第四話 山の異変
ズンッ――。
遠くの山が揺れた。
地鳴りのような低い音が、村全体へ響き渡る。
「な、なんだ……?」
「地震か?」
村人たちが不安そうに空を見上げる。
だが、竜 は違和感を覚えていた。
ただの揺れじゃない。
地面の奥で、何か巨大なものが動いた。
そんな感覚だった。
目の前の黒狼も、低く唸っている。
「グルルル……」
赤い瞳が、山の方を睨んでいた。
すると王都の魔法師、レイナが前へ出る。
「全員、警戒しなさい」
空気が張り詰める。
魔法師たちは杖を構え、魔法陣を展開した。
だが竜へ向ける視線だけは消えていない。
警戒されている。
それが嫌でも分かった。
「……俺は」
何か言おうとして、言葉が止まる。
その時だった。
バサッ!!
突然、一羽の鳥が空から落ちてきた。
「!?」
地面へ激突した鳥は、すでに死んでいた。
体が黒く変色している。
「これは……魔力汚染?」
レイナの顔色が変わる。
魔法師たちもざわついた。
「こんな辺境で?」
「ありえません……!」
次の瞬間。
森の奥から、無数の咆哮が響いた。
ゴォォォォォッ!!
空気が震える。
村人たちが悲鳴を上げた。
「ま、魔獣だ!!」
「数が多すぎる!!」
木々の奥。
赤い目が何十も光っている。
しかも様子がおかしかった。
体が黒く染まり、理性を失ったように暴れている。
「暴走個体……!」
レイナが舌打ちする。
「最悪ね……!」
魔獣たちが一斉に飛び出してきた。
「来るぞ!!」
火球が飛ぶ。
氷の槍が突き刺さる。
だが止まらない。
普通の魔獣より明らかに凶暴だった。
村人たちは逃げ惑う。
「きゃあああっ!!」
一体の魔獣が、子供へ飛びかかった。
「危ない!」
レイナが魔法陣を展開する。
だが間に合わない。
その瞬間。
竜が地面を蹴った。
ドンッ!!
一瞬で飛び込む。
魔獣の前へ立ち、拳を握る。
だが次の瞬間。
ドクン。
体の奥が脈打った。
「っ……!」
まずい。
嫌な予感がする。
今ここで力を使えば、また暴走する。
けれど。
目の前には怯える子供がいた。
――助ける。
その思いだけで、竜は拳を振り抜いた。
「うおおおおおッ!!」
轟音。
衝撃波が地面を走る。
魔獣が吹き飛び、周囲の木々まで砕け散った。
「なっ……!?」
レイナが目を見開く。
魔法ではない。
なのに、上級攻撃魔法以上の威力。
だが竜の右腕からは、血が噴き出していた。
「ぐっ……!」
激痛。
骨が軋む。
体の中が壊れていく感覚。
それでも竜は倒れない。
その時だった。
ズンッ――。
再び山が揺れた。
しかも今度は、さっきより大きい。
全員の顔色が変わる。
そして。
山の奥から、“巨大な影”が立ち上がった。
「……あれ、は……」
誰かが震える声を漏らす。
黒い巨体。
山ほどの大きさ。
赤く光る瞳。
その姿を見た瞬間、魔獣たちが一斉に怯え始めた。
黒狼でさえ、耳を伏せている。
レイナの顔から血の気が消える。
「嘘でしょ……」
声が震えていた。
「あんなもの……辺境にいるはずがない……!」
巨大な怪物が、ゆっくりこちらを見下ろす。
その瞬間。
竜の体の奥で、“何か”が反応した。
ドクン。
大地の鼓動が、強く鳴り響く。
まるで――。
あの怪物と、自分が繋がっているみたいに。




