収束8
「ぐそ、ぐぞぐぞぐぞぐぞぐっぞぉ!!」
足首にまとわり付く蔦は、端正に編まれた網目は傷つき、特殊な形をした結び目は赤いシミで汚れきっている。
嘗て丸メガネをかけていた男は、もう言葉ですらない鳴き声を発しながらのたうち回っていた。
薄汚れた体を脂汗で洗い、摩擦に耐えきれず破れた足首の皮は赤い血肉と共に擦り切れ、結び目を引っ掻き回した指先は、数本爪の欠片を残して真っ赤な血が滴り落ち、衣服に鮮やかな模様を落とす。
等々暴れる力も尽き、まるでゴキブリ取りにかかった無様なゴキブリの様に地に這いつくばった。
静かだった。聞こえるのは苦しそうに肺を行き交う自らの呼吸音だけ。
「ひゅーー、ひゅーー」
壊れた笛を思わせるこの音に、死を待つばかりの老人が過ぎり背筋を冷やした。
最後の力を振り絞って前へ右腕を伸ばす。
もう一度――。
『だから言っただろう、所詮出来損ないなんだお前は。我が家の資産を食いつぶすだけの存在など最初から作らなければ良かったのだ。儂の人生で唯一の汚点だ。』
『聞いたか?またあの次男坊がろくでもない機材を増やしたらしいぞ。いいよなぁ、ろくに稼ぎもしないで遊んで暮らせてさ。こっちは安い給料で夜中に急患の対応までしてるってのによ。』
『ここの長男さんって有名な大学病院で勤められてるんでしょ?早く戻ってきて次の医院長になってくれないかしらね?』
『この前真っ暗な部屋の中で一人、ガンを治す特効薬だとか何とか奇声を上げてたらしいぞ。等々頭もいっちまったんじゃないか?人のガン治す前にテメーがこの病院のガンだっての!』
右腕は小刻みに震えながらも少しづつ前へ進み続ける。
あと少し――。
「ひゅーー、ひゅーー」
出来たんだ。出来てるんだよ。あとは培養するだけなんだ。理論も論文も実証実験だって全て揃ってる。あとは発表するだけなんだ。私が、この私が1人で全てやったんだ。他でもない私が!!
希望へと伸ばされた右腕は無情にも伸びきり、これ以上先には進めない事実と絶望を掴む事しか出来なかった。
「くぅ…ぐ、ぐぐぐぅ」
バクッ!!!
ギャーーーーーーー!!!!!!




