【オアシスに潜む怪物】
受付嬢は一枚の依頼書を取り出した。
「最近、砂漠のオアシス付近に
Bランク指定の魔物が現れているんです」
「Bランク?」
周囲の冒険者達がざわつく。
「Fランクに紹介する依頼じゃなくない?」
「いやもうFランク詐欺だろあの子達」
ひそひそと声が飛ぶ。
受付嬢は苦笑しながら続けた。
「本来なら中堅以上向けなんですが……
皆さんなら問題ないかと」
「ちなみに魔物は?」
アグニードが尋ねる。
受付嬢は依頼書を見ながら答えた。
「『デビルワーム』です」
その瞬間、
周囲の空気が少し変わった。
「うわ……」
「よりによって魔蟲かよ」
「オアシス付近に出ると厄介なんだよな……」
冒険者達が顔をしかめる。
リゼが首を傾げた。
「そんなに強いの?」
「強いというより面倒だな」
アグニードが説明する。
「砂の中を高速で移動する上、
奇襲を仕掛けてくる」
「しかもデカいわよ」
ヘレナも続ける。
「下手すると家くらいある」
「家?!」
リゼが目を丸くした。
エルゼも少し驚く。
「そんなのがオアシスに?」
「最近、
旅人や商隊の被害が増えてるんです」
受付嬢の表情が曇る。
「水場を潰されると、
砂漠を渡る人達が危険になりますから……」
「なるほどな」
アグニードは依頼書を受け取った。
「受けよう」
「即決ね……」
ヘレナが苦笑する。
「まぁ放置もできんだろう」
アグニードも頷いた。
「こういう正式依頼は久々だしね!」
リゼはやる気満々だ。
「依頼書の時点で嫌な予感してた……」
イリアが小さく呟く。
「絶対こうなると思ったわ」
ヘレナが遠い目をする。
エルゼは依頼書を覗き込む。
『目的地:
中央砂漠・オアシス』
「また砂漠か……」
遺跡探索の疲労を思い出したのか、
全員の顔が少し引きつった。
「まぁ今回は遺跡探索じゃないだけマシだろ」
アグニードが笑う。
「確かに……」
エルゼも苦笑した。
受付嬢は必要書類をまとめながら言う。
「討伐確認部位は牙です。
かなり大型なので、
複数本持ち帰れば討伐証明になります」
「了解」
「あと、
デビルワームは振動に敏感なので
砂漠では注意してくださいね」
「振動?」
「大きな足音や戦闘音で
地中から襲ってくる事があります」
それを聞いた瞬間、
全員の視線が自然とリゼへ向いた。
「え、何でみんな見るの?!」
「お前結構うるさいからな」
「ひどっ?!」
場に笑いが起きる。
こうしてエルゼ達は、
新たな依頼を受ける事になった。
目的地は、
灼熱の砂漠に存在する命の水場ーー
エルゼ一行は砂漠に向かう
数時間後ーー
灼熱の砂漠を進んだ先に、
青く輝く水場が見えてきた。
『中央砂漠オアシス付近』ーーー
灼熱の砂海の中、
エメラルド色の水面が揺れていた。
オアシス周辺には、
風化した岩場が点在している。
「砂漠のオアシスっていいわね」
「うん とっても綺麗」
リゼも嬉しそうに水辺へ近づく。
その時、
オアシスの水面に大きな波紋が広がった。
まるで何か巨大なものが、
水中を動いたようだった。
「……?」
リゼは不思議そうに首を傾げる。
だが次の瞬間には、
水面は何事もなかったかのように静まり返った。
アグニードは周囲を警戒していた。
「綺麗だけど……
なんか静かすぎない?」
その言葉に、
エルゼも辺りを見回す。
確かに妙だった。
生き物の気配が薄い。
「……何かいる」
イリアが小さく呟いた瞬間だった。
ズゴゴゴゴゴゴゴッ!!
突如、
オアシス周囲の砂が爆発するように吹き上がる。
「来るぞ!!」
アグニードが叫ぶ。
次の瞬間ーー
巨大な影が砂の中から飛び出した。
砂を突き破って現れたのは、
全長二十メートルを超える巨大な魔蟲だった。
岩のような外殻。
無数の牙。
まるで地竜のような怪物だった。
「うわぁ?! デカっ!!」
リゼが悲鳴を上げる。
デビルワームは咆哮を上げながら、
そのまま一行へ突進してきた。
「下だ!! 散開!!」
イリアの警告と同時に、
アグニードが叫ぶ。
直後、
さっきまで立っていた場所が爆散した。
ドゴォォォン!!
大量の砂が空へ舞い上がる。
「速っ……!」
エルゼが目を見開く。
巨体の癖に異常な速度だった。
しかもーー
「また潜った!」
ヘレナが叫ぶ。
デビルワームは一瞬で砂の中へ消えていた。
砂漠の地面が波打つ。
まるで海の中を泳いでいるようだった。
「来る場所が分からない……!」
イリアは周囲の砂の流れを鋭く見つめる。
「……右だ! 来る!」
次の瞬間、
リゼの足元が大きく盛り上がった。
「リゼ!!」
エルゼが叫ぶ。
ズガァァァァン!!
砂を突き破り、
巨大な口が現れる。
「きゃあああっ?!」
間一髪、
リゼは後方へ飛び退いた。
だが衝撃で吹き飛ばされる。
「きゃっ?!」
着地に失敗し、
リゼは砂の斜面を何度も転がった。
口の中に砂が入り込み、
視界がぐらつく。
「このっ!!」
ヘレナが魔法を詠唱する。
「《ウインドショット》!」
風の球が放たれる。
ドゴォッ!!
直撃。
だがーー
外殻に当たった風の球は、
大きく弾かれた。
デビルワームは怯むどころか、
怒ったように咆哮を上げる。
「硬すぎる……!」
「厄介すぎるだろ!」
アグニードが前へ出る。
「エルゼ!
動きを止められるか!」
「やってみる!」
エルゼは剣を握り、
突進してくるデビルワームへ飛び込んだ。
振り下ろされる巨大な顎。
エルゼは紙一重で回避し、
その側面へ斬撃を叩き込む。
ギィン!!
「っ……?!」
硬い。
まるで鋼を斬った感触だった。
衝撃が腕から肩へ突き抜ける。
骨が軋み、
剣を握る右手が痺れた。
思わず顔が歪む。
それでも無理やり剣を滑らせ、
外殻の隙間を狙う。
ザシュッ!!
緑色の体液が飛び散った。
「ギャォォォォッ!!」
デビルワームが暴れる。
巨大な尾が横薙ぎに振るわれた。
「危ない!」
アグニードがエルゼを突き飛ばす。
ドゴォォォン!!
直後、
近くの岩が粉々に砕け散った。
「今の直撃してたら終わってたぞ……!」
アグニードの額に汗が流れる。
しかし、
デビルワームは止まらない。
再び砂の中へ潜る。
ズゴゴゴゴゴ……
砂漠全体が揺れる。
「まずい……
完全に地形を利用されてる」
ヘレナが険しい顔をする。
(仕方がない 琴音代われ)
(うん!)
『存在変化』
エルゼの瞳が赤く染まる。
(本当はみんなに頑張ってほしかったが
そんな事言ってる場合じゃない)
(一気に片付けるぞ)
スキルを発動していくエルゼ。
『ライトレーザー✕10』
地面ごと『デビルワーム』を
撃ち抜く。
十本の光が砂漠を貫いた。
直後、
地中から絶叫が響く。
「ギャォォォォッ!!」
次の瞬間ー
ドゴォォォォォン!!
砂漠が爆発するように吹き飛び、
巨大なデビルワームが地面から叩き出される。
デビルワームの外殻には、
無数の光の穴が空いていた。
煙を上げ、
緑色の体液が滝のように流れている。
(全部は当たらなかったみたいだが十分だな)
「地面ごと撃ち抜いた…?」
ヘレナの声が引きつる。
「エルゼちゃん凄すぎ…」
「これ以上長引かせたくないんでね」
『ライトレーザー✕10』
続けざまに攻撃する。
ズドドドドドドドドッ!!
十本の光線が、
『デビルワーム』へ降り注ぐ。
沈黙、そして
ドォォォォォン……
『デビルワーム』の巨体が
砂漠にひれ伏した。




