第24話
「桐刃ちゃん、すごいよ!あんな高く飛べるなんて!」
体育の授業が終わり、更衣室で着替えている桐刃に彩が話しかける。彩の目には驚きと喜び、興奮の感情が入り混じっていた。
「彩ちゃんだって2回目からは全部ちゃんとクリアしててすごかったよ」
「えへへっ、そうかな〜」
桐刃が微笑みながら褒め返すと彩は脱いだ体操服で口元を隠すようにして、照れながら嬉しそうに身をよじる。
「いけない、時間無くなっちゃう!桐刃ちゃんも早く着替えて一緒にお昼にしよ」
「うん。そうだね」
桐刃に褒められて有頂天の彩がふと時計を見て、はっとした彼女は桐刃をお昼に誘いながら急いでシャツやスカートを着用する。
桐刃もそれに釣られて急いで着替えを済ませる。
「桐刃ちゃん、こっちこっち……ここがうちの学食。日替わりから定番まで色んなメニューがあるんだよ」
桐刃は彩に手を引かれ、食堂まで案内される。そうして食堂に辿り着いた桐刃の目に飛び込んできたのは綺麗な椅子とテーブルが並べられ、様々な料理の良い匂いが漂い、様々な学年の生徒たちで賑わう、校内とは思えないカフェレストランのような空間だった。
「……すご。これ、本当に全部ワンコインなの?」
桐刃はディスプレイに並ぶボリュームのある定食や丼もの、麺類といった多彩なメニューの種類と安さに驚かされていた。
「驚いた?」
「……うん」
「ふふんっ、ほら、早く頼んじゃおう」
彩に促され、桐刃も注文待ちの列に並ぶ。
少し待つと桐刃と彩の番になり、桐刃は日替わりの鶏の照り焼き定食、彩はオムライスを注文し、窓際の席に座る。
それから、桐刃と彩はランチを楽しみながら、お喋りに夢中になっていた。
途中、周囲の生徒たちが初めて見る美少女の桐刃にチラチラと好奇の視線を向けており、桐刃も見られていることには気付いていたが、自意識過剰と思われたくなかったため、気付かないふりをしていた。
「ねぇ、彩ちゃん。そういえば朝私が来る前にみんな騒いでたけど何かあった?」
桐刃はふと思い出したように尋ねた。朝、彼女は教室に入る直前に不思議なざわつきを感じていた。特に女子たちがスマホを囲んで色めきだっていた様子が気になっていたのだ。
「あっ! 桐刃ちゃんが元気になったのが嬉しすぎて、私まですっかり忘れてたよ。これこれ、このニュース見た?」
彩はそういえばという顔をしながら、自分のスマホを差し出してくる。その画面には入院中にも見ていた術者関連のネットニュースサイトのトップページが映し出されていた。そこには麟堂家次期当主にして桐刃が契約結婚を交わした相手である天真の写真が掲載されていた。写真の天真はスーツ姿でスタイルの良さが際立っており、桐刃も認めざるを得ないほどのイケメンぶりを発揮していた。
『次代の担い手、麟堂天真氏。お披露目会を前に婚約者が存在することを明言か』
「ぶふっ!ごほっ、けほっ!」
「桐刃ちゃん、大丈夫!?」
桐刃は食べたものを吹き出しそうになりながら激しく咳き込んでしまう。
「ごめん、お米が変なところに入っちゃっただけ。もう大丈夫」
「ならよかった。これ、今朝はすごく話題になってたんだよ。天才術者で五大名家の次期当主でイケメンな天真様が選んだお嫁さんはどんな人なんだろうってうちのクラスの女子たちも大盛り上がりだったの」
「そ、そうなんだ」
桐刃は苦笑交じりに肩をすくめる。彩の反応からも察したが、やはり、学園に通う生徒、特に普通科の生徒にとっては五大名家の次期当主など雲の上の存在だった。
しかし、それゆえに自分たちの生活に直接関係があるわけではなくとも現代の王子様のような好奇心を持って天真のことを見ていた。
「麟堂天真様……か」
こうして画面越しに見ていると桐刃は天真が自分と契約による夫婦関係を結んだことは夢だったのではないかと思ってしまう。
しかし、それと同時にふと、天真に強引な奪われた初キスの感触と彼の体温を鮮明に思い出して顔を赤くしてしまう。
「桐刃ちゃん、顔が赤い気がするけど、やっぱりまだ調子悪い?」
「ううん、なんでもないよ。スープが熱かっただけ」
彩に尋ねられ、咄嗟に誤魔化した桐刃はすぐさま話題を戻そうとする。
「天真様って天位どころか極位なんでしょ? 本当に同じ人間とは思えないよねぇ。まあ、私たち普通科には縁のない遠い世界のお話だよね!お嫁さんになる人も大変かも!」
桐刃はあくまで他人事として話すが、これから近い内に自分に訪れるかもしれない未来を予言しているようで複雑な心境になっていた。
「まぁ、そうだよね。でも、これが本当ならお披露目会は気楽に参加できるよ」
彩はそう言って笑いながらオムライスを頬張る。
桐刃も同じように鶏の照り焼きを一切れ口に運ぼうとする。
しかし、口にする直前でお預けを食らうことになってしまった。
「桐刃、久しぶりだね。少しいいかな?」
聞き覚えのある不快極まる声で話しかけられ、振り返ると、そこには金輪際、二度と関わりたくないと思っていた"元"番ーー上宮秀磨が立っていたのだった。
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