新しいステージへ
暗闇だ。
俺はまだ存在しているのか?目を開けているつもりだが、果たして自分の意図した通りに瞼が動いているのかは定かではない。
耳を澄ませても耳にはなにも入ってこない。だが、頭の中では叫び声が響いている。クレアの声だ。
彼女の助けを求める声、俺の仮初の名前を叫ぶ声が、何度も何度も俺の頭の中を駆け巡る。この時間はなんなのだろうか?これはゲームの演出なのか?それとも、俺は・・・
どちらにしても、こんな状態が永遠に続くのは耐えられない。
すると俺の意思を汲み取るかのように、視界に小さな白い光が映った。俺は死に物狂いで、その光をとらえて離さないことを誓った。
だが、どうすればその光の正体を確かめることができるのだろうか?足を動かせば、取りに行けるのか?だが、今の俺は足なんていうものがあるのか?
そもそも移動する手段はあるのだろうか?
すると、その光は次第に大きくなっていく。まるで昔のアナログテレビの光のように少しずつ広がると、気がつけば俺の視界の全てを支配していた。
俺は今度は一面真っ白な部屋にいた。ここは一体どこなのだろうか?というよりこの場所はなんなのだろうか?
「目が覚めたようだね」
突然、男の人の声が聞こえてきた。深みのある温かくて低い声だ。
「目が覚めた?」
俺は自然に言葉を発していた。辺りを見渡しても、誰もいない。すると、今まで見えていた白い空間全てが、一つの大きなモニターになっていたかのように、突然大きく一人の男性を映し出していた。
チェックのシャツに、ジーンズというラフな格好に、黒縁のメガネをかけており、さわやかな笑顔からは、欲しいものはなんでも手に入れましたというようないけすかない表情がこちらを見ている。
「俺はどうなってるんだ?」
果たしてこの問いかけに彼は答えるのだろうか?まぁ答えてもらったとしても、俺の求める答えが来るとは思ってはいない。だが、このまま永遠に無の世界に囚われるなら、少しでも手掛かりを掴める方にかけるしかない。
「次だよ」
「次?」
一体なんの話をしているのだろうか?
「君は次のステージへと進む準備をしているのさ」
「次のステージ?」
今度は、俺の返答に対してただ頷いた。
「それはいつ終わるんだ?」
「もうすぐさ」
いちいち微笑んでくる顔に腹がたつ。それにまだ俺の質問に答えていない。
「それで俺は今どうなってるんだ?」
俺はさっきよりも高圧的に尋ねた。
「恐れているようだね。まぁあんなことがあったのだから無理もない。だが、しかし心配はいらない。君はただやるべきことをやればいいのさ」
俺は急にこの男の正体が気になった。「あんなこと」というのは果たして、クレアのことなのだろうか?それとも俺の知らないところで他に何かあったのか?
「さぁ、そろそろ準備ができたようだ。次のステージへ行っておいで」
男の優しい言葉を聞くと、視界がさらに明るくなり、その眩しさで男の姿が見えなくなった。
結局今の時間はなんだったのだろうか?眩しい世界は再び暗闇へと変わる。そして目の前に文字が浮かび上がった。
「DBI」
ダルトンブラザーズインダストリーか・・・。
「データベース更新中」
どうやら再びアンドロイドに戻ったようだ。
「サウンドシステム起動」
景色よりも先に周りの音が聞こえてくる。前回とは裏腹に今度は人が多い場所のようだ。時々聞こえる電話の音からして、オフィスのような場所に立っている。
今度はオフィス用の雑用ロボットにでもなったのだろうか?まぁもう少し、やりごたえのあるゲームが良かったが、今回もさっさと仕事を終わらせて、最速タイムを叩き出せばいいのだろうか?
「全システム正常に作動」
その文字を最後に俺の視界はようやく今いる世界を映し出してくれた。ガラス張りの部屋に一人の大柄な男が大層な椅子に座って電子葉巻みたいなものを吸いながら、口から煙を吐いている。いや、あれは水蒸気だ。
あれ?今回は俺がアクセスすることなく、何もかもが事細かく、頭の中に情報として入ってくる。
さては前回よりもハイテクに生まれ変わったのか?俺は少しワクワクした気持ちを抱きながら、目の前の男の素性を探った。
「ベリック・ラザルスキー。フィラデルフィア警察署長」
前回とは違って、出てくる彼の情報はとてつもない。というより、なぜ警察署長なる人物が俺の目の前で踏ん反り返ってこちらを見ているのだろうか?
「何見てる?」
署長は冷たく言い放った。一瞬誰に言っているのかわからなかったが、この部屋の中には署長以外、誰も感知されない。
つまり彼は俺に悪態をついたのだ。
「私はあなたではなく、あなたのお吸いになっている電子葉巻を見ておりました。葉巻を電子にすることで、有害物質濃度が三倍になっており、署長職のポストに就く方には、あまりお勧めできない行為かと」
もちろん、俺の意思でこんなことを言ったわけではない。別にこのおっさんがタバコの吸い過ぎでガンになろうが、肺炎になろうが知ったこっちゃない。
「そうかご忠告どうも!だが、私のようなポストに就いている人間ほど、ストレスというものがかかるのだよロボット探偵君。もし私に葉巻をやめさせたいのなら、先に、君の新しいパートナーの遅刻癖をどうにかしてくれるかね?」
「かしこまりました」
すると、俺の視界に簡易的な地図が映し出され、その中に赤い点が見える。そしてさらにその赤い点へと向かうルートまでまるで、自分が一度行ったことあるように・・・いやそれよりも行き慣れた道のように頭の中に浮かんできた。
俺はすぐにでも、その赤い点へと向かおうとした。
「いやいや、そういう意味じゃない。全く、機械はこれだから・・・」
俺も自分でそう思う。だが、今回は意識レベルでそうしなければならないと思えた。これは厄介だ。
まぁと言っても、この赤い点はもう間も無くで、この部屋に現れるだろう。
「署長、遅くなりました!」
一人の男が勢いよく部屋に飛び込んできた。
どうやらこの男が新たなステージの新たな相棒なのだろうか?
そして俺はもうクレアには会えないのだろうか?




