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知られたくない自分





――――暗い闇の中



周りには誰もいない。




その中に俺はいた。

















"人殺しめ"













………


















"何で貴様のようなものがこの世に生きている"



















やめろ……




















"人を殺しておいて、普通の生活を送れるとおもうなよ……"



















やめてくれ……




















"殺し屋としても裏切ったものがこの世に存在する価値なんてないよな?"



















やめろ……頼むから、やめてくれ……!!



















"オマエハイキテイテハイケナイソンザイダ"


























やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!





















「―――ッ!!!」






―――暗闇に沈んでいた意識が急激に覚醒する。


放心状態の俺は荒い呼吸のまま、周りを見回す。特に何もない、俺の部屋だった。



どうやら俺は夢を見ていただけらしい。それも特別にタチの悪い悪夢を……だ。



……思い返すだけでも嫌になる。全てから逃げてしまいたくなるくらいに。



……今の夢で少し過去に戻された感がある。




俺は普通の生活を送ってはならない。今まで何人を血の海に沈めてきただろうか、もう覚えていない。



こっちに来てからの人数を加えるとそれこそ現実世界ではとっくに何十回何百回と死刑にもなりそうな人数だ。




……何も考えたくない。もしかしたらこっちに来た時、そのまま処断されたほうが楽だったかもしれない。



そんなネガティブな発想しか今は出来ない。









「ハァ……ハァ……」







脈が早い。どうやらまだ俺は落ち着くことが出来ていないみたいだ。


水差しに手をかけ、それをゆっくりと飲みながら喉をうるおしていく。



ようやく少しずつではあるが落ち着いてきた。














「くっ……」





歯を噛みしめる。こうでもしないと自分が自分でいられないような気がして……


一呼吸置き、俺はそのまま再びベッドの上に倒れこむ。もう二度寝をする気分にもなれない。


時間も時間だ、そもそも二度寝することはない。



でも今はなぜか立ち上がる気力も起きなかった。夢のせい、それで片付けることが出来ればどれだけ楽なのか。






……出来ることなら全てを無かったことにしたい。全てをやり直したい。



それはもう叶わぬ夢だ。












「くそったれ……」










































「………ぁ」










どれくらい時間がたっただろうか、急激に意識がはっきりと覚醒してくる。


二度寝をしないといっていたのにも関わらず、どうやら思いっきり二度寝をしてしまったらしい。


目覚めもあまりいいものとは言えない。先ほど起きた時は早朝だったが、今となっては太陽は空の上にまで昇っていた。時刻的には昼過ぎって所か。


かなり長く寝ていたらしい。



ひとまず起きて自分の身なりを軽く整える。特に表だって俺の顔や体に異変が起きてはいない。


いつもと違うのは俺自身のテンションだけだ。


……今一つ上がりきらないが、とりあえず残っている書類に目を通さないと。












惰性のままに椅子に腰掛け、書類に目を通す。


こっちにきてずいぶん文字を覚えた。もちろん最初のうちは会話こそ出来るものの、文字なんかは日本語ではなく、とても読めたものでは無かった。


紙を一枚めくり、次の書類に目を通す。




そしてその一枚を読み終えるかという時だった。









「おい時雨! いるか?」





「……了承もなしにいきなり扉を開けないでくれ……流石にびっくりする」





「む、すまんな。少し急ぎの用があってな」





「急ぎの用? なんかあったのか?」




「詳しい話は後じゃ! 儂についてこい!」





「分かった」










突然ノックもなしに俺の部屋へと入ってきた黄蓋だが、その表情を見るだけで少なくとも他人事ではない事態が起きているということは理解できた。


……いやな感じがする。人命にかかわることが起きているのかもしれない。


万が一に備え俺は部屋に立てかけてある俺の刀を手に取り、黄蓋の後をすぐに追った。




















―――…



















俺達が向かった先の中央広場だった。


しかしそこに足を踏み入れた途端、いつもとは全く違った雰囲気を感じる。


今日は祭りがあるわけでもなく、別段何かの祝い事があるわけでもない。



それにも関わらず中央広場は人ごみで賑わっていたのだ。



一体なぜ……?








「……そろそろ用件を教えてくれてもいいんじゃないか?」




「ここから先の様子が見える。ばれないように覗いてみよ」





「………」








俺は黄蓋に言われるまま、人込みの隙間から中央広場の様子を覗いてみる。


するとそこには黄色いバンダナ……おそらく黄巾党の残党だ。その残党と対峙している孫策の姿があった。



しかも状況はどうやらあまり芳しくないらしい。


どうやら何か言いあっているのか、その会話はうまく聞き取りずらい。


俺はわずかにある人と人との間を抜けながら会話が聞き取れる絶好の位置にポジションを移す。そして俺の作った隙間を黄蓋がくぐりぬけてくる。


俺が前。黄蓋が後ろに着き、孫策達の会話を聞く。








「人質を離しなさい」




「離せと言われて、はいそうですかなんて聞けるかよ!」






黄巾党の人数は数人。この人数であるなら孫策一人で一網打尽にするなら簡単なことだろう。


だが相手は卑怯にも人質をとっている。


……その人質はいつぞや孫策が写し絵を頼まれた老夫婦ののようだ。





「あの人質、孫策の知り合いの老夫婦だな」





「そりゃ余計まずいのぅ……」





相手は何が何でもこの場から逃げようと興奮している。だから今下手に何か言えば、それに逆上して危害を加えないとも限らない。


人質二人に対して二人がついてるのか……かなり厄介だ。



俺は再び会話に耳を傾ける。






「まさか人殺しをしたいわけじゃないんでしょう?」




「そんな口をきいていいのか!? こっちが少しでも剣を動かせば……」







持っていた剣を老夫婦の首筋に近づける。


……まずいな、若干逆上しかけている。これじゃいつ危害を加えるとも限らない。


しかしそんな状態の黄巾党に孫策はなおも会話を続けていく。





「でも殺しちゃったら、あなたたちの大切な人質がいなくなっちゃうわよ? 意味なくない?」





「あ……」





「やっぱり分かってなかったのね。馬鹿の相手は疲れるわ」





「なっ……!」





「二人を離せば、命を助けてあげる……どう?」




「………」









どうやら孫策の放った言葉に揺れているみたいだ。


黄巾党は投げかけられた言葉に口をふさぐ。





「このまま何事もなくか……難しいのぅ」


















―――何気なく黄蓋が発した言葉







俺は何故かその言葉に猛烈に腹が立った。










黄蓋に対してではない。黄巾党達に対してだ。








こいつらは人を捨て、賊になり下がった。挙句の果てに何の罪もない人を自分達の私利私欲の為に殺しておいて、まだ逃げようとしているのだ。








それもまた人質を取るという手段を用いて。







こいつら人を何とも思っちゃいないんだ。自分の欲求が満たされれば、はいサヨウナラだ。









そこから先、人質は死のうが生きようがどうでもいい。



そう考えているんだろう。




それでもなお、人として生きようとしているこいつらの腐った心。




こいつらの存在がすごく憎く、腹立たしく思った。






同族嫌悪。そう捉えることも出来るかもしれない。







―――だが……














ふざけるなよ……











こんな奴ら生きている意味がない。











自分の犯した罪を背負おうともしないこいつらに、生きていく資格なんかない。



















――――ドクン!



















「………」





こいつらだけは絶対に許さない。











目には目を……











歯には歯を……















罪深き者には鮮血の雨を……

















「黄蓋……一瞬でも隙を作ればいいんだな?」





「あぁ、そうすれば策殿がなんとかしてくれる」





「分かった。俺がなんとか隙を作る……援護を任せた」





「……気をつけるのじゃぞ」





「………」







俺は刀を腰に差し、人込みをかき分けて中央広場へと降り立つ。










「おい……」





「なんだぁ!? お前は!!」





「!!」





孫策が俺の存在に気がつく。俺は孫策を少し見たあと、目の前にいる黄巾党達に視線を移す。





「そこの女の関係者さ」




「この女のぉ?」





「あぁ……そうだ。提案なんだが、ここでこのまま睨みあっていても仕方ないだろ」








「何!?」









「俺達は無事に人質を助けたい。お前達は無事に逃げおおせたい……」





「だ、だったらどうしろってんだ!」








「……分からないのか? 簡単なことだろう?」





「どういうことか全く……」









俺は相手をあまり逆上させないよう、少しずつではあるが。相手に近づいていく。


目を閉じ、敵意はみじんもないと言わんばかりに両手をあげて。



……このようにすれば、黄巾党に対し、俺は敵意はないと思わせることが出来る。



そしてそれに安心したのか、後ろにいる数人は刀をおろし、臨戦態勢を解除する。












……バカだな








瞳の奥では俺が殺気を垂れ流しているというのに……




すぐにそれに気がついて逃げ出せば本当に命だけは助けてやらんこともなかった。






でも、そんな執行猶予は……








モウ、ナイ……
















「分からないなら教えてやるよ」













ブシュッッッッ!!!







「ぎゃあああああああああ!!!」





納刀状態から一気に抜刀し、人質をとっていた二人の腕を斬り落とす。剣が地面に落ち、二人はあまりの痛みにもだえ苦しむ。





「痛てぇ! 痛てぇよぉ!!」




「し、死ぬ! 死んじまう!!」





「そうか……痛いか、なら今楽にさせてやるよ」










容赦などせぬ。


俺はその二人の首を容赦なく跳ね飛ばす。


鮮血が舞い上がり、俺の顔を服を、真っ赤に染めていく。









―――ははっ……たまんねぇ。恐怖に歪んだこいつらの顔が、たまらなく愉快だ。







斬り終えた相手を見いやると、すでにその場には黄蓋と警備隊の面々が既に二人を保護している。


そして孫策も二人の老夫婦に出来る限りの笑顔を見せ、励まそうとしている。


それを確認すると、再び残った黄巾党達に視線を移す。



と、黄巾党の一人が保護しようとしている老夫婦に背後から斬りかかろうとする。



懐から短刀を取り出すとそれを黄巾党に向かって投げつける。





「ぐえっ!?」





首筋に命中し、絶命する。






「屑が……何逃げようとしている……」





「も、もう何もしねぇ! こいつらには手をださねぇから……な?」




「あ?」





ガシャリ……と持っている武器を次々と地面へと落としていく黄巾党の残党達。人質も失い、もはや何も頼るものがなくなった今、出来ることは俺達に投降することだった。


ガタガタと震える者、腰が抜けて地面にひれ伏す者など反応は様々だ。



何だ、案外聞く時は素直なんだな。













―――デモ、ユルスキハナイ







「あぐっ!!」





投降したうちの一人に近づき、その首筋に刀を突きたて、そして引き抜く。


あふれ出る鮮血。噴水のように出てくる血の量が既にそいつは助からないということを暗示していた。











「投降する? だからどうした?」







「二人を解放すれば助けてくれるって言ったじゃね……ガフッ!?」









「猶予を与えたのに貴様らはごねるだけだったろ?」








「お、俺らはこうして降参してるのに! お前は無抵抗な人間に手をかけるのか!?」








「……貴様は今までそう言ってきた人たちを何人殺してきた?」









「あぶっ!」









容赦など必要ない。こいつらを生かす価値など無い。おびえて、苦しんで死んでいけ。孫呉を敵に回したらどうなるか……死して脳裏に焼き付けろ。





「ひいぃぃぃぃ!」





「お前らは人を捨てたんだろう?」






「た、助けてくれえええ!!」








逃げ惑うもの、命乞いをするもの。


反応は多種多様だが、そんなやつを一人一人斬り殺していく。


誰の判断でもない。


ましてや孫策や黄蓋の判断でもない。



俺だけの判断で。





「人を捨てたものが、人として死ねるなんて思うな……」









殺戮は続いた。


俺の意識とは関係なく、俺は目の前の『モノ』斬りさばいた。ただ人を殺すことに快楽を覚えるように。


こいつらに感情なんて必要ない、俺の顔はどんな顔をしていたのだろうか。


多分笑いながら殺していたんだと思う。





―――広場一帯には多くの血だまりが出来、そして無残に切り刻まれた死体が多数転がっている。



……徐々に血の気が引いていく。





血の気が引いていくと同時に訪れるのは強烈な絶望感と脱力感……




黄巾党を全員この手で始末したため、俺の顔も手も服も血まみれになっている。



誰かの声が聞こえる、どんな声かも分からない。興味を持てない。





この俺を間近で見たら孫策も孫権も……みな、俺を避けるかもしれない。





何も考えたくない。





何も見たくない。






何も聞きたくない。















――――今の俺には音も聞こえず景色も見えず、何も考えることも出来ないまま立ち尽くすしかなかった。

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