第23話
桐刃の自己紹介やクラスメイトたちとの親睦を深めるためにホームルームから1時間目を丸ごと使ってくれたため、彼女にとっての記念すべき初登校後の授業は2時間目の数学からとなった。
「じゃあ、八剣。教科書の問題を解いたら黒板に書いてくれ」
「はい」
40代くらいの男性の数学教師に指名された桐刃は黒板に向かい、チョークを手に取り、自分のノートを見ながら途中式を書き込んでいく。その間、クラスメイトたちの視線は黒板に書かれた問題よりも綺麗な字で答えを書き込んでいく彼女の姿に釘付けになっていた。
「できました」
「……よし、正解だ。x2+xy-2x+3y-15の答えは(x+3)(x+y-5)。八剣が書いてくれた途中式から分かるように因数分解は共通因数を見つけるって手順を覚えれば解けるからな。みんなもちゃんと予習復習を忘れるなよー」
数学教師の声ではっとしたクラスメイトたちは全員が少し面倒くさそうに「はーい」と返事をし、ノートを取るのだった。
3時間目の英語の授業では文法とその訳し方を教わっており、そこでも桐刃の今までの頑張りが十分に発揮されていた。
「では、八剣さん。この英文を読んでから翻訳してください」
英語を担当している60代くらいでベテランのような雰囲気を感じさせる白髪混じりの男性教師が桐刃を指名する。
桐刃はスッと立ち上がり、教科書を手に取って一文を読み上げる。
「はい。『He was so kind that he lent me his car.』彼はとても親切なので私に車を貸してくれた……です」
英語教師はうんうんと嬉しそうに小さく頷き、感心している様子だった。
「うん。良い発音と翻訳ですね。S is so形容詞thatS Vの訳し方は2種類ありますから、前後の文脈から判断して適した訳にしてくれたのも完璧です」
「すげぇ……」
「耳が癒された」
男性教師には太鼓判を押され、クラスメイトたちも感心していた。同じ空間で誰かに認めてもらえることが桐刃にはとても嬉しいことだった。
そして、4時間目は桐刃が楽しみにしていた体育の授業だった。今日の種目は女子はグラウンドの端で走り高跳び、男子はグラウンドの中心でサッカーだった。
女子の方を担当する女性体育教師がホイッスルを鳴らし、クラスメイトの女子たちが次々と駆け出し、バーを飛び越えようとチャレンジしていく。
「次、照海さん!」
「はいっ!」
桐刃の前に彩が呼ばれる。彩は勢いよく助走をつけて駆け出し、片足で思い切りジャンプした。
「うわっ!」
しかし、高さが足りなかったのか彩はお尻がバーにぶつかりバーと一緒にマットに転がってしまった。
「うぅ、いけたと思ったのに〜」
彩は悔しがっていたところにすかさず体育教師が歩み寄り、アドバイスを贈る。
「照海さん、今のジャンプ自体はすごく良かった。ジャンプをする位置が少し遠いからもう少しバーに近いところで跳ぶのを意識してみて」
「うん。ありがとう、先生!」
体育教師のアドバイスで今度こそいける気がしてきた彩はお礼を言って再び順番待ちの列の最後尾に戻っていった。
「次、八剣さん!」
「はい!……ふっ!」
自分の名前を呼ばれた桐刃は深呼吸してから勢いよく助走をつけて駆け出し、背面でジャンプする。高位の災を圧倒してしまうほどの身体能力を備えた今の桐刃にとって高校生用のバーの高さは有って無いようなものだった。彼女の体は弧を描くように綺麗なフォームで一切接触することなくバーを飛び越えてマットに着地した。
「……すごっ」
「プロの選手みたい」
桐刃がチャレンジしている間、クラスメイトの女子たちは彼女の動きに魅入ってしまっていた。
「すごいわ、八剣さん!助走のスピードにジャンプの位置、空中のフォームまで陸上部の選手顔負けの完璧な跳躍だった!」
「ありがとうございます!」
体育教師は目を輝かせて大絶賛する。桐刃は照れくさそうにしながら列に戻っていく。桐刃が列の最後尾に戻ると待ち構えていた彩が興奮気味に彼女の両手を掴む。
「すごいよ、桐刃ちゃん。体動かせるようになったばっかりなのにあんなに簡単にクリアしちゃうなんて!」
「ありがとう。ほんとは跳ぶまですごく緊張してたよ」
まだまだ登校初日ではあったが、桐刃の日常は以前のようにただ病室のベッドに座り画面越しに授業を聞いていた頃とは比べものにならないほど充実していた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
現在プロットを見直して展開の追加や変更を行っているため、原稿の書き直しで更新が滞ることがあるかもしれません。
お楽しみにして頂いている中ですみませんが、より良い作品にしていきたいと思っていますので、引き続き応援よろしくお願いします。




