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分岐物語 ☆→B:生き物のお世話とかした事がないから、やってみたいな。飼育員体験コーナーに行ってみよっと。

  

  

 触れ合い体験コーナーで小動物たちと触れ合うっていうのも気になるけど、これまで生き物のお世話とかした事がないから、やってみたいな。

 それにもしかしたらお世話をしながら触ったり、撫でたりも出来るかもしれないし。

 係員の指示にちゃんと従わないと危ないらしいけど、従ってさえいれば世界一安心なら大丈夫じゃないかな、多分。


 うん、体験広場へ行ってみよう!


 薄茶色の髪の女の子にそう言うと、ぱっと嬉しそうに顔を輝かせて駆け寄って来て、腕に腕を絡めて来た。


「そうしましょう! とっても可愛くて素敵な私の相棒も居るんですよ。 案内させてください!」


 そう言うあなたもすごく可愛らしいけどなぁ。

 とっても可愛くて素敵な相棒って、お仕事仲間の人かな? 楽しみだなぁ、なんてほのぼのしていたら、不意に背筋が寒くなったような・・・。

 反射的に嫌な感じがした方向を見ると、黒茶の男性が物凄く怨念がこもった目で睨んでいた。

 なんでこんなに怨念を込めまくった目で・・・と思ったら、よく見るとその視線の先は薄茶色の髪の女の子に絡まれている腕に向いている。


 ・・・ああ、なるほど。そう言うことか。


 変わった髪の色をしているし、かなり鋭い目つきをしているけど。うん、この黒茶の男性も可愛らしい性格してるらしい。

 微笑ましい気持ちになっていると、「さぁ、こっちですよ!」と薄茶色の髪の女の子に引っ張られて、その勢いのまま歩き出した。

 男性も付いて来ようとしたみたいだけど、「女の子しかダメっ!」と怒られて、物凄くショックを受けてしまったっぽい。

 ・・・うん。哀れ。

 

 ちょっと気の毒に思いつつも、引っ張る女の子についていくと、二枚の看板が掲げられた建物に入っていったんだけども。


 もうその看板からしてツッコミどころが満載だった。

 『飼育員体験コーナ―』と書かれている小さな看板はいい。これは問題ない。

 だけど、その小さな看板の上に『女性限定! 男子厳禁! 入ってきたらブッ』って書かれた異常にでっかい看板が掲げられているんだけど。


 ・・・途中で不自然に途切れた文字のその先が非っ常に、気になった。


 いろんな可能性はあると思うのよね。

 ブッ『トバス』とか、ブッ『ツブス』とか、はたまたブッ『コロス』とか。・・・どれにしてもブッソウな単語が入ることは間違いなさそうだ。

 これは、ちょっと気を引き締めていこう。

 とにかく、係員の指示には絶対服従。うん、良し、大丈夫だ!


 飼育員体験コーナーでどうしてこんなに違う意味で緊張しなきゃいけないんだ、とは思うけど、引き返そうとは思わない。

 何しろ、私を引っ張る女の子がとっても楽しそうなんだ!

 こんなに可愛い女の子がワクワクしているのに、それを水を差すような真似ができるだろうか、いやできない。

 後ろからビシビシ痛い視線が飛んできているのを感じるけど、この女の子が隣にいる限り、身の安全は保証されいてるようなものだから、全然平気。


 建物の中に入ると、動物園というよりも劇場のような造りになっていた。

 舞台もあるし、客席もある。

 女の子に連れられて行くままに舞台裏に入ると、そこには、人にはない耳やヒゲ、尻尾を持つ女の子達が待っていた。


 半獣だ! 初めてみた、可愛いっ!!


「ようこそ、飼育員体験コーナーへ!」

「よろしくお願いします!」

「あ、久しぶりのお客だー!」

「こら。ようこそ、ゆっくりして行ってね」


 人懐っこい笑顔で自己紹介してくれたところによると、真っ白で長い耳を持つスタイル抜群の高身長の女の子は、ウサギの半獣。

 ふっくらした尻尾を持つ小柄な女の子は、リスの半獣。

 鋭い牙をちらつかせる元気いっぱいの女の子は、虎の半獣。

 スラリと真っ黒で長い尻尾を持つ中性的な女の子(推定)は、猫の半獣なんだそう。


 案内してくれた薄茶色の女の子は、リスの半獣の子に抱きついているから、多分この子がさっき言っていた相棒なんだろう。

 うん、癒される。非常に癒される。


「ということは、皆さんが、係員?」

「いいえ? 係員さんは、ほら、後ろに」


 背の高いウサギさんが指差した後ろを振り返り。

 ・・・振り返らなければ良かった、と心底後悔した。


 あれ、ここ、地獄見学ツアーだったけ? 

 とか思ってしまうほど物騒な雰囲気の男性4人が、気づかないうちに真後ろに立っていた。

 縦にも横にも大きくて全身凶器なだけじゃなく、顔も最高に地獄の番人にピッタリですね! と言いたくなるようなごつい男性が二人と、その二人に比べたら細身だけど、明らかに堅気じゃありませんがそれが何か? と言わんばかりに物騒な雰囲気がよく似合う銀髪の男性が一人。もう一人の人は普通の笑顔を浮かべていて、パッと見は本当に普通の人っぽいけど、この人が一番ヤバそうな気がする。なんというか、雰囲気がマッドサイエンティストっぽいっていうか、どんな状況でも笑顔で楽しんでそうな感じがする、勘だけど!


 これが、係員!?


 思わず女の子達に確認すると、5人の女の子達が一斉に頷くのを見て、気が遠くなった。

 係員の指示に従えって、この人たちに逆らった強者がいるのか!?

 むしろその哀れな強者に賞賛の念を贈る。無理だ、私には絶対無理だ。


「飼育員体験コーナーへようこそ。ここでは、彼女たち半獣のお世話を体験してもらえるんだけど、君にやってもらいたいことはただ一つ」


 気が遠くなりかけていると、マッドサイエンティストちっくな男性が笑顔のまま、きびきびと説明を始めた。一体どんなことをさせられるのかと緊張していると、男性は、舞台裏に併設されている部屋の扉に手を掛け、勢いよく開いた。

 そこには。

 色とりどりの衣装やアクセサリーが所狭しと並べられていた。


「彼女たちの魅力を最大限に引き出す衣装を選んで欲しい」


 ・・・うん、それは予想外。



―――



 動物園の飼育員体験コーナーで、まさか衣装合わせを命じられるとは思わなかった。


 ・・・飼育員体験コーナーだったよね、ここ?


 詳しく話を聞くと、これから彼女たちが主演する舞台があるそうなのだけど、どうやら、地獄のば・・・係員たちが用意した衣装を彼女たちが拒んだらしい。そこで、同じ女の子の飼育員(体験中)に衣装合わせを任せることにした、と。

 適当だな、おい。

 内心で突っ込んだけど小心者なので心の中だけだ。口に出して言ったりしない。我が身は可愛いし。


 女の子達も楽しみにしてくれているようだし、正直、じご・・・係員たちに見張られながら作業するよりも、可愛い女の子達と女子トークに花を咲かせながら、着せ替えごっこする方がよっぽどいい。


 まぁ、でも。

 係員たちと女の子たちの様子を観察するに、どうやら、彼らはそれぞれ一対一で係員がついているらしい。なんというか、威圧的な雰囲気の係員たちが、女の子に対するときだけ柔らかい雰囲気になるのは、好感度が高い。

 多分、その衣装というのも、かなり真剣に選んで持ってきたんだろうなぁ。

 それを却下されて、相当へこんだに違いない。自分に置き換えてみたら、泣きそうになってしまった。


 ・・・どうしよう、地獄の番人たち、超かわいそうなんだけど。


 よし。

 ここは、私の腕によりをかけて、双方ともに納得のいくものにしてやろうじゃないか!

 幸い、おしゃれは好きだし、おしゃれをした女の子を見るもの好きだし。女の子達も、それぞれこだわりがありそうだから、むしろ話は弾んで楽しめそうだし。


 早速、それぞれの係員たちに声をかけて、オススメのアイテムをひとつだけ選んでもらうことにした。

 せめて一つくらいは、彼らが選んだ物を取り入れてあげたいよね。


 一番縦にも横にもでかくてゴツくておっかない顔をした男性は、虎の半獣の子の担当だそうだ。

 話しかけるのもかなりの勇気が必要だったんだけど、なんとかなけなしの勇気を振り絞って声をかけたのに、「どれでも同じだ」とそっぽを向かれたときはもう家に帰りたくなってきたけど。

 「どれでも同じってことはないでしょっ!?」と、怒った虎の女の子が飛びかかって来たのを払いつつ、彼女からは見えないように、後ろ手で黒のワンピースを渡して来た。

 可愛らしいレースがたっぷり使われていて一見するとかなり子供っぽいデザイン。

 だけど、体にぴったりと沿うような細めのラインで、レースもボリュームのあるふわふわタイプじゃなく裾や襟元を際立たたせるためのものだから、着たら見た目以上に落ち着いた上品な雰囲気になりそうだ。


 虎の女の子が今着ているのも、彼女の見た目に反して、かなり大人っぽい服だから、ちょっと背伸びをしたいお年頃なのかもしれない。


 つまり、この飼育員。

 ちゃんと、彼女の為に選んでいたらしい。

 ・・・素直じゃないんだなぁ。

 怖がっていたことも忘れて、虎の子に頭までよじ登られて噛み付かれている係員を、微笑ましく思ってしまった。


 憤慨している虎の女の子を手招きして、男性陣からは見えないように衣装部屋に女の子達みんなで移動する。


 案の定、「そんな子供っぽい服なんて!」と全力拒否をしたけど、ここが私の腕の見せ所。

 とにかくなだめすかしてワンピースを着せながら、他の女の子達に櫛やアクセサリーを持ってきてもらった。


 黒のワンピース単品だとたしかに可愛らしさに目が行ってしまうから、虎の子の見事な真紅の髪を編み上げて、一筋だけ垂らして。

 細くて色白な両腕にはあえて太めの金の腕輪をつけて、胸元にも同じく三日月をモチーフにした金の首飾りをつけさせて。リスの女の子が即席で作ってくれた黒に金糸と銀糸のレースの髪飾りを垂らして、完成!

 

 引き締まったメリハリのある身体のラインが強調されて、背の低さなんてちっとも感じないコーディネートに、初めはワンピースを着ることに抵抗していた虎の女の子も、「よくやったわ!」と嬉しそうに褒めてくれた。リスの女の子と手を叩きあっていると、虎の女の子の視線が素直じゃない係員に向かう。

 着替えた虎の女の子を見て満足そうな顔していたし、ここは一つ、びしっと・・・。


「まぁまぁだな」


 天邪鬼かっ!!

 素直じゃなくても、ここは素直に褒めるべき場面なのにっ!? と愕然としてしまったけど、虎の女の子が驚いたように目を見開いてから。

 それはそれは、嬉しそうな笑顔になった。


「当然でしょ! あ、むしろもっと褒め称えなさい!」


 うん、どうやら虎の女の子も素直じゃないみたいだけど。

 ・・・係員、普段どんだけ天邪鬼なんだ。



 女の子は褒めれば褒めるほど綺麗になっていくもんなんだぞ、とこんこんとお説教をしてやりたい気分になりつつ、次は、細身の銀髪の係員に何を使いたいか聞きに行ってみると、すぐさまセクシーなデザインの黒いガーターストッキングを渡してきた。


 おお、これはまた、レベルの高い・・・。

 彼は、猫の半獣の女の子(銀髪の係員が男の子にガーターストッキング履かせて喜ぶような性癖がないと信じて、確定)の担当らしい。


「それを私に身につけろ、と?」


 ジト目で猫の女の子に睨まれながら、それでもなんでもない顔をしてるけど。

 ・・・あれ、実は結構ショックだろうなぁ。

 だって女の子の目が、「この変態が!」と罵っているのがわかる。それでなんでもない顔って、つまり変態って認めてしまっている状況というか・・・捨て身になってまで履かせたいのか、このストッキング。

 なに、この涙をさそう飼育員。


 よし、分かった。

 そこまでするなら、履かせて見せようじゃないか!


 このガーターストッキングは、太ももにくる縁の部分に銀の蝶が舞っている本当にかなりセクシーなもので、そのまま履いて普通のスカートを着ても、この蝶は活きない。

 かと言って、そこまで短いスカートだと、猫の女の子のイメージと合わない気がする。

 さて、どうしようか、と悩んでいると、またもやリスの女の子が「これなんてどうですか?」と素敵な服を見つけてきてくれた。


 ・・・これ、いい!

 イメージぴったりのその服に、思わずリスの女の子と顔を見合わせて力強く頷き合ってしまった。

 銀髪の係員を睨んでいる猫の女の子を衣装部屋に引っ張って行って、リスの女の子と選んだ衣装の説明をすると、「・・・いいね」と、それまでの不機嫌さが嘘のように悪戯っぽい笑みを浮かべて、ノリノリで着替えてくれる。

 これを見たときの係員の反応が楽しみだなぁ。


 とか思っていたら、案の定。

 着替えた猫の女の子を見た銀髪の係員はもの凄く微妙な顔をした。


 それもそのはず。

 猫の女の子は少年が好んで着るようなラフなジャケットにジーパン姿。アクセサリー類も都会のちょっと悪ぶってる男の子たちが好んで付けそうなごつい銀製だから、なおさらだろう。


「あれは・・・」

「ちゃんと履いているよ、ほら」


 困惑気味に残念そうな顔をした係員に、猫の女の子がわざと引いていた左足を前に出す。

 すると、太もも部分と膝部分の破れたジーンズの隙間から、ガーターストッキングの銀の蝶がチラリと見えた。


 ・・・咄嗟に鼻を抑えた銀髪の係員の目は、猫の女の子の太ももから離れない。


 そうだろう、そうだろう。

 少年のような見た目。ちょっと悪ぶっている少年のような服。

 だが、しかしっ!! 破れたジーンズから覗く、ガーターストッキング!


 これほど妄想を掻き立てるものはあるまい!


 ガン見したまま動かない係員に、リスの女の子と満面の笑顔で固い握手を交わしあった。 


 ・・・ところで、猫の女の子がものすっごく居心地悪そうにしているから、そろそろガン見はやめたほうがいいと思うよ。




―――



 お次は、マッドサイエンティストっぽい薄茶色の髪の係員の番。

 背が高くて抜群のプロポーションを持つウサギの女の子の担当が選んだのは、服ではなくて、豪華な首飾りだった。

 赤を基調としているけど、大きな石は使わずに小さな石で花や草を象っていて、華やかなデザインになっている。


 これはすぐにイメージができた。ウサギさんだ!

 とてもよく似合いそうなのに、なぜかそれを見たウサギの女の子は困ったような顔になった。


「あまりこういう装飾品は・・・」


 と、言葉を濁しているけど、その視線を見るに、嫌いなわけではないらしい。

 なんだろう、何かコンプレックスがあるのかな?


「そう言わずに試してご覧よ。ほら、この可愛い女の子が手伝ってくれるから、行っておいで」


 か、可愛い!? って、思わず反応してしまった私は悪くない。

 マッドサイエンティストっぽい係員に二人揃って背中を押されて、衣装部屋に入ったんだけど、その時にこっそり私にだけ聞こえるように、「彼女の魅力を教えて上げて」と囁かれた。


 え。それってつまり、なにか?

 ・・・このウサギの女の子、もしや自信がない、とか?

 こんなに美人なのにっ!!?


 驚いて、まじまじとウサギの女の子を見つめると、困ったように微笑まれた。確かに、ちょっと自信なさげに見えるかもしれない。

 うん、黒いワンピースを着てご満悦な虎の女の子の自信に満ちた笑顔と比べると、自信なさげだ。


 なんて、もったいないっ!!


 根拠のない自信家はかなり鬱陶しいけど、自信を持つことは女の子にとって、とっても大事なことなんだよ! って力説したいけど、そんな言葉を他人から聞かされたって自信なんて持てるわけがないってことはよく分かってる。


 よしっ! やってやろうじゃない!

 装いは、自信だって引き出すんだから!


 鼻息荒く衣装を決めて、それに合いそうなアクセサリー類もどっさり持って来た。

 私が選んだ白くて長いAラインのドレスに、リスの女の子がすかさずふわふわを通り越して、ふわんふわんなファーを裾に縫い付けてくれる。両袖にも、ふわふわ、ふわん。


 ・・・もう、このリスの女の子は心の友と呼ばせてもらおう!


 耳飾りは猫の女の子が「これがオススメ」と持ってきた小さな真珠を集めた物を、腕には真珠と透明な石をランダムに散りばめた飾りを身につけさせた。

 プロポーションが抜群だから、何を着せても美女であることには変わりはないだろうけど、あえて可愛らしさと透き通るような透明感を演出してみた。

 もちろん、お化粧もそれに合わせた透明感のあるものを。


 鏡で自分の姿を見たウサギの女の子は目を丸くして自分の頬に手を当てて、「すごい・・・」と小さくつぶやいてくれた。

 よっしゃ! と思ったんだけど。


 でも、何か足りない。


 何が足りないんだろう、と首をひねっていると。


「顔上げなさい。あ、笑顔もね」


 虎の女の子がそう言うと、ウサギの女の子が節目がちだった顔を上げて、微笑みを浮かべた。

 うわ・・・うわっ!! ちょっと待って、その顔、是非ともマッドサイエンティストちっくな飼育員に見せてあげたいっ!


 と、思った私の心が通じたのか、心の友、リスの女の子が衣装部屋の扉を素早く開けてくれた。


 待ちきれなかったのか、すぐ正面に立っていたマッドサイエンティストは、ウサギの女の子の微笑みを見て、嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「とても、似合ってるよ。もっとよく見せて?」


 さらり、とスマートに褒め言葉を口にして、恥ずかしそうに顔を赤らめるウサギの女の子の細い腰に腕を回したところで、虎の女の子から強烈な蹴りを食らった係員だけど、その腕は離れなかった。


 ウサギの女の子がちょっと恥ずかしそうに、でもとても嬉しそうに微笑んでいるのがまた初々しくてとても可愛らしい。

 うん、やっぱり女の子は笑顔が一番だよね!


 ・・・ところでさ。マッドサイエンティストちっくな係員、笑顔に釘付けで、ドレスとか見てないよね?



―――



 まぁ、ウサギの女の子が嬉しそうだから、なんでもいいか。

 女の子の幸せは、世界の幸せです。


 というわけで、最後の一人のこれまた地獄の番人にぴったりですね! 的な縦にも横にもゴッツくておっかない顔をしている係員に声をかけようとしたら。

 口を開くよりも先に、目の前に、一足の靴を差し出された。


 ・・・もしかして、超待ってた?


 その素早い動きに若干引きつつ、最後にして悪かったなぁとも思いつつ、渡された靴を見てみる。バレエシューズみたいに、ふくらはぎで紐を巻いて留めるタイプの真っ白い靴だった。


 それを見て、やるなぁ、と思った。


「あ、それ・・・っ!」


 慌てたような声は、心の友、リスの女の子。

 そっか、彼女の担当がこの飼育員だっけ。


 ということは、私の心の友なだけあって、この靴の持つ魔性に気づいているはず。


 途中で言葉を切ったリスの女の子の方を見ると、なぜか、身動きひとつせず、飼育員と無言で見つめ合っていた。

 ・・・何しているんだろう? なんだか、リスの女の子との表情が、まるで会話をしているみたいにくるくると動いているんだけど。

 と、思ったら。


「そう思いますよねっ!?」


 いきなり話を振られた。

 え、何が!? と驚いていると、猫の女の子が小さくため息をついて、リスの女の子の腕を引っ張った。


「何度も言うようだけど、君らの視線での会話は、他の人たちにはわからないからね? さ、諦めてこっちにおいで」

「髪! 髪型は私にやらせてくださいっ!」


 これまでもお手伝いしてくれていた薄茶色の髪の受付の女の子が、パッと顔を輝かせて勢いよく立候補してきた。そういえば、さっきからずっとリスの女の子の黒髪をなでていたっけ。

 どうぞどうぞ、と両手を動かしていたら、いきなり、背筋がゾクッとした。

 ビクついて反射的に振り向こうとすると、がしっ、と薄茶色の髪の女の子と猫の女の子に肩を組まれて阻止される。


「さぁ、着替えようね。君を私の手で可愛くするのが楽しみだよ」

「とても綺麗な髪の毛を整えるのは、私の特権ですものね」


 ああああああの、な、何やら背筋が、悪寒がとんでもないことにっ!?

 背後から漂ってくる、とんでもなく冷たい気配に、ビビりすぎて顔色が絶対蒼白になっている気がする!と思って横をみたら、リスの女の子が私が想像した通り顔色になっていた。

 こんなことろでも、心の友。


 というか、さ。

 これ、もしリスの女の子のコーディネートがお気に召さなかったら、私、殺されるんじゃなかろうか?

 うわ、まさかの飼育員体験コーナーで死亡フラグ!? それだけは勘弁して欲しい!


 ・・・よし。こうなったら仕方ない。

 座った目でリスの女の子をみたら、ビクッ、と震えられてしまった。


 すまない、心の友よ。

 私のみの安全のためにも、最高のコーディネートをさせてもらおう!


「え、ちょっとまってくださ・・・うあっ!?」


 早速、超真剣に取り掛からせてもらいました!


 出来上がったリスの女の子は、ちょっと涙目になっていたけど、まぁ、それはそれで可愛いから良しとしよう。


 扉を開けてリスの女の子を見た地獄の番人其ノ二な感じの飼育員は、固まったように身動き一つせずにじっと凝視していた。


 それもそのはず。

 紐タイプの靴は、合わせるとなれば、どうしたって膝丈前後のスカートになる。ちなみに私が選んだのは、白いふわふわ系の上着と、パステルピンクの膝上丈のスカート。

 もちろん、靴下とかストッキングはなし。


 となると、どうなるかというと。

 生足、なんだよねぇ。


 しかも、この靴の紐は、パールっぽい光沢のあるレース地で。

 ほっそりと、でも女性らしい膨らみを持つふくらはぎに絡みつくレース。


 ・・・うん、ほんと上級者仕様だ。


 リスの女の子は顔を真っ赤にしてうつむいてしまっているけど、それを無表情に、だけどどこか満足そうに見つめる飼育員。


 ・・・せめて褒め言葉の一つくらい言ってあげればいいのになぁ。


 やっぱり地獄の番人系は口下手が多いんだろうか、と思ったら、何やら見つめあったままリスの女の子との顔がどんどん赤くなって行くところを見ると、どうやらまた視線だけで会話をしているらしい。

 うん、それなら是非ともたくさん褒めてあげて欲しい! 


 動かず見つめ合う二人はそのままに、何やらまだ物足りないらしい女の子達が、次はアレがいい、今度はこっちを、なんていつの間に盛り上げっている。


 なんか心潤う光景だなぁ。


 ほんわかしながら眺めていると、ふと、入口の扉のあたりに、黒茶の影を見つけた。


 いつから居たんだ、最初っからずっとか。

 視線が合うと、物凄く、羨ましそうな目で見られた。


 ・・・しょうがないなぁ。


 女の子たちの側を離れて受付の女の子に気付かれないように黒茶の髪の男性に声をかけると、真っ黒な目を驚いたように見開いてから、そっと白い繊細なレースのリボンを出してきた。

 ・・・あー。やっぱり用意してたんだ。


 何も言わずに受け取って、リスの女の子の背後から抱きついて、自分でセットした黒髪に懐いている受付の女の子をちょっと引っ張り出した。


「ほら、せっかくだから、あなたも髪をセットしよう?」


 薄茶色の髪を手早くまとめて、可愛くラッピングするみたいに、リボンを織り込むようにしてセットしてあげた。

 個人的な趣味で、一部を垂らして、はい出来上がり。


「わぁ、可愛いっ!」


 リスの女の子にも好評で、受付の女の子もとても嬉しそうだ。

 チラリ、と扉の方を見ると、泣きそうに潤んだ瞳をした黒茶の男性は、グッジョブ!と言わんばかりにサムズアップして輝くような笑顔を浮かべている。


 よかったよかった。


 とりあえず、これで私の任務は完了だ!


 ・・・あ。

 うーん、でも、だけど、ちょっぴり心配、だなぁ・・・。


 チラリ、と見た先では、可愛らしくはしゃぐ女の子達と、それを熱く、熱く見つめる飼育員たちの姿があった。



 その後。

 可愛いらしく気飾った彼女達は、飼育員の皮を被った野獣達にお持ち帰りされてしまったらしい。


 ・・・やっぱりね。

 

 

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