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第20話

「これでいいんだよね?」


 災との戦いや麟堂天真の訪問など慌ただしかった休日がようやく開けた月曜日の朝、桐刃はクローゼットから一着の服を取り出し、鏡を見ながら着用し始めていた。それは彼女が一度でいいから高校の制服を着たいと心の底から願い祖母が用意してくれていたものだった。

 シャツの袖に腕を通し、ボタンをひとつひとつ丁寧に掛けているとその感触に自然と涙が溢れそうになる。


 これまでは苦痛に耐えながら無機質なノートパソコンの画面の向こうに映るクラスメイトや先生、黒板を見つめるだけだったが、これからは画面越しである必要はない。

 同じ教室で同じ空気を吸って授業を受ける。お昼休みには彩とお弁当を広げてお喋りを楽しみながら笑い合う。放課後には彩ちゃんや新しい友達と寄り道をして普通の女の子として過ごす。

 祖母が生きたいように生きていいと言ってくれたこの命でこれから祖母の分まで普通の幸せを掴み取ることができる。

 そう考えると自然と涙は収まり、喜びがこみ上げてくるのを感じた。

 最後に紺色のブレザーを羽織る。からうなじと後髪の間に両手を差し込むように入れ、ブレザーの内側に入ってしまった後髪をバサッと外に出す。

 黒い髪に混じる朱色のメッシュが朝日を浴びて輝いている。


「おばあちゃん、行ってきます」


 桐刃は祖母の遺影に向かって元気良く言うと意気込んでカバンを持って玄関を開け、力強い足取りで学校へと向かっていった。


「ねぇ、あんな子うちの学校にいたっけ?」


「ううん、見たことない。転校生かな?」


「すっごく可愛い……モデルさんとかじゃないの?」


 次々と生徒が登校してくる校門をくぐった瞬間から周囲の空気は一変した。

 登校中の女子生徒たちが足を止め、信じられないものを見るような目で桐刃を見つめ、ひそひそと囁き合う。男子生徒たちもすれ違いざまに思わず二度見し、目が合いそうになると慌てて視線を逸らすという動作を繰り返していた。

 呪いの痣が消え、その下に隠されていた本来の姿を取り戻した今の桐刃の存在は学園においてもあまりにも衝撃的だった。

 しかし、注目を浴びている当の桐刃本人の耳には周囲のそんな喧騒は一切入っておらず、どこ吹く風といった様子だった。


(本当に来たんだ……画面越しじゃない彩ちゃんやクラスのみんなに会える!)


 桐刃の胸の鼓動は期待でドクドクと高鳴っていた。


(早く会いたい。みんなに、彩ちゃんにおはようって言いたい!)


 新入生になった気分で弾むような足取りになりながら校舎内を駆ける。

 学校に来た以上は上宮秀磨や姉の美那、自分を捨てた人たちも校舎のどこかで鉢合わせするかもしれない。しかし、今の桐刃を突き動かしているのはそんなどうしようもない過去よりもこれからいくらでも手繰り寄せることができる未来への希望だった。


「……ここだ」


 そうしている内に桐刃は自分のクラスである普通科1-Eの教室の扉の前でピタリと足を止めた。

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