第7話【第一章プロローグ】
今回から第一章になります。タイトルは第7話となっていますが、エピソードの位置的には第1章の第1話となります。また、始まりとしてのちの旦那様となる麟堂天真の視点から幕を開けます。
「天真ちゃん、お披露目会では粗相のないようくれぐれも気を付けてね。これからは天真ちゃんが笑い者になっちゃったら、天真ちゃんだけじゃなくお母さんもお父さんも一緒に笑われることになっちゃうから。よく肝に銘じておいて」
ここ、日本の術者界の五大名家として存在している麟堂家の屋敷では、数日後に迫った次期当主のお披露目会の準備が厳かにかつ着々と進められていた。
そんな屋敷全体に緊張感が漂う空気の中で麟堂家の現当主――麟堂厳斗の妻とは思えないほどおっとりとした緩い雰囲気を纏った母――麟堂優華の声が息子の部屋に響く。
「心得ていますよ、母上」
先日、二十歳を迎えたばかりの麟堂天真は、本日何度目か分からない母からの忠告に少しぶっきらぼうな口調で返した。
「もう、母上じゃなくてお母さんで良いのよ。お披露目会での天真ちゃんの晴れ姿、お母さん、すっごく楽しみなんだから」
優華は衣桁に掛けられた儀式用の重厚な着物にシワや縫い目のほつれなど綻びがないかを確認しながら、慈しむような笑みを浮かべる。
その一挙手一投足が術者界の未来を左右すると言っても過言ではない五大名家の一角を成す麟堂家。その次期当主として、天真は幼少期から過酷な教育と重い期待を一身に背負ってきた。
五大名家の術者として表に立てば、冷徹なまでの実力と威厳を求められる立場にいる彼だが、家族の前で見せるその横顔には二十歳の青年らしい若さとどこか達観したような冷静さが同居していた。
「……期待に沿えるよう全力を尽くします。麟堂の名に泥を塗るような真似はしませんよ」
鏡に映る自分の姿を見つめ、天真は静かに言い切る。
しかし、その視線の先には自分の姿ではなく、数多の術者たちが平伏し、上宮のような新興の名家たちがこぞって擦り寄ってくるであろう権力と野心の渦巻く社交の場が浮かび上がっていた。
上に立つことを求められる家系に生まれた宿命とそこから生じる重圧をその身に感じながらも天真は冷静に構え、自身がどう振る舞い、どうあるべきかを見据えていた。
「そうそう、それとね。他家や分家の当主の方々には、年頃の令嬢たちも伴うように伝えてあるのよ」
不意に母が放った言葉に天真はわずかに眉を寄せた。
「厳斗さんのお披露目会の時にはもう私っていう婚約者がいたから、当主の方々だけを招待していたんだけど……。天真ちゃんはまだお相手がいないでしょう? 叶うなら、お披露目会で天真ちゃんの隣に立つのに相応しい女の子が見つかるといいなと思って」
息子の幸せを心から願うような、慈愛に満ちた声。だが、その言葉は天真の胸の奥に、さざ波のような微かな不安を投げかけた。
(俺の隣に相応しい……か)
術者の世界には、その実力を判別するための厳格な階級が存在する。
下から下位、中位、上位、そして強者の証となる天位、陽位、さらには頂点の一角である極位。その上には、もはや規格外の存在たちにのみ許される無位という称号が存在するが、それは日本でも一握りの伝説に過ぎない。
そのため、実質的な術者の頂点は極位とされる。そして、天真は弱冠二十歳にしてこの極位に認定された、正真正銘の天才側の人間だった。
しかし、そんな天真だからこそ、自身の伴侶となる者については悩みが多かった。お披露目会に集うのは、名だたる家系の令嬢たちである。そのほとんどが美貌と教養、そして術者としての誇りを併せ持ってやってくる者たちばかりだろう。それでも、そんな令嬢たちの中に果たして自分と対等に肩を並べられる者がいるのだろうかという悩みがどうしても付き纏っていた。
「……期待せずに待っておきますよ、母上」
天真は溜息混じりに期待が一割、不安が九割といった様子で答えた。だが、彼が纏う空気には圧倒的な強者として追われる側にいる、高すぎる場所に立ってしまった者に特有の精神的な孤独感が漂っていた。
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ここから桐刃と天真、二人の出会いを楽しみにして頂ければと思います。




