【仲間を斬る覚悟】
目を開けると、見慣れない天井があった。
周囲を見回すと薄汚れた壁が見える。
部屋にあるのは、
自分が寝かされている古いベッドだけだった。
さっきまでいた場所ではないらしい。
どこかに連れてこられたのか……。
「もう目が覚めたのね」
声のする方へ顔を向けると、
そこには先程の女がいた。
「あなたは、さっきの……」
「何が目的なの?」
「それは言えないわ、
代わりに名前だけ教えてあげるわ。
私は《カミラ・ローレイン》」
「次はあなたのことを教えてもらえる?」
「……」
「言えないのかしら?」
エルゼは警戒したまま、口を閉ざした。
「面白い子ね、冗談よ」
カミラは楽しそうに、指先で髪をかき上げた。
「実は、あなたのことはもう知っているのよ」
「えっ?」
「冒険者のエルゼちゃんね…。
それに、目的はアリアンネの救出……違う?」
「彼女なら、この先よ」
カミラは奥の扉を指差した。
「ただし、無事に会えるかはあなた次第だけど」
「何で、そんなことを教えるの?」
「そのほうが面白いからよ」
「それより早く行ったほうがいいわよ?」
エルゼは立ち上がり、
扉の方へ歩き出す。
「ああ、少し待ちなさい。
今のままだとつまらないから武器だけあげるわ」
エルゼは警戒しながら剣を受け取る。
鞘からわずかに刃を抜く。
本物の剣だ。
(琴音、気をつけろ)
(うん…)
扉を開け、先に進む。
そこにいたのは、
アグニード、ヘレナ、イリア、リゼ。
四人の姿があった。
「みんな……」
走って駆け寄るエルゼ。
だが、その瞬間。
アグニードが大剣を振り下ろした。
エルゼは間一髪で身をひねり、
その一撃を躱した。
「アグニード!?」
何も答えないアグニード。
〈ウインドショット〉
放たれた風の弾丸が、エルゼの足元で弾けた。
「きゃっ!?」
衝撃で身体が浮き、
エルゼは床へ跳ね飛ばされた。
身にまとっているのは、
旅芸人一座の踊り子の衣装。
動きやすいが、
防具としての役割はほとんどない。
「みんな……どうして?」
(琴音、落ち着け)
(悠人、でも……)
(何かおかしい)
エルゼはアグニード達を見つめる。
(だが、このままじゃ……)
その時……。
〈ファイアボム〉
〈爆裂付与矢〉
二つの攻撃がエルゼの間近で爆発を起こす。
爆風で一瞬目を閉じた。
直後、リゼがエルゼの目前に現れる。
「あっ」
リゼの拳が腹部に叩き込まれる。
続けて蹴りが脇腹を打ち、
エルゼの身体が床を滑った。
(琴音、大丈夫か!?)
身にまとっている踊り子の衣装は、
すでにあちこちが裂けていた。
裾は破れ、布地には焦げ跡が残り、
土埃で元の色も分からない。
「リゼちゃんの攻撃、まともに受けちゃった」
(今、回復してやる)
〈ロイヤルヒール〉
エルゼの傷が少しずつ癒えていく。
(破れた布が足に絡みそう……)
エルゼは破れた衣装の端を掴み、
動きの邪魔になりそうな部分を結び直した。
裂けた裾を短くまとめ、
ほどけかけた布をきつく縛る。
「これで少しは平気かな」
アグニードが大剣を構える。
(あっ、そうか。
もしかして……)
(悠人?)
ヘレナが魔法を詠唱し、
杖に魔力があつまる。
(琴音、今からこっちも全力でいくぞ)
(でも、そんなことしたらみんなが!?)
イリアが『爆裂付与』を発動し、
矢が輝く。
(大丈夫だ、俺を信じろ!)
(……うん、わかった)
エルゼがアグニードに接近する。
アグニードの大剣とエルゼの剣が交差する。
〈シャドウランス〉
エルゼの背後に転化の影『半身エルゼ』が、
出現しアグニードに魔法を放った。
闇の槍がアグニードを容赦なく貫く。
半身エルゼはさらに、
ヘレナとイリアに視線を向ける。
〈フォトンアーク✕30〉
複数の光の筋がヘレナとイリアに振り注ぐ。
リゼがエルゼに飛びかかる。
(これで終わりだ!)
〈ヘル・バースト〉
黒い魔力の奔流がリゼを飲み込み、
その姿を跡形もなくかき消した。
(ふぅ…… 終わった)
(悠人!?)
(大丈夫だ、よく見てみろ)
エルゼがヘレナ達に視線を向けると……。
倒したはずのヘレナ達が光の粒子となり、
消えていく……。
(これは…… 偽物?)
(いや、ただの偽物じゃない。動きも連携も、本物と変わらなかった)
(たぶん、あれは……)
「なかなか面白かったわ」
そこへ歩いてくる女。
「カミラ……」
「でも、よく本物じゃないと見抜いたわね」
カミラが聞いてきた。
(悠人、なんでわかったの?)
(テラがいなかったからな)
(誰かに操られたりしてるなら、
全員いないとおかしいだろ?)
「今のはあなたが?」
(それで、今こいつが出てきたってことは)
(ルナルロッカのアリアンネも、
今のアグニード達も……)
「えぇ、私のスキル『完全複製』
で作ったのよ」
エルゼはカミラに身構える。
薄っすら笑いを浮かべるカミラ。
「そんなに警戒しなくても、
ここで戦うつもりはないわよ」
カミラの足元に魔法陣が展開される。
「じやあね、また会いましょう」
(転送魔法陣か……)
エルゼは周りを見渡すと……。
まだ奥があるな。




