表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/26

第13話

「俺の嫁になれ」

「無理です」


 場所は病院内に併設されたカフェテリア。昼間になると日が差して温かくなる窓際の席で桐刃は氷のように冷たい態度で条件反射の勢いで食い気味に断りを入れた。


(これ絶対に最高に面倒くさいことに巻き込まれるやつだ!)


 内心で毒づきながら桐刃は目の前に座る青年の顔を冷めた目で見つめている。彼女はほんの数分前のことを思い出していた。


 朝頃に彩がチャットで教えてくれたニュースが本当であれば、お披露目会を直前に控えた麟堂家の次期当主がいち女子高生に構っている暇などないだろうと楽観視していた。それが間違いだった。


 顔馴染みの看護師から面会が来ていると言われ、受付に行ってみるとそこには黒いスーツに黒のサングラスという任侠あるいはスパイ映画から抜け出してきたような怪しげな男が病院に場違いな威圧感を放って待っていた。


「薙川桐刃様ですね?」


「違います」


 一瞬の間さえ与えず即答する。薙川というのは自分を捨てた実家の姓だが、今の自分は八剣桐刃。桐刃は男が自身の正体について何かしらの確信を持って接触しているのは明白だったが、彼女にそれを認める義理も必要もどこにもなかった。


「私たちは決して怪しい者ではありません」


「十分怪しいです。不審者として看護師さんたちに突き出しますよ?」


 あくまで無力な病人の女子高生という体で桐刃は冷ややかに男を牽制した。今にも看護師さんたちに向けて大声で助けを求めそうな桐刃の態度に屈強な男が狼狽える。


「もういい、俺が代わる」


 いつの間にか黒服の男の後ろに立っていた青年が業を煮やしたように端整な顔を覗かせる。その顔はまさしく昨日の夕暮れの公園で出会い、ついさっきもネットニュースでその顔を見たばかりの麟堂天真、その人だった。


「少し話がしたい。時間をくれ」


「拒否権は?」


「断ってもいいが……そうなったら、話を聞いてもらうまで毎日、朝早くからお前のスマホに連絡を送り続けることになる」


 五大名家の次期当主として日本の術者界の一翼を担うことになる男が堂々とストーカー宣言をやってのけた。

 そのあまりの傍若無人な物言いに桐刃はげんなりして、天を仰いで大きな溜め息を吐く。


「……分かりました」


「よし。ここではなんだ。下のカフェテリアまで行くぞ」


 このままでは望み続けて、やっと手に入るであろう普通の生活が物理的に破壊されてしまう。そう直感した桐刃は天真の後を追うように渋々カフェテリアへと連れられ同席することにした。

 そして、席に着いて開口一番に放たれたのがあの言葉だった。


「話って何ですか。早くしてください」

「単刀直入に言う。俺の嫁になれ」

「無理です。何言ってるんですか」


 桐刃は一度は術者と番としての価値を否定され、ゴミのように捨てられた身であることを理解している。それが今は五大名家の次期当主であり天才術者の青年から会って二度目だと言うのに求婚されている。

 桐刃は未だに自分は呪われているのではないかと錯覚しそうな運命の巡り合わせを勘弁してほしいと内心で頭を抱えていた。桐刃は心の内を悟られないようにきっぱりとした態度を崩さなかったが、一方の天真も一度目を付けた獲物は決して逃さないという執念を瞳に宿していた。


「なぜだ? 条件は悪くないはずだ。麟堂の家に入れば衣食住は保証されるし、何より――」


 天真は落ち着き払った態度を崩すことなく、淡々と自分と結婚することで得られるメリットを並べ立てた。


「お前が望めば、お前を捨てた薙川の家も番だった上宮の家も俺の指示ひとつで潰せるんだぞ。復讐したいとは思わないのか?」


 桐刃は麟堂家の調査能力を侮っていた。天真は桐刃が薙川家の出身であり、呪われてから術者として、人としての価値を失い、上宮秀磨に番を解消されたという桐刃にとって黒歴史とも言える最悪な過去の出来事を全て把握していた。だが、桐刃は顔色一つ変えずに言い放つ。


「そんなこと望んでないし、どうでもいい。私はただ、普通に学校に通って、普通に生活したいだけなの!それに私はまだ高校一年生ですし、結婚するか独身でいるかは私が決めます!では失礼します!」


 桐刃はそれらしい理由を並べて天真の言葉を突っ撥ねると、自身の分だけ代金を机に手のひらと一緒に叩きつけて、席を立つ。そして、早足でエレベーターに乗り込んでいった。


「おい、待て――!」


 背後で天真が呼び止める声が聞こえたが、桐刃は一切振り返らなかった。エレベーターのドアが閉まる瞬間も天真と目を合わせないように視線を逸らしていた。


(あー、もう! なんであんなのと関わっちゃったかな……)


 逃げるように病室に戻りながら、桐刃は内心で毒づく。

 もし、今の求婚が実家の両親の耳にでも入ればどうなるか。彼らならきっと「よくやった!」「さすが私たちの自慢の娘ね!」などと手のひらを返して罪悪感など微塵もなく、気味が悪いほどに媚びを売ってくるだろう。

 そして姉の美那は「なんであんたみたいな壊れものが天真様から!」と自分には秀磨がいるにも関わらず嫉妬に狂って罵倒してくるに違いない。


(そんなの嫌だ。想像しただけで虫唾が走る!私の幸せはあんな最低な人たちを屈服させることじゃない!普通に生活していくことなんだから!)


 家族や運命の相手が桐刃を捨てたあの時から彼女もまた心の中で彼らを捨てていた。

 絶対に五大名家や実家、術者同士のいざこれなんかに巻き込まれることなく、自由に平穏に生きてやると心の中で改めて誓いを立てる。

 精神的な疲労のせいで昼にも関わらず桐刃は病室のベッドに身を預けるのだった。

いつも読んで頂きありがとうございます。

感想コメントもお待ちしてます。

引き続き応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ