高性能身体能力
署内はカイルの叫び声によって、戸惑いの静寂が流れている。この取り返しのつかない状況に、カイルがおどけた表情で周りに手を振り始めた。
「いやぁ!こいつと仲良くなろうと思ってね!よろしくな!相棒!」
俺も何か言わなければ!
「ようやく捜査をする気になられて、こちらも安心しております」
俺は、『こちらこそ、よろしく』と言っていたつもりだが、会話ログにはそう記されることはなかった。
すると、上の見晴台から声が聞こえてきた。
「ハンター!こんなところで油を売ってないで、さっさとそのおもちゃを連れて、現場へ行ったらどうだ!」
署長の言葉に、周りの警察官たちも笑いながら、自分たちの仕事へ戻っていった。
「りょーかい、ボース」
カイルはため息をつきながら、外出の支度を始めた。
「まったく、このガラクタのせいで怒られちまったじゃねぇか!」
カイルが何かぶつぶつと文句を言っている。
「それでどこへ行ったらいいんだ?」
カイルがそう言うと、俺の視界には、直近の通報先に赤い印が点灯した。
「直近の通報はマーケット通り590です」
「まぁ、そこまで遠くはない……」
カイルは自らの言葉を遮り、またこちらに視線を向けた。
「お前、今なんて言った?」
俺はまた同じ言葉をロボットのように繰り返した。
「お前、今僕に情報の共有をしてるじゃないか!」
俺もびっくりしている。自然にやっていたことすぎて違和感がなかったが、確かに今俺は、相棒に情報を共有できた。
「だったら、さっきのはなんだったんだよ?そのせいでまた署長に怒られたじゃないか!」
「目的地を共有したので、電子葉巻の言うとおり、このようなところで油の販売は諦めて、現場へと向かいましょう」
「聞こえてるぞ」
すかさず上から署長の声が飛んできた。
「僕が教えているわけじゃないですからね!」
カイルは必死に弁解している。
「早く行け!ハンター!お前のお友達はもう外へ出てるぞ!」
「運転は俺がするからな!」
カイルが追いかけてきた。どうやら、発話プログラムには問題があるようだが、体を動かす機能は俺の支配下にあるようだ。
俺は全速力で駐車場へと向かった。
後ろから焦ったカイルの声が聞こえてくる。だが、その声はまるで、逆方向へと遠ざかっているかのように、後方へと消えていった。
やはり今回は警察機関に派遣されているだけあって、身体能力は人間を凌ぐ超人的な機能を兼ね備えているようだ。
俺は駐車場へ辿り着くと、一台のパトカーのような乗り物に乗り込んだ。一応まだ今の車は地面にタイヤを転がして走らせているようだ。しかし、そのタイヤもゴム性のタイヤではない光沢のある奇妙な材質だ。
これも未来の技術なのだろうか?
そして何より形だ。丸み帯びたボディに車高は低め、空気抵抗を最小限に抑えているのかパッと見た感じだと、こじんまりとした新幹線に見えた。
しかし乗りのんでみると、中は外見とは裏腹に奥行きもしっかりとあり、ゆったりと座れるくらいの広さがあった。
俺は先に到着したことで運転する権利を得られたと思った。しかし、俺がフロントガラスに向かって座っても、目の前にハンドルはなかった。
もしかして、自動運転なのか?
そう思いながらとなりの席をみて、俺は脳みそまではアンドロイドになりきれないことを痛感した。
ここはアメリカ。運転席は左側が主流ではないか!
するとかなり息を切らせながら、カイルがようやくパトカーに到着した。
「よし、良い子だ」
どうやら彼からは俺が助手席に行儀よく座っているように映っていたようだ。まぁそれならそれで彼との関係値を考えれば、悪くない結果かもしれない。
「てかお前、どうやってこのパトカーに乗ったんだよ!まさか、そちらさんはこっちのシステムにアクセスできるってか?」
正直、俺は何も考えずにこのパトカーに乗り込んだが、確かに鍵がかかっていなかったとすれば不用心もいいところだ。
ということはなんらかの理由で俺はこのパトカーを開けることができたのであろう。
「まぁいいよ!仕方がないけど、もし俺がいない時にパトカーを使う時はこれ以外のにしてくれよ」
カイルは念を押すように俺にそう言うと、パトカーのエンジンがかかった。
「どうもありがとう」
彼は一体なぜそんな皮肉っぽく感謝を述べているのだろうか?もしかして、今のも俺がやったのか?だとしたら、だんだん自分の能力が怖くなってくる。
大いなる力には大いなる責任が伴うと言うわけだ。
カイルがハンドルを握ると、ゆっくりと走り始める。まるで浮いているかのように、下からはなんの衝撃も感じなかった。
正直、前の景色は映像で、移動なんて一ミリもしていないと言われても、納得できてしまうほどだった。
するとこの狭い車内にソプラノ歌手の甲高い声が車内に響き渡り、今にもフロントガラスを割りそうだった。
どうやら、彼がカーディオ操作したことで発せられているようだが、0なんと彼はそのまま操作をやめ、この騒音を流しながら、現場までのドライブを始めた。
「何?これが落ち着くんだよ!まったく0と1でしかものの区別ができないロボットさんはこれだから……」
いや、0と1以上のことが理解できても……あれ?
俺の視界はシステム障害を知らせる赤い警告表示でいっぱいになっている。
「どうした?」
カイルにも俺の異変が伝わっているみたいだった。
詳細を確認すると、音響システムの全システムがダウンしていた。もしかして、この歌手の1000Hzにも及ぶ高音域が原因なのか?
どちらにしてもこのままでは音響システムが使えない。つまり、カイルとのつたないコミュニケーションすらできなくなってしまっている。
すると俺の身体は勝手に、壊れたパソコンのように、自動的に自分自身の再起動を始めた。
俺の視界が再び暗闇が襲ってきた。
自分の世界が暗くなりはじめているこの時間、不安という感情が押し寄せてくる。
あの白い部屋にあの男の姿がフラッシュバックされる。
また別の世界へ飛ばなければいいのだが。




