第77飯 「ふーん、って感じで」
本日も投稿ミスです。申し訳ございません
第76飯からの続きになります。
=========================
「狭間蓮さん。前へ」
台の前に立った。地動さんが、かけられていた布を取る。
置かれていたのは盾だった。
銀色の、厚い盾。表面には協会の紋章と、見慣れない文字が刻まれている。
地動さんが、それを両手で持ち上げた。
「狭間蓮。大土島解放型ダンジョン災害、ならびに東卿湾岸ダンジョンスタンピードにおける功績により、あなたをSランク探索者として認定する」
盾を差し出される。受け取った。
重い。前の証書とは比べものにならない。
「あわせて、協会はあなたに二つ名を贈る」
二つ名。
石動さんの「城壁」、渚さんの「不死身工場」。Sランクには、そういう呼び名がつく。
「——千門」
部屋が、一瞬静かになった。
「大土島で八千人を門の向こうへ逃がし、東卿では湾岸を門から門へ渡り歩いた。あなたほど、門を開いた探索者はいない」
……千門。
一千の門。
いや、待ってくれ。
俺のゲート、三つまでしか開けないんですけど。
もちろん、そんなことは口が裂けても言えない。そもそも協会には、表向き「二つまで」と言ってある。
「……ありがとうございます」
「いい名前だね」
石動さんが、目を細めて笑った。
「ばあちゃんは、あんたが来たとき思ったんだよ。新しい時代が来たのかね、って。今日、それがはっきりした」
渚さんが、壁から背中を離した。
「おめでとう、狭間」
それから、少しだけ声を低くした。
「死ぬなよ。Sランクは、呼ばれたら断れない」
「……はい」
その隣で、グレーのスーツの男性が一歩前に出た。
「内政補佐官の、玉城です」
短く頭を下げる。
「政府を代表して、お祝いを申し上げます。湾岸の件、国として深く感謝しています。……これからも、この国を頼みます」
それだけ言って、また一歩下がった。
言葉は少ないのに、妙に重かった。
「では、写真を。こちらへ」
紋章の前に立たされる。盾を胸の前に持たされた。職員がカメラを構える。
「わしも映るのじゃ!」
知ってた。
ヴィヴィが俺の前に割り込んで、胸を張った。口のまわりに、石動さんからもらった飴の色がついている。
「……いいですか?」
職員が困った顔で地動さんを見た。
「かまわんよ。前回もそうだった」
地動さんが笑っていた。
カシャ。
それで終わった。所要時間、十五分。Aランクのときの四倍だ。それでも短いと思った。
◇
「お待たせしました! 五十鈴です!」
別室で待っていると、元気な声と一緒にドアが開いた。
黒のチェックのラインが入ったスーツ。ショートカット。五十鈴三鈴さんだった。
「お久しぶりです、狭間さん! ……いえ、狭間様とお呼びしたほうがいいですか!?」
「やめてください」
「では引き続き狭間さんで! 本日はSランクの制度についてご説明いたします!」
前回と同じ流れだ。だったら、こっちも同じ質問からいこう。
「五十鈴さん。さっきの認定式って、意味あるんですか」
「もちろん! ありますよ!」
五十鈴さんが、キリッと姿勢を正した。
「Aランクは国が認める探索者でした。ですがSランクは違います。国際探索者協会の直属です」
「国際……」
「はい。狭間さんはもう、日本の探索者ではありません。世界の探索者です。さっきの認定は、日本だけでなく世界に向けた発表なんです!」
話が一気に大きくなった。
「そのぶん、義務も大きくなります。Sランクは、世界のどこで災害級ダンジョンが発生しても、即応する義務を負います」
「世界のどこでも」
「どこでもです!」
……ああ、そういうことか。
大土島のとき、Sランク五人が全員国外にいた。貴方院さんは「どこで何が起きても呼ばれる」と言っていた。あれは比喩ではなかったらしい。
「そのかわり、恩恵も大きいですよ!」
五十鈴さんが、ニッコリ笑って指を立てた。
「一つ! 飛行機もホテルも、海外を含めて全額協会持ちです!」
「二つ! 探索者証がパスポート代わりになります! ビザなしで、どの国にも入れます!」
「三つ! 素材の買取から引かれていた協会手数料と探索税が、ゼロになります!」
……ゼロ。
今まで、買取額から一割近く引かれていた。それがまるごと手元に残る。地味に、一番ありがたいかもしれない。
「四つ! 災害に出動するたびに、国と国際協会の両方から出動報酬が出ます! 今回の東卿の分も、さかのぼってお支払いします!」
「五つ! 世界中のダンジョンへの優先入場と、各国の機密情報へのアクセス権です。魔剣の入手情報も、国内だけでなく世界のものが見られるようになります!」
そこで、思わず顔を上げた。
世界の、魔剣の情報。
国内の情報はAランクで開示された。そのおかげで、禰室まで辿り着けた。それが世界に広がる。まだ見たこともない魔剣が、地図の上にいくつも並ぶことになる。
——悪くない。いや、かなりいい。
「そして六つ! 任務中にかかった経費は、すべて精算できます! 食費も含めて!」
『——なんじゃと!?』
腰の短剣が叫んだ。
『食費もか! 任務中なら、いくら食うてもタダということか!』
「任務中だけな」
『ならば毎日任務じゃ!』
「そういう制度じゃない」
五十鈴さんが、俺の腰を見て目を丸くしている。
「あ、魔剣さん、喋るんでしたね……」
「すみません、うるさくて」
「いえいえ! ……それで、狭間さん。いかがですか、Sランク!」
五十鈴さんが、期待に満ちた顔でこっちを見た。
少し考えて、こう答えた。
「ふーん、って感じで」
「また、ふーんなんですか!?」
五十鈴さんがガビーンという顔をした。あのときとまったく同じ顔だった。
……まあ、半分は嘘だ。魔剣の情報のところだけは、ふーんでは済まなかった。
『下僕』
『なんだ』
『外国の飯も、食えるのか』
『食える。どこにでも行けるからな』
腰の短剣が、しばらく黙った。
『……使える制度じゃな!』
前回は「使えん制度じゃな」だった。評価が上がったらしい。
◇
その日の夕方。
部屋に戻ってスーツを脱ぎ、ようやく息をついた。テレビをつけると、ちょうどニュースが始まったところだった。
『——探索者協会は本日、狭間蓮さん、二十四歳を、Sランク探索者に認定したと発表しました』
画面に、昼間の写真が映る。盾を持った俺と、その前で胸を張っている金髪の少女。
……やっぱりその写真を使うのか。
『Sランクの誕生は五年ぶり。国内では六人目となります』
キャスターが続ける。
『狭間さんは、既存のどの属性にも属さない、空間属性の探索者です』
画面が切り替わる。明星ふ頭公園の空撮。夜空を埋め尽くす氷の矢。
『協会は狭間さんに、二つ名「千門」を贈りました。大土島と東卿での活躍にちなんだものです』
コメンテーターが感心したように頷いている。
『推薦者には、石動千代さんと渚冴子さんのお二人が名を連ねました。Sランク二名の推薦は、異例のことだそうです』
テレビの前で、ヴィヴィがあぐらをかいていた。
「下僕が映っておる」
「映ってるな」
「わしも映っておる」
「真ん中にな」
「わしのほうが目立っておる」
「そうだな」
ヴィヴィは満足そうに頷いて、それからくるりとこっちを向いた。
「下僕。さうざんど・げーとというのは、強いのか」
「さあな」
三つしか開けないけどな。
スマホが震えた。通知が止まらない。見るとキリがない。たぶん掲示板でも好き勝手に言われているのだろう。
「明日は大学だ。昼に神崎先生のところに行って、夜はイタリアンだ」
「アイスケーキもじゃな!」
「覚えてたか」
「忘れるわけがなかろう!」
ヴィヴィがその場で跳ねた。
Sランクになった。世界中どこへでも行けるようになった。
それで最初に決まった予定が、明日のイタリアンだった。
まあ、俺たちらしいか。
=========================
ネットの声
「千門……」
「言いづらい」
「短剣ニキでいいだろ!」
「空間属性じゃなくて飯属性じゃね?」




