第12飯 激辛油淋鶏
さて六日目。今日は最近メガガルーダも俺を目の前にするとまたこいつかよ……と若干気落ちしているような感じがする。
実は最近ショックとバーストばかり使っていてあまり配信映えしなくなったなと考えていた。
あんまりにも簡単に倒すもんだから、視聴者も少し飽き気味……そんな空気を感じている。
だからちょっと空間操作を工夫して、いろいろな技を考案していた。今日はその技をお披露目しよう。
「はい、今日もメガガルーダ戦、やっていきます。ちょっと今日はいつものようにボスをワンパンするの、ちょっと面白みがないので今日は飛ばずに倒そうと思います」
>なぬ?
>とばぬ……だと
>とばんと倒せんやん、ニキ
>どやってメガガルーダをやっつけるん?
>というかボスを目の前に短剣ニキ余裕やね
>さすがに六回目となると余裕でるね
「格闘戦でやります」
>ファっ
>ほ?
>格闘?
>なぐる?
>蹴る?
>短剣ニキ、武道とかやってたんか
メガガルーダが飛び上がり風魔法サイクロンを打ってくる。しかしロックによって空間が固定された領域を魔法は超えられず周囲に霧散していく。
「俺は武道とかそういう経験が一切ありません」
>え、どうすんのよ
>格闘経験ないのに格闘戦するって意味わからん
話しながら、メガガルーダの滑空からの爪での切り裂き攻撃を見切ってよける。
最近メガガルーダの攻撃が読めるようになってきた。何度もみてるとタイミング読めるんだよね。
「まぁ結局能力のゴリ押しなんですけどね」
メガガルーダの風魔法カマイタチ、斬撃の形をした風の刃が無数に俺に向かってくる。
しかしそれも有効打になりえず、自分の体を守るバリアのように纏ったロックが風の刃を防ぐ。
ふふ、できた。ロックを応用して体に纏うようにロックを貼る。俺はつい最近読んだ漫画で似たような技を使っていたキャラがいた。
相手の攻撃はこれで俺には届かない。この技を使ってみたかった。
>ふぉー
>ニキスゲー
>ニキの数十センチ前で相手の攻撃がはじかれてる
>おいおい、短剣ニキいつの間にバリアできるようになったんや
>バリアとかマジで無敵じゃんか……
驚いてる、驚いてる。まぁ俺の格闘センスとかマジでないから付け焼き刃にもほどがあるのでそろそろ攻撃も。
素早く踏み込み、さっきのカマイタチで若干低めに滑空しているメガガルーダへと近づく。ボクサーのように両腕を前にして中腰で低く構えた。
>およ?
>ボクシング?
>おいまさか
>いつもの衝撃破?
「こう殴るように……」
メガガルーダに向けて、右の拳で空を突くようにフックを突き出す。
ドカンッッ。
ギャオオオンッッ。メガガルーダは激しく頭を左へバーストで弾かれる。
左に傾いた体を戻すように逆側へ、さらに左の拳でフックを振りかぶる。
ドカンッッ。
グォオオオッ。メガガルーダの頭はさらに逆側、右に揺さぶられる。
俺はさらにボクサースタイルを維持して、右のフックで弾き返す。さらにまた左のフックで弾き返す。
だんだんとメガガルーダの体は揺さぶられるように左右からのバーストで滅多打ちされるようになった。
>こ、これはっ!!!
>ファーーーーー
>マジか!
ドカンッッ。ドカンッッ。ドカンッッ。ドカンッッ。……
ギャオオオンッッ。グォオオオッ。ギャオオオンッッ。グォオオオッ。……
>デンプシーかッ!!
>YABEEEEE!!
>これはキクッッッッ
>デンプシーをマジで見れるとは!
>メガガルーダの体、ヘロッヘロじゃんかよ!
ズドーン。最後の一発はちょっと強めに。
……ふぅ、ちょっと疲れた。
名付けてデンプシーバースト。左右からの連続衝撃波で、相手のヘッド、ボディ、いたるところを滅多打ちにする技。まぁ俺がデンプシーする必要はないけどそこは気分で。
なおメガガルーダはすでに事切れていた。
>やばい……
>短剣ニキやばすぎる
>メガガルーダがサンドバッグ状態
>ニキのデンプシーが迫力ありすぎて草
>能力つかって漫画再現すな
>これは格闘戦とは言わん
「はい、今日のダンジョン配信はここまでにしておきます。また帰ったら晩飯配信しますんでまた来てねー」
『またくるのじゃぞ! 下僕ども!』
>おつかれー
>またあとでー
>いやーいいもん見れた今日
>あとで切りぬいとこ
>おつー
『腹減ったのじゃー、終わったなら早く帰るぞ下僕』
本日も魔剣はなし。
さて……いい運動もしたし、今日はこの辺で切り上げましょうか。
◇
「腹減ったのじゃー」
「はいはい、準備できてるから座ってろ」
配信を始め、夕飯の支度をする。
>おつー
>いまきた
>ヴィヴィちゃん見にきた
スマホをチェックすると、今日のデンプシーバーストが切り抜かれており、やはりバズっているようだった。
この技は結構いいな。これからもいろいろ考えておくか。
本日の飯、それは油淋鶏を仕込んでいた。それも特製のだ。
本来の油淋鶏は、揚げた鶏に刻みネギと生姜の効いた甘酢醤油をかけた料理だ。うまいが、辛くはない。
だが今回は、そこに手を加えた。輪切りの唐辛子をたっぷり。花椒を挽いてラー油も回しかける。真っ赤なタレが、揚げたての鶏にじゅわりと染みていく。
激辛油淋鶏だ。
「なんじゃこれは。……赤いのぅ」
ヴィヴィが、皿を覗き込んで首をかしげた。
そういえばこいつに辛いものを食わせるのは、初めてだ。唐辛子を食べたことがあるかは知らんが、少なくともうちに来てからは、辛い料理は出していない。
「辛いぞ。少しずつ食えよ」
「ふん。わしを誰だと思っておる」
ヴィヴィが、真っ赤な鶏を一切れ、豪快に口へ放り込んだ。
もぐもぐ、と。
三秒後。
「――かっ」
目を見開いた。
「からっーーーーー!!」
ヴィヴィの怒号が響き渡る。
「からいのじゃ! 口が! 口が燃えておる!」
「だから言っただろ」
「ひぃぃっ! ふぅぅっ! じゃが……じゃがっ!」
ヴィヴィがはふはふと息を吐きながら、皿に向き直った。涙目になりながら、もう一切れ。
「からーっ! ……うまーっ!」
「な?」
「からうまっ! からうまなのじゃ! なんじゃこれは! 痛いのに! 痛いのにうまい! 手が止まらんのじゃーっ!」
ぷはー、と息を吐いてはまた一切れ。目に涙をためて、鼻の頭を赤くして、それでも箸が止まらない。
辛さに悶えながら、必死に食っている姿は、控えめに言って相当おもしろい。
>からうま
>ヴィヴィアンちゃん初激辛で草
>涙目のヴィヴィアンちゃんかわいすぎる
>この子、痛みより食欲が勝つんだ
>新境地を開拓してしまった
>短剣ニキ、水あげて
「ほら、牛乳。辛いときは水よりこっちだ」
「ごくっ、ごくっ……ぷはーっ! 生き返るのじゃ! ……よし、次の一切れ!」
「懲りねえな、お前」
結局皿は空になった。真っ赤な口をして、満足げに腹をさするヴィヴィを見ながら、俺は思った。
こいつ、辛いものもいけるのか。……料理の幅が広がったな。
◇
「――さて。今日も行くか」
七日目、俺たちは再び渋家ダンジョンのゲートをくぐった。
と、腰の短剣がふるりと震えた。
『のう、下僕』
「どうした」
『なんじゃか、今日はいつもと魔力の流れが違う気がするのじゃ。……なんぞ、来そうな気がするぞ』
「へえ」
お、なんか来てるのか。
こういう声のヴィヴィの言うこと結構当たる。初日の道案内や、魔物や食材を探し当てるときと同じ感じ。
こいつなりのなにか感じ取れるものがあるのかもしれない。期待しておくか。
「そうか。そうだといいな」
七日目にして、ようやくか。期待しすぎると外したときに凹むが、まあ、悪くない予感だ。
「よし。じゃあ今日は、こうしよう。ボスを倒して、魔剣が出たら――外でバーベキューだ」
『ばーべきゅー!?』
「そう。せっかく山にいるんだからな。景色のいいところで、肉を焼いて食う。」
『やる! やるのじゃ! ならば早くボスを倒すのじゃ下僕! いや、その前に場所じゃ! 眺めのよい場所を探すのじゃ!』
現金なやつだ。だが悪くない考えではある。どうせ毎日通うなら、楽しんだ方がいい。
配信のドローンを立ち上げて、いつも通りシフトで浮かび上がる。岩山の斜面を風を切って昇っていく。もう慣れたものだである。
>枠乙
>さぁー七日目だ
>行ってみよー
俺はシフトの少し高度を落として、山肌を眺めながら飛んだ。バーベキューに手ごろな平地はないか。あまり傾斜がきついと、道具を置けない。適当に開けた場所があれば――
その時だった。
「なんだ……?」
八合目あたりの少し開けた岩場。そこに黒い影が見えた。鳥の群れと言ってもいいだろう。夥しいほどの数のガルーダが集まっている。ガルーダの群れ、二十、いや、三十はいる。
「……すごい数だ」
高度を落として、目を凝らす。
よく見るとその群れの中に五つの影があった。人間、つまり探索者だ。
それを取り囲むように、無数の翼が舞い、その五人を攻め立てていた。
囲まれた五人は明らかに劣勢だった。前衛の二人が必死に武器を振り回しているが、上空からの急降下に対応しきれていない。後衛の一人が、地面に膝をついている。仲間が庇うように立ちはだかるが、その動きも鈍い。
>あれ結構ヤバない
>人いるじゃん
>くっろ、蟻の群れみたい
>人いる
飛行系の魔物に、有効な攻撃手段がないパーティ。あれはまずい。
俺も初日はあの鳥どもには手を焼いた。地上から迎え撃つのは相当きついことは知っている。
『襲われておるの?』
「……けっこう、まずそうだな」
このまま見過ごせば、たぶん全滅するな。
俺は小さくため息をついた。
『どうするんじゃ』
「しかたない。助けるか」
シフトの向きを変えて、俺は一気に降下した。
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本日の2話目です。
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