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【世界を拒絶した少女】

『エルゼの精神内』


そこにいる二人のエルゼ

一人は悠人だ。


「お前は一体何がしたいんだ?」


「知ったところで変わらないわ

もうすぐあなたは消えるのに」


そこへ現れるもう一人エルゼ

琴音である。


「悠人…」


琴音は悠人に視線を合わせない

仲間の為とはいえ

自分がした事が許せなかった。


悠人は一瞬だけ目を伏せる

本当は怖くなかったわけじゃない。


それでも—。


「お前は本気で俺を殺そうとは

しなかっだろう?」


悠人は琴音の性格は知っている

あの戦いで例え死んでいたとしても

悠人は琴音を責めなかっただろう。


悠人は琴音を抱きしめる。


「もういいから… 自分を責めるのはやめろ」


泣き出す琴音…


「こんな所まで来るなんて そんなに兄妹二人でいたいの?」


「わからないわね」


「私には何もなかった 家族も兄妹も周りの人間は誰も私の事を見なかった」


「幸せそうな奴を見るたび

私だけ世界から置いていかれた気がした」


「だから全部壊すことにしたのよ」


「でもそんな時あなた達を見つけた」


「あなた達を見てたら 初めは私の計画に利用しようとしたのよ」


「…くだらない話だけど

気づいたら羨ましくなってたのよ」


静かに語るエルゼ。


その声には今までの狂気とは違う

どこか寂しげな色が混じっていた。


「互いを信じて 傷ついても支え合って…」


「そんな関係になれる人は

私には誰もいなかった」


「だから壊したかったのかもしれない」


「壊してしまえば 見なくて済むから」


エルゼは俯いたまま

震える指を強く握り締める。


まるで自分自身に言い聞かせるようだった。


琴音は涙を拭いながら

エルゼを見る。


「……違う」


「本当は壊したかったんじゃない

欲しかったんでしょ?」


エルゼの唇が微かに震える。

何かを否定しようとして—言葉が出なかった

表情が僅かに揺れる。


「仲間も…家族も…」


「誰かに必要とされる事を」


沈黙が流れる。


悠人は静かに口を開く。


「だったら なんで全部一人で背負った」


「誰か一人くらい 信じられなかったのか…」


するとエルゼは小さく笑う。


「誰も信じられなかったのよ」


「裏切られて 見捨てられて…」


「だから私は先に世界を拒絶した」


その瞳には怒りではなく

深い諦めが宿っていた。

 

悠人達はエルゼの記憶を全部見たわけではない

だから全てを理解することはできなかった。


「あなた達兄妹がわからない……」


エルゼの感情に呼応するように、

世界そのものが悲鳴を上げ始める。


エルゼの声が震える

抑え込んでいた感情が限界を迎えていた。


「私はずっと一人だったのに!!」


エルゼの叫びと共に、

空間に無数の亀裂が入り

精神世界が崩壊し始める。


悠人達の身体が光に包まれていく。


消えていく視界の中、

エルゼだけがそこに立っていた。


エルゼを見つめる琴音と悠人…


そして世界は闇に飲まれた。


―現実世界。


「ここは?」


琴音の前にはエルゼが倒れたままだった。


(琴音 大丈夫か?)


エルゼの体には

琴音と悠人二人が戻っていた

それはエルゼの意思なのか理由はわからない。


「みんな大丈夫?」


「あ…」


テラがエルゼに抱きつく


「ねぇねだ」


それを見てヘレナとイリアも微笑む。


「よかった どっちがエルゼちゃんか

わからなかったから」


「じゃあこの倒れてるエルゼちゃんは…」


「うん」


「終わった…の?」


誰も言葉を発せなかった。


その時—

空気が変わった

背筋を撫でるような嫌な気配。


誰も動けないまま、

闇の中から黒いローブの男が姿を現す。


「はぁ 最後に自害とはね せっかく協力してあげたのに」


ヴァルガノンを見て慌てるヘレナ。


「ソレイユちゃんはどこ?」


「ハッハッハッ あの女にそんなに会いたいか」


ヴァルガノンの横から現れるソレイユ

肌は黒く緑の血管みたいなのが浮き出ている

目には光がなく

呼吸だけが獣のように漏れていた。


「……ソレイユちゃん?」


その姿を見た瞬間、

ヘレナの顔から血の気が引いた。


「あれからさらに強化改造を施した 

もう意識などないだろう」


それを見てエルゼを

回復するテラ。


「さあ行け!」


「何とか殺さないように 無力化しないと」


「うん 絶対ソレイユちゃんは助ける!」


地面を砕きながら、

ソレイユが人間離れした速度で迫る。


手に持った巨大な斧を振り下ろす。

凄まじい衝撃と共に地面が砕ける


エルゼが止めようとするが

衝撃で弾き飛ばされる。


そのままヘレナ達の方をにらみつける

イリアが迎え撃つ気でいるが

ヘレナが止めに入る。


「駄目よ まだ…きっと」


ヘレナがソレイユに近づく。


「ねぇ ソレイユちゃん私がわかる?」


「お願い…思い出して…」


「ねぇ…覚えてる?」


「一緒に冒険した時の事…」


「またみんなで冒険しようよ…

戻ってきてよ…」



ヘレナが涙ながらに話しかけるが

反応しない。


ヘレナに近づき斧を振り上げる。


「だから無理だと言っているんだ

もうそれに意識などない」


ヴァルガノンが笑いながら答える。


エルゼが立ち上がりスキルを発動する


「後はお願い」


「存在変化」


体が光り 目の色が赤くなる。


〈ダークアーム〉


闇の手がソレイユを縛り付ける

だが一瞬で弾き飛ばすソレイユ。


闇の手が砕け散る。


(参ったな… なら)


〈アイスフィールド〉


ソレイユの足元を凍らせるが。


バキッ バキッ 


凍った地面も、

ソレイユは力任せに踏み割った。

(止めることもできないのか)


ソレイユの振り上げた斧が無情にも

ヘレナを斬りつける。


ズバァァッ…


吹き飛ばされるヘレナ。


それを見たテラがヘレナの前に、

駆け寄る。


その横から、

ソレイユが巨大な斧を引きずりながら迫った。


(まずい… 琴音にはまだしばらく代われないし)


考える悠人だが

ソレイユはテラの前へ立つ。


(琴音… すまない)


(待って悠人)

琴音は必死に止める…


止めなければ、

テラもヘレナも死ぬ。


(でも今撃たなければみんなが…)


(嫌われてもいい… 俺がやるしかないんだ)


〈魔力強化〉〈魔力凝縮〉〈連魔陣〉


ウインドキャノン✕10を詠唱し

悠人は最大威力の魔法を放つ。


全てソレイユに命中し

弾き飛ばす。


爆音が響き、

土煙が周囲を覆う。


誰も動かなかった。


命中した

—そう思った。


「はぁはぁ…」


ソレイユが吹き飛ばされたのを見ると

テラはヘレナに回復魔法をかける。


「お願い死なない…で…」


土煙の奥で、

何かが動く。


ギシ…ギシ…


骨が軋むような音と共に、

ソレイユがゆっくり立ち上がる

口元から黒い血を流しながらも

その瞳だけは空虚なままだった。


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