第七話 王都への誘い
山喰らいが去った後。
村には、重たい静けさだけが残っていた。
壊れた外壁。
砕けた地面。
焼け焦げた森。
災害の跡そのものだった。
村人たちは、誰も口を開けない。
ただ一人。
竜 だけが、その場に立ち尽くしていた。
「……はぁ……はぁ……」
呼吸が苦しい。
体が異常に重い。
力を使いすぎたせいか、全身が悲鳴を上げていた。
特に右腕は酷い。
感覚がほとんどない。
「竜!」
レイナが駆け寄ってくる。
「腕を見せなさい!」
「だ、大丈夫……」
「大丈夫なわけないでしょ!」
珍しく強い口調だった。
レイナは竜の腕を見るなり、顔をしかめる。
「……酷い」
皮膚は裂け、骨が浮き出かけていた。
普通なら二度と動かない怪我だ。
「なんで立っていられるのよ……」
竜自身にも分からない。
ただ。
地面に立っていると、少しずつ痛みが和らいでいく。
まるで大地から力を借りているみたいに。
その時。
「……竜」
後ろから村長の声がした。
振り向くと、村人たちが集まっている。
だが、その目は以前と違っていた。
恐怖だけじゃない。
戸惑いが混ざっている。
「お前は……村を守った」
村長がゆっくり言う。
「皆、お前に助けられた」
竜は目を伏せた。
「……でも俺、普通じゃない」
その言葉に、空気が静まる。
すると。
「それでも助かったんだ」
小さな声が響いた。
あの日、竜が助けた少女だった。
「お兄ちゃんが来てくれなかったら、私……」
少女は涙目のまま笑った。
「ありがとう」
竜は言葉を失う。
今までずっと、“気味悪い”と言われ続けてきた。
怖がられて。
避けられて。
だから感謝されるなんて、思ってもいなかった。
胸の奥が少し熱くなる。
だがその空気を壊すように、レイナが口を開いた。
「……この子は村に置いておけません」
一気に空気が張り詰めた。
村人たちがざわつく。
「な、なんでだ!」
「またあの怪物が来るかもしれないからです」
レイナは真剣な目で続ける。
「山喰らいは竜を“器”と呼んだ。あれが何を意味するのか、王都で調べる必要があります」
竜は顔を上げた。
「王都……?」
「そう」
レイナが頷く。
「あなたには、自分の力を知る必要がある」
その言葉は重かった。
自分の力。
大地の鼓動。
山喰らい。
全部が分からないままだ。
このまま村にいても、答えは見つからない。
「それに」
レイナは少しだけ笑う。
「そのままだと、すぐ死ぬわよ」
「え?」
「あなたの力、体が全然耐えられてないもの」
図星だった。
戦うたびに、体が壊れていく。
今回だって、本当なら動ける状態じゃない。
「使い方を覚えないと、そのうち自分が砕ける」
竜は黙った。
怖かった。
村を出るのも。
王都へ行くのも。
でも。
――今度こそ、誰かを守れる力が欲しい。
その思いだけは消えなかった。
「……行く」
静かに言う。
「俺、自分のこと知りたい」
レイナは小さく頷いた。
「決まりね」
その時だった。
ザザッ。
草むらが揺れる。
全員が身構えた。
だが現れたのは、あの黒狼だった。
「またあいつか……!」
自警団が武器を構える。
しかし黒狼は襲ってこない。
静かに竜の前まで歩いてくると――。
ポトリ。
一枚の黒い石を置いた。
「……石?」
竜が拾う。
その瞬間。
ドクン。
石が脈打った。
「っ!?」
黒い石の中に、赤い光が浮かぶ。
同時に、竜の脳裏へ奇妙な光景が流れ込んできた。
巨大な地下空間。
無数の赤い結晶。
そして――。
鎖に繋がれた、“何か”。
「……ぁ……!」
頭に激痛が走る。
竜は膝をついた。
「竜!?」
レイナが駆け寄る。
だが黒狼は静かに森の奥を見ていた。
まるで。
“来い”と導くように。




