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第三話 王都の魔法師

翌朝。


 村の空気は重かった。


 誰もが小声で話し、時々、竜 を見る。


 その目にあるのは、恐怖だった。


 竜は井戸の前で水を汲んでいた。


 すると背後から声が飛ぶ。


「近づくな!」


 村の男だった。


 慌てたように子供を後ろへ隠している。


「魔導具が壊れたらどうする!」


 竜は何も言わなかった。


 もう慣れている。


 昔からずっとそうだった。


 魔法が使えない。


 魔導具も使えない。


 それだけで、自分は異常だった。


 その時――。


 ゴオオオオオッ!!


 空から大きな音が響いた。


 村人たちが一斉に空を見上げる。


「来たぞ……!」


「あれが王都の……!」


 雲の上から、巨大な船が現れた。


 空を飛ぶ船。


 側面には銀色の紋章が刻まれている。


 魔導飛空艇。


 竜も初めて見るものだった。


「すげぇ……」


 思わず呟く。


 だが次の瞬間。


 飛空艇の周囲で火花が散った。


 バチバチッ!!


「なっ!?」


 船体が大きく揺れる。


 空中で魔法陣が乱れた。


「魔力反応が乱れている!?」


「急げ、制御しろ!」


 飛空艇の上から怒鳴り声が聞こえる。


 そして――。


 ゴォンッ!!


 飛空艇が村外れへ墜落した。


 土煙が舞い上がる。


 村人たちが悲鳴を上げた。


「お、おい!」


「大丈夫なのか!?」


 竜だけは、嫌な予感がしていた。


 胸の奥がざわつく。


 まるで自分の中の何かが反応しているみたいだった。


 村の外。


 墜落した飛空艇の周囲には、多くの魔法師が集まっていた。


 ローブ姿の男女。


 高級そうな装備。


 村人とは明らかに違う。


「誰だ、こんな辺境に異常魔力源があると報告したのは」


 銀髪の女が不機嫌そうに言った。


 年齢は二十代くらい。


 鋭い目をしている。


 胸元には王都魔法院の紋章。


 かなり偉い魔法師らしい。


「レイナ様、飛空艇の魔導核が焼けています!」


「ありえません! こんなこと普通は……」


 そこでレイナの視線が止まる。


 少し離れた場所。


 そこに竜が立っていた。


「……あいつ?」


 竜と目が合う。


 その瞬間。


 レイナが持っていた魔導端末が、バチッと火花を散らした。


「は?」


 端末が真っ黒に焼け焦げる。


 周囲の魔法師たちが固まった。


「また壊れた!?」


「おい、あの子供から離れろ!」


 空気が一気に緊張する。


 竜は反射的に後ずさった。


「俺、何もしてない……」


 だが誰も信じていない。


 レイナは細い目で竜を見る。


「……魔力回路は?」


「ありません」


 村長が震えながら答える。


「生まれつき、魔法が使えません」


「なのに魔導具を壊す?」


 レイナの顔が険しくなる。


「そんな存在、聞いたことがない」


 竜は唇を噛んだ。


 やっぱり自分はおかしい。


 普通じゃない。


 その時だった。


 ドクン。


 体の奥で鼓動が鳴る。


「っ……!」


 足元の地面が微かに震えた。


 同時に。


 周囲の魔導具が、一斉に火花を散らす。


 バチバチバチッ!!


「きゃあっ!?」


「まただ!!」


 魔法師たちが悲鳴を上げる。


 杖が壊れ、魔石が砕ける。


 竜は慌てて後ろへ下がった。


「ち、違う! 俺じゃ――」


「動くな!!」


 レイナの鋭い声が響く。


 一瞬で複数の魔法陣が展開された。


 炎。


 氷。


 風。


 全てが竜へ向けられている。


 村人たちも息を飲んだ。


 竜は拳を握る。


 怖かった。


 でも同時に、胸の奥が熱くなる。


 地面の下から、何かが流れ込んでくる。


 嫌な予感がした。


 このままじゃ、また壊してしまう。


 その時――。


 ザザッ。


 森の奥から音がした。


 全員の視線が向く。


 そこにいたのは、一頭の黒い狼だった。


 赤い瞳。


 昨日の魔獣。


「魔獣だ!!」


 魔法師たちが構える。


 だが狼は襲わない。


 静かに竜の前まで歩いてくる。


 そして。


 ゆっくり頭を下げた。


 村全体が静まり返った。


「……は?」


 レイナが目を見開く。


 魔獣が、人へ頭を下げる。


 そんな話、誰も聞いたことがなかった。


 竜自身も理解できない。


 だが次の瞬間。


 狼が森の奥へ視線を向け、低く唸った。


 まるで何かを警戒するように。


 その直後――。


 ズンッ。


 遠くの山が揺れた。

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