↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/66

慰め





――――雪蓮 Side





騒動後、二人を保護したのち、私は再び広場にやってきていた。


先ほどまでは大勢の人にあふれかえっていた広場だが、今は幾分少なくなっている。


警備隊達が、事後処理を行っている中、今だその場から動こうとしない飛鳥の姿があった。



私は飛鳥の下に駆け寄り、肩に手を置く。





「飛鳥、大丈夫?」





「………」







反応がない。



私はもう一度、出来るだけ優しく声を掛ける。








「飛鳥」





「孫策か……?」







もはや発する声も弱弱しかった。


あの場を救ってくれたのは間違いなく飛鳥だ。でも飛鳥本人は助けるという目的は果たしたものの、残った黄巾党を無残に皆殺しにしている。



近くで見ていた私が思う。あれはいつもの飛鳥ではなかった。



この反応を見て分かる、あの姿は私達には絶対に見られたくなかった姿だったのだろう。


私が血を見ると興奮を覚えるように、飛鳥も人命の危機に直面した時に人柄が変わってしまう。


そして人を殺すことに快感を感じてしまってる。



自己防衛のためなのかもしれない。だとしてもあれは私達に見られたくなかった姿だ。



でも飛鳥が居なかったらおじいちゃんもおばあちゃんも助かっていたかどうかは分からない。





「いつまでもこんなところにいないで帰りましょ?」




「……あぁ」





飛鳥はその場に落ちている刀を拾い上げ、私の後をついてくる。


いつもの飛鳥の面影はなく、足取りもおぼつかない。



視線はずっと地面を向いたままで、私と顔を合わせようとしない。



一言も会話が無いまま、私達は館へと戻った。














――――館に戻った後、飛鳥は力なくベッドに倒れこんだ。


どうやら精神的にかなり来ているらしい、夕食にも飛鳥が姿を現すことはなかった。



そして夕食後、私は一人飛鳥の部屋の前へと来ていた。彼の事を思うと、居てもたっても居られなかったから……





―――孫呉のために利用する、初めて飛鳥に会った時に私が投げかけた言葉だ。


確かにその言葉は事実だ。飛鳥を御遣いとして祭り上げることで、孫呉の復興への近道であると考えたからだ。



……でも今は少し違う。短い期間ながらも、飛鳥は私達と会話し、共に行動することで少しずつではあるが私達に馴染んでいった。



そして今では私達の中で時雨飛鳥という存在は、決して欠かすことのできない存在になっている。


私達の中で飛鳥の存在が大きくなっているということだ。




私は飛鳥に対して、明確な好意というものを持っている。


……いや私だけじゃない。




私以外にも程度の違いはあれども、多くが飛鳥に対して好意を持っている。



初めは飛鳥に対して突っかかっていた蓮華も、黄巾党本隊の殲滅作戦を経て、飛鳥に対して絶大なる信頼を寄せている。


それだけではない、あの思春でさえ飛鳥を認めている。


そして彼の事を明確に気になる異性だと捉えている。



他にも明命然り、冥琳や祭、穏もそうだ。



飛鳥に対してはっきりとした好意というものが見て取れる。




―――決心はついた。扉を叩き、飛鳥がいるかどうか確認する。






「飛鳥、いる? 私だけど……ちょっといいかな?」





声をかけた後、少し待つ。


そして内側からゆっくりと、扉が開かれた。







「あぁ、孫策か。どうぞ」




「お邪魔します」







少し時間がたったからか、飛鳥自身もある程度の落ち着きを取り戻しているみたいだった。


部屋に通されて私は椅子に、飛鳥は布団に腰かけた。





「こうやって飛鳥の部屋に来るのは久しぶりかもね」




「さぁ、覚えてないな。もの覚えはあまり良くなくてな」





「良く言うわよ、ホントに」






他愛もない話を交わす。会話してみても先ほどの感じは見られない。


本当に吹っ切れたのか、それとも私が前にいるから我慢しているのか話してみる感じでは分からない。そんな会話を続けているとふと、飛鳥が話を止める。






「……ありがと、孫策」




「? どうしたの急に?」




「心配してくれているんだろ? 俺の事……」





「そうね、むしろ心配にならない方がおかしいわ。何ともないの?」




「何ともないわけないな。結構つらいよ、今も」







飛鳥はポツリと本音を漏らす。


私の読み通りだった、そもそもあれだけの事があって、平気であるはずがないんだ。


本音を漏らしたからだろう、やや飛鳥自身の表情が暗くなった。


そのまま言葉続ける。





「孫策は……俺を見て何とも思わないのか?」




「どうして? あの時貴方がしたことが間違っているなんて私は思わないし、貴方の事を嫌う理由にもならないわ……」





「……疼くんだ、人を殺すたびに。もっと人を殺したいって、あの症状が出ると、どうしようもなく……」





覇気のない声で、絞り出すかのように話す。


涙を流しているわけじゃない、でも飛鳥は泣いているような気がした。


それほどにまで弱弱しい口ぶりで、ゆっくりと話し始めた。








「どうしてこうなるのか、俺にも分からない……でも……お前達にあの姿を見られたくなかった……!!」





「飛鳥……」








それを見ただけで私にははっきりと分かった。飛鳥も好きでこんな状態になったのではないと。


だからこそ、あの姿を間近で見られたことが相当な心の傷になってしまっている。


人を殺めることに躊躇はないと、飛鳥は言っていた。でもそんなのは口からのでまかせでしかない。



飛鳥自身は、人を殺したくないというのが本心なんだ。









「悪い、こんなことを孫策に言うことじゃなかったな……」





「ううん……そんなことない」





「……そん……さく?」






私が今出来ること、それは少しでも飛鳥の心の癒しとなってあげること。


私はむしろ感謝しなければならない。あの騒動を鎮めて、おじいちゃんとおばあちゃんを救ってくれたのは飛鳥だ。


例えどんな形であろうとも、私の大切な人を守ってくれたのは飛鳥だ。



飛鳥のベットの隣に移動し、飛鳥自身をそっと抱き寄せた。


普通は男性が女性にやること、でもそんなことは関係ない。



いつも大きく映る飛鳥の体が、このときばかりは小さく思えた。







「貴方にどんな過去があろうとも、貴方がどんな体質を持っていようとも……皆の貴方への想いは変わらないわ……」





「………」





「例え周りに誰もいなくなったとしても、私がそばにいてあげるから……」





「……ありがとう」











飛鳥は泣いた。


声をあげて大声ではない、静かに悲しみをぶつけるように私の胸で泣いた。


それは決して周りには見せない、飛鳥の弱み。



その弱みを私は受け止めた。































―――どれくらいの時間がたったのか、少し照れくさそうな顔をしながら飛鳥は私から顔を背ける。


先ほどまで泣いていたことが相当恥ずかしかったのか、なかなかこちらに顔を向けてくれない。





「……なんだ、とりあえずなんだろう……ありがとう」





「いえいえ♪」








 少し楽になったのか、若干ではあるが飛鳥の顔に明るみが戻る。


もう大丈夫だろう。






「また孫策に借りを作っちまったな」





「そうねー、この借りは大きいわよ?」





「うげ……」





「飛鳥の違った顔も見れたし」






「む……」






「私にはいいことずくしだったけどね♪」





「……ふん」






三度、顔を赤くしながら私から目線をそむけてしまう。いつもいつもからかわれてばかりなのだから、偶には意趣返しも悪くない。






「何か借りを返さないと……こっちが申し訳ないな」






「別に良いわよ? 私自身嫌々やっているわけでも無いんだし」





「だとしてもだ、流石に借りっぱなしだとこっちが申し訳ねーよ」






「んーそうねぇ?」















飛鳥の顔をじっと見つめる。


私自身特に何か見返りを求めていたわけではない。でも飛鳥は借りを一個も返せていないから、何か返したいといっている。



………そこまで飛鳥が言うのなら、何か一つ願いを叶えてもらいたい気はある。







「でもまぁ、急に決められるものでもないよな」







飛鳥は私から視線を外す。



………少し恥ずかしいけど、これくらいはいい……よね?



飛鳥の顔に少しずつ顔を近づけていく。頬にだったら大丈夫よね?












――――そして、私の唇が触れ合おうとした時だった。








「このことに関しては、ごじ………」












急に振りむかれた。



頬に照準を定めていたのに、飛鳥に振りむかれてしまったら当然その照準は外れるわけで……



その外れた照準は飛鳥の頬ではなく、唇に重なっていた。







「………」





「………」









流れる沈黙。


飛鳥は唇を押さえたまま、呆然としている。それは私然りだ。


でも私自身、いやな感じは全くなかった。



私自身が、飛鳥から求められるのを欲しているのかもしれない。







「か、借りはこれくらいでいいわ」





「は? お、おい……」





「……また私が必要になったら、いつでも呼びなさい」












何気なく飛鳥にそう言って、部屋から出ていく。


でも私の心臓の高鳴りはやまないままだ。


もし、あれ以上長く続いていたとしたら………


私は私自身を抑えきれなかったかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。