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【束の間の平穏】

アグニードは崩れかけた遺跡を見上げ、


静かに息を吐いた。


「完全崩落も時間の問題だな」


まだ奥の方では、


ゴゴゴ……と不気味な振動が続いている。


「あんな場所に閉じ込められてたとか

今思うとゾッとするわね……」


ヘレナが苦笑する。


アッシュは地面に座り込み、

疲れたように肩を回した。


「おじいちゃんはいつも元気そうだけど

結構ボロボロだよね」


リゼがくすっと笑う。


「そうかの?」


軽口を叩き合う二人を見て

イリアもほっとしたように微笑んだ。


緊張で張り詰めていた空気が

ようやく少しだけ和らぐ。


エルゼは空を見上げる

青空だった。


遺跡の中ではずっと薄暗く

時間の感覚すら曖昧だった為か

陽の光が妙に眩しく感じる。


(色々あったな)


悠人も静かに呟く。


「帰るぞ」


アグニードの一言で

一行は歩き出した。


ーーーーーーー


砂漠を歩く足取りは重い。

空は既に赤く染まり始めていた。


「……やっと帰れる」


イリアが安心したように呟く。


「宿のベッドで寝たい……」


ヘレナも珍しく弱音を漏らした。


「お風呂も入りたいわね」


「それね!」


リゼが元気よく同意する。


そんな会話を聞きながら

エルゼは少しだけ笑った。


数日前までは

生き残ることで精一杯だった。


だが今はこうして

仲間達と並んで歩いている。


失うかもしれなかった日常が

今はすぐ隣にある

その事実が

妙に温かく感じられた。


ーーーーーーー


数日後ー。


『モルビワ』の街。


市場には活気ある声が響き

行き交う人々の笑い声が聞こえる。


焼きたてのパンの香り。


露店に並ぶ果物や装備品。


いつも通りの日常の景色。


「平和ねぇ……」


街を歩きながら

エルゼがぽつりと呟く。


「何だよその反応」


アグニードが呆れたように笑う。


「……最近ずっと

戦ってばっかりだったから」


「エルゼはもう少し休んでも

いいんだろうけどな」


その時。


「エルゼさん!」


後ろから声が響く。


振り向くと

手を振りながら駆け寄ってくる少女の姿。


ギルド受付嬢だった。


「無事だったんですね……!」


安心したように胸を撫で下ろす。


「遺跡の崩落騒ぎを聞いて

みんな心配してたんですよ!」


「色々あったけどね」


苦笑するヘレナ。


「でも帰ってこれた」


「今日はもう休んでください!


アグニードさん達もかなり疲れてますし!」


「賛成だ」


珍しく即答するアグニード。


それを聞いて

全員から笑いが漏れる。


こうして

エルゼ達は束の間の平穏を手に入れた。


宿屋に戻るエルゼ一行。


エルゼはイリア ヘレナ リゼ テラと

お風呂に入っていた。


「はぁ… 久しぶりのお風呂」


「でも生きててよかった…」


「ほんと もうだめかと思ったんだから」


「ごめんね」


「うん ねぇね無事でよかった」


湯気の立ち込める浴場に、

しばらく静かな時間が流れる。


翌日ー。


宿屋一階でみんなで朝食をとっている。


アグニードが問う。

「リゼ達はリヒータ王国に帰るのか?」


アッシュがそれに答える。


「それなんじゃがリゼをお前達のパーティに入れてもらえないだろうか?」


「おじいちゃん?!」


「嫌か?」


「そんな事ないけど…」


「エルゼ嬢どうかの?」


「うーん、私は嬉しいけど」


「いいの? やったぁ!」


「ありがとう、これからもよろしくね!」


(また仲間が増えたんだな)


(うん!)


「アッシュさんはどうするの?」


「わしは王国のギルドにもどるぞ」


「孫をよろしく頼む!」


「はい!」


「エルゼちゃんこれからどうするの?」


「ギルドの依頼かな?」


「そうだな もう数日は休んだし」


「依頼… 久しぶりよね」


「エルゼちゃんなんて

それだけ強いのにFランクだものね!」


「ハッハッハッ そうじゃのぅ」


「しばらくランク上げでもいいかもしれん」


アグニードの言葉に、

エルゼ達は顔を見合わせた。


「確かにねぇ……」


ヘレナが頬杖をつきながら呟く。


「今のエルゼちゃん、

Fランクの実力じゃないもんね」


「むしろギルド側が困るレベルじゃない?」


リゼが笑いながら言う。


「困るって何よ……」


エルゼは少し不満そうに口を尖らせた。


するとアグニードが真顔で言う。


「実際問題、

今のお前がFランク依頼を受けると

他の新人が泣く」


「そこまで?」


「そこまでだ」


即答だった。


その様子に

イリア達が吹き出す。


「まぁでも、

ランクを上げておけば

入れる場所も増えるしね」


ヘレナの言葉に、

エルゼも小さく頷いた。


今まで目の前の戦いに必死で、

ランクの事などほとんど気にしていなかった。


だが世界は広い。


これから先、

もっと危険な場所へ行く事になるかもしれない。


その時、

今の立場では不便になる可能性もある。


「じゃあ今日はギルド行ってみる?」


リゼが目を輝かせる。


「賛成じゃな」


「久々に平和な依頼を受けたいわ……」


ヘレナが遠い目をする。


「薬草採取とか?」


イリアが言う。


「それくらい平和なのがいい……」


「絶対何か起きる気がするんだけど」


リゼの一言で、

場が静まり返った。


「……やめろ」


「縁起でもないわね」


「でも否定できないのが怖い」


ヘレナ達が真顔になる。


エルゼも苦笑した。


「まぁ何とかなるでしょ」


そう言って立ち上がるエルゼ。


「行くぞ」


ーーーーーーー


『モルビワ』冒険者ギルド


朝だというのに、

ギルド内は多くの冒険者達で賑わっていた。


依頼掲示板の前では

大勢の冒険者が紙を見比べ、

受付では報酬受取の列ができている。


そんな中、

エルゼ達が入ってきた瞬間ー


「……おい」


「あれ……」


「遺跡から生還した連中じゃ……」


ざわり、と空気が揺れた。


視線が一斉に集まる。


遺跡崩落の件は、

既に街中へ広まっていたらしい。


「なんか見られてるわね……」


「有名人だな」


アグニードは気にした様子もなく笑う。


すると受付嬢がこちらに気付き、

慌てたように駆け寄ってきた。


「エルゼさん!」


「おはようございます」


受付嬢は安心したように微笑んだあと、

周囲をちらりと見回し、小声になる。


「皆さんが無事戻ったって聞いて、

ギルド内でもかなり話題なんですよ」


「そんなに?」


「そりゃそうです!

崩落した『マリシャ遺跡』から

生還したパーティなんて滅多にいませんから!」


周囲の冒険者達も、

興味津々といった様子でこちらを見ている。


「しかも……」


受付嬢は少し声を潜めた。


「中でかなりの魔物と戦ったって噂まで……」


「噂って広がるの早いわね……」


ヘレナが頭を抱える。


「誰が広めたんだろ」


「冒険者の口は軽いからのぅ」


アッシュが笑った。


その時、

掲示板前にいた大柄な冒険者が

エルゼ達へ近づいてきた。


「お前ら本当に遺跡から帰ってきたのか?」


「帰ってきたからここにいるんだけど」


ヘレナが呆れ気味に返す。


「いや……

崩落したって聞いた時は

全滅したと思ってた」


男は感心したように腕を組んだ。


「特にそっちの嬢ちゃん」


視線がエルゼへ向く。


「Fランクって聞いたぞ?」


「……一応」


「嘘だろ?」


周囲からも小さな笑いが漏れる。


「まぁそうなるよな」


アグニードまで頷いた。


「笑わないでよ……」


エルゼが少しむくれる。


すると受付嬢が慌てて話題を戻した。


「そ、それで!

今日は依頼ですか?」


「ああ、しばらくランク

上げでもしようと思ってな」


アグニードが答える。


「でしたら、

丁度いい依頼がありますよ!」

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