはエルゼの両手の木剣を見る。
「その二本、あなたには合っているかもしれないわね」
「私もすごくやりやすいです」
エルゼは両手の木剣を握り直す。
その感覚は、まだ腕に残っていた。
(確かに、琴音には合ってそうな戦い方だな)
すでに日も落ちかけていた。
宿屋まで戻るには少し遠い。
エルゼはその日、
アリアンネの別宅で休ませてもらうことにした。
その後、仲間たちにも事情を伝え、
しばらくの間、別宅で訓練に集中することになる。
その日から数日間。
エルゼはアリアンネの別宅に泊まり込みで、
二本の木剣を使った訓練を続けた。
新しく獲得した『双刃戦技』と『闘剣解放』も、
日が経つごとに体へ馴染んでいった。
(琴音、左も長い木剣でやってみたら、
いいんじゃないか?)
(うん、私もその方がいいと思ってた!)
「アリアンネさん、
左も右と同じ長さで試してみたいです」
アリアンネは少しだけ目を細め、
エルゼの左手を見た。
「いいわよ。
その代わり、同じ長さの剣を二本扱うのは、
今までよりずっと難しいわよ」
「はい、やってみたいです」
アリアンネは小さく頷き、
庭の隅からもう一本の木剣を手に取った。
「なら、試してみなさい」
それから、さらに数日が過ぎた。
左右同じ長さの木剣にも、
エルゼは少しずつ慣れていった。
琴音が二本の剣を振るう間、
悠人は内側からその動きを見続けていた。
ただ見ていたわけではない。
琴音も自分の戦い方を見いだした。
自分にももっといい戦い方があるはずだ。
ずっとそう考えていた。
(琴音、ちょっといいかな?)
(どうしたの?)
(俺も新しく戦闘スタイルを考えたんだけど)
(ずっと何か考えてる様子で、
気になってはいたのよね)
(まあな。琴音は剣で手数を増やした。
なら、俺は魔法で手数を増やせないかと思ってさ)
(魔法で?)
(ああ。二丁の魔導銃を作って、
そこに魔法を込めて撃つ。
そんな戦い方だ)
(敵からすれば、
琴音一人を相手にしているつもりでも、
そこに俺の魔導銃が加わることになる)
(剣の連撃に、魔法の弾幕を重ねる。
相当な火力になるはずだ)
(並の敵なら瞬殺しちゃいそうね)
(相手が一人でも、数が多くても、
これなら対応しやすい)
いつの間にか、
辺りはすっかり暗くなっていた。
「今日はそろそろ終わりましょう」
アリアンネの声に、
エルゼは木剣を下ろした。
「はい。ありがとうございました」
その日の訓練はそこで終わり、
エルゼはいつものように、
アリアンネの別宅の一室で身体を休めることにした。




