【撤退の理由】
「あの大斧と大剣まともに食らえば
ただでは済まん」
(仕方がないどれだけ体がもつかわからんが
試してみるか…)
アッシュが静かに息を吐く。
『瞬脚強化』
脚の筋肉が裂けるように軋んだ。
踏み込んだ地面が爆ぜ、アッシュの姿が掻き消える。
次の瞬間には懐へ潜り込み、
無防備な脇腹へ拳を叩き込んだ。
「休ませはしないぞ!」
間髪入れずに攻める。
全力の拳を何発もめり込ませる。
アッシュに視線を向けるアルディオン。
鈍い衝撃音が連続で響いた。
(何故反撃しない…?)
アルディオンが僅かによろめき
鎧にヒビがはいる。
アッシュの拳が止まった。
次の瞬間、背筋に冷たいものが走る。
アッシュは反射的に地を蹴る。
距離を取りながら、
アッシュの額を汗が流れる。
「ほう…さすが『拳聖』今のを理解するか、
あまり鈍くはないようだな」
(今少しでも離れるのが遅かったら
ワシは斬られていただろうな)
(しかもあれだけ打撃を入れたのに…)
アルディオンは何事もなかったかのように、
動かない。
「ここで殺すには惜しい男だ」
「この国での用は済んだ」
そう呟くように、アルディオンは背を向けた。
「また会おう『拳聖』」
重い足音が遠ざかっていく。
アッシュは構えを解けぬまま、
その背中を睨み続けていた。
「おじいちゃん!」
リゼがアッシュに抱きつく。
そこへ騎士がやってきた。
「アッシュ殿」
「おぉ、今どんな感じじゃ?」
「魔物は突然撤退を始めました」
騎士は言葉を詰まらせた。
「しかし被害は……想像以上です」
「おじいちゃん、私みんなを探してくる」
リゼは急いでヘレナ達と合流した。
幸い四人とも無事だったが…。
「エルゼちゃんがまだ見つかってないの!」
リゼが近くの騎士へ駆け寄る。
「エルゼという緑髪の子を見なかった!?」
「あ、あぁ……中央広場で倒れていた所を発見され、宿屋『砂風亭』へ運ばれたはずだ」
リゼ達はすぐに『砂風亭』へ向かった。
亭主に案内されエルゼのいる部屋へ…。
ベッドで治療を施されているエルゼは、痛々しい姿だった。
包帯は何重にも巻かれ、血が所々に滲んでいる。
回復魔法も何度かは試したらしいが、
傷はまるで治癒の光を受け付けなかったという。
「治らないんですか?」
「ただ、命に別状はない。時間をかければ戻る」
「よかった…」
一行はエルゼが目覚めるまで
『砂風亭』に滞在する事にした。
数日後…
静かな部屋の中で、ようやく意識が戻る。
長い眠りの底から、意識だけが浮かび上がる。
ゆっくりと、エルゼの瞳が開いた。
「ここは…?」
(悠人、あの後何が?)
問いかける琴音、だが返事がない。
(悠人……?)
呼びかけるが、返答はない。
それでも、存在そのものは確かに感じていた。
そこへ、ヘレナ達が入ってきた。
「エルゼちゃん!」
「ねぇね起きた!」
みんなの安心した顔が見えて、
エルゼの口元にも自然と笑みが浮かんだ。
「みんなありがとう…」
「エルゼ 今回の襲撃の件で、少し話をまとめておきたい」
「うん……何があったのか、聞かせて」
エルゼは小さく頷いた。
「それと、リゼ。アッシュにも同席してもらいたい」
「国がこんな状況だから、おじいちゃん忙しいかも……」
「それは承知の上だが、ギルドが掴んでいる情報を少しでも今は欲しい」
「うん、とりあえず聞いてくるね」
「頼む」
「ねぇね大丈夫?、無理してない?」
テラがエルゼの事を心配そうに見つめる。
「うん、ありがとうテラちゃん…」
「普通じゃないよね…
回復魔法が効かないなんて」
ヘレナが不思議そうに問う。
「…そうだよね、何でかな」
心当たりがあるのか、
エルゼは戸惑うように話をにごませる。
「今は怪我の具合はどうなの?」
「今は大分よくなったよ、みんなに心配させちゃったね…」
そこへリゼが入ってくる、
後ろにはアッシュもいた。
「お主たちには、大変感謝しておる」
「ギルマスとしてもリゼの祖父としてもじゃ」
「アッシュはこの国が襲われた理由に
ついて心当たりはないのか?」
とアグニードが尋ねる。
「ふむ…」
「そういえば」
エルゼがきりだす。
「私が戦った『鎧の男』が最後に
『これからあれがどう動くか』って」
「『あれ』ってなんだろうね」
「誰かの事か…またはどこかの国、
あるいは組織?」
「ここの国を襲ってきた奴らと同じとは限らないけど『ラ・ジール王国』も襲われてるし、
偶然で片付けるには、少し出来過ぎている」
「目的がわからない以上確証は持てんな」
アッシュが低く吐き捨てる。
「断言はできんがノストコードも、
危険かも知れん」
部屋の空気が、重く沈んだ。
エルゼが切り出す。
「『ラ・ジール王国』に行ってみませんか?」
「私達はまだ現状をみていないわけですし、
行ってみたら何か手がかりがあるかも」
「それは一理あるな、
ここで考えていても分からん」




