第八話 黒石の導き
「……ぁ……!」
激しい頭痛に、竜 は膝をついた。
視界が揺れる。
呼吸が苦しい。
「竜!?」
レイナが慌てて肩を支える。
だが竜の意識は、別の場所へ引きずり込まれていた。
暗い。
冷たい地下空間。
巨大な赤い結晶が、無数に並んでいる。
ドクン。
ドクン。
まるで心臓みたいに脈打っていた。
そして、その中心。
巨大な鎖。
何十本もの黒い鎖に繋がれた、“何か”がいた。
大きすぎて全貌が見えない。
ただ分かる。
それは、生きている。
赤い瞳がゆっくり開いた。
『――来イ』
低い声。
次の瞬間。
竜の意識は現実へ引き戻された。
「はぁっ……! はぁっ……!」
地面へ手をつき、荒く息を吐く。
全身が汗だくだった。
「今、何が見えたの!?」
レイナが真剣な顔で聞いてくる。
竜はしばらく黙っていたが、ゆっくり口を開く。
「……地下」
「地下?」
「赤い結晶がいっぱいあった。あと……鎖に繋がれた何か」
その瞬間。
レイナの表情が変わった。
「赤い結晶……まさか……」
「知ってるのか?」
レイナは少し迷うように視線を伏せる。
だが、すぐに小さく息を吐いた。
「……《深層地脈》かもしれない」
「深層地脈?」
「大地の奥深くを流れる超高密度魔力層よ。普通の人間は近づくだけで死ぬ」
村人たちがざわつく。
「そんな場所が本当にあるのか……?」
「王都でも伝説扱いよ」
レイナは黒い石を見る。
その目は警戒していた。
「でも、その石……地脈石に似てる」
「地脈石?」
「深層地脈でしか採れない特殊鉱石。国家級魔導具の材料になる」
竜は石を見つめた。
黒い石は、まだ微かに脈打っている。
まるで生きているみたいに。
その時だった。
黒狼が森の奥へ歩き始める。
「……グルル」
振り返り、竜を見る。
まるで付いて来いと言っているようだった。
「お、おい……」
自警団の男が青ざめる。
「まさか行く気か!?」
竜は迷った。
怖い。
何があるのか分からない。
でも。
あの地下空間を見た瞬間から、胸の奥が妙にざわついていた。
ドクン。
また鼓動が鳴る。
黒い石が、赤く光った。
「……俺、行ってみる」
「正気!?」
レイナが目を見開く。
「危険すぎるわ!」
「でも、あそこに何かある気がするんだ」
竜は拳を握る。
「俺の力のことも……たぶん」
レイナは黙った。
しばらく考え込む。
そして諦めたように息を吐いた。
「……分かった」
「え?」
「私も行く」
村人たちが驚く。
「レイナ様!?」
「放っておけるわけないでしょ」
レイナは竜を見る。
「あなた、一人だと絶対無茶するもの」
「……」
「それに、深層地脈が本当にあるなら放置できない」
王都魔法院としても見逃せない。
そういうことだろう。
だが。
レイナは少しだけ笑った。
「あと、少し興味あるし」
「興味?」
「魔法も使えないのに、災害級魔獣に認識される存在なんて初めて見たわ」
竜は複雑そうな顔をした。
褒められてるのか分からない。
その時。
黒狼が再び低く唸る。
「グルル……」
森の奥。
暗い山道が続いている。
そこから、不気味な赤い光が微かに見えていた。
まるで山の中に、“心臓”があるみたいに。
そして。
竜の胸の鼓動が、それに呼応するように強く鳴った。
ドクン。




