収束7
ひと鳴きして天龍はグランドツリーの方へ向きを変えた。
「よし、いい子だ!」
男は手網を引き急降下していたワイバーンの向きを徐々に上向きへと変え、地獄の様な地面に僅かな土埃をたてつつ今度は上へと上昇させた。
「天龍がグランドツリーに戻っていくぞ!何でだ!?アンタ何したんだよ!」
「ちーとばかし餌を撒いてやったからな。上手く食いつきやがった。」
「餌って、さっき切り離したラビット達の事か!!」
湧き上がる怒りが拳を男に向かわせるが、勢いよく流れる空気に掬われて、危うく転がり落ちる所だった。
「馬鹿が!目的があるなら泥舟だろうが紙舟だろうがしがみついてろ!」
俺はその言葉に苦虫を噛み潰して座っている事しか出来なかった。
「コッチは3、向こうは5か。まぁ長くは持たねぇだろうな。クソメガネの悔しがる面が見られねぇのが残念でならねぇ」
そう言いつつも、男の態度は悔しいというよりも、最高に嬉しそうである。
半分を超えたくらいだろうか、相変わらず天龍はグランドツリーにへばりついている為、ここまでは恐ろしく順調に来る事が出来た。
しかし、今までに相当な距離を飛んでいる事に足してこの無理な垂直上昇。
ワイバーンの体力も限界に来ているのであろう、唾を垂らしながら息を切らしている。
恐らくこれが最後のチャンスだろう。
「彼らを囮にして天辺まで登るのか……」
「あ?何だその面は。湿気た面なんぞ見せんじゃねぇ胸くそ悪い!」
ガサツな怒鳴り声と共に頭に受けた衝撃で脳が揺さぶられる。その後追ってくるようにして頭の前後に強い痛みが響き始める。
どうやら男のゴツゴツした拳が真っ直ぐに俺の後頭部を捉えたらしい。
怒りは灯ったが、痛みと不快感で掻き消え、唇を噛んで瞼を閉じて静まるのを忍んでいると、不思議と頭の中に風が吹いた気がした。
「きれいだ……」
「あ?馬鹿になったか?」
目を開くと、そこには満天の星が広がっていた。枝や葉が無数に折り重なる僅かな隙間を潜り抜け差し込む光は、宝石を散りばめたかのようにキラキラと輝きを放つ。
数分間、俺は今の状況や鳥籠の事、体の感覚、周囲の音、呼吸する事すら忘れてその中に取り込まれていた。
息をのむ美しさとは、こういう物だったのか。
「俺はここが嫌いだ。いつ死ぬか分からない恐怖に怯え、底無しの餓えに歯を食いしばり、耐え難い痛みに悶え苦しみ抜いても死ねない。苦しい、悲しい、痛い。でもその全てが、生きたいって事なんだってここで教えて貰ったんだ。俺は、ここを出ていく。」
ギャーーーーーーーーーーー!!!!!!
「そうかよ…」




