4-不良なのに
「由良姉、おかえり! 友達できた?」
帰宅早々、玄関で仁王立ちで待ち受けていた由羽を見て溜め息をつく。
「…今日仕事じゃなかったっけ? なんでいんの」
「早く終わったからね。で? できたの? あーでも、由良姉、チキンだから無理かー。ごっめんねー? 傷に塩塗るようなこと聞いちゃってー」
ニヤニヤ笑いながら由羽はリビングのドアを開けた。むっかつくわぁ、誰に似たんだろ、こいつ。
「できたっつーの」
「嘘つかなくていいのに、由良姉。恥ずかしがることじゃないよ? 大丈夫、そういうのはやっぱり得意不得意があるから。由良姉は、ただ不得意なんだよね? 友達作り」
「できたっつーの」
イライラしながらもう一度強調するとリビングに美人さんが座っていることに気がついた。
「こんにちは、由良さん。お邪魔しております。今日は学校に間に合えましたか?」
「佐々木さん! 今朝は本当にありがとうございます! 佐々木さんのおかげで間に合いました」
佐々木さんはいつもの”佐々木さんスマイル”を見せた。…あぁ美人だなぁ。
つくづく思うんだけど、美人ってだけで人生ほんとに得するよなぁ…。
「ちょっと由良姉、私のおかげでしょうが! 見つけたの私なんだから! 普通、先に私にお礼言わないとおかしいってば!」
「あーはい。どうも~」
「…むっかつく」
由羽なんかにムカつかれてもなぁー。毎年365日、常に1秒も漏らすことなくこっちは由羽にムカついてるわけだしなぁ。あ、ごめん。言い過ぎました。
佐々木さんが帰っていった後、由羽と二人でテレビを見ていた。
「お母さんと由斗兄は?」
さりげなく聞くと由羽は「知らない」と即答した。
目くらい合わせようよ、由羽。私、お姉ちゃんよ? あなたのお姉ちゃんなんだよ? そこんとこ理解できてます?
ちなみにお父さんは忘れてた、とかそういうのじゃないからね。単身赴任なんです、うちの父は。
「あ、そーいやお母さん今日帰ってこないんだった」
不意に由羽が口をひらいたのでなんで、と聞き返す。
「お父さんのとこ、行くんだってさ」
あんのラブラブ夫婦め…。倦怠期とかいうもんとはほんと無縁だな。
うちの親は限りなく仲が良い。それこそ、私ら子供が引いてしまうほどに。恋愛とは無縁すぎる私にとれば親の感情がいまいち理解できないため、よく「空気読んでくれよ、由良」だの「ちょっと由良、親のせっかくの雰囲気を壊す気?」だのと言われてしまう。
だってわかんないもんは仕方ないって!
「由斗兄ってば遅いね」
由羽の呟いた声ではっとする。ちょっと親のこと考えすぎてた。
「確かに。…あ、メール来てる」
なんとなくケータイを起動させると由斗兄からメールが来ていた。あまりメールとかそういうのはあんまりしてこない人なので少し驚いた。
『遅くなる。晩飯さきに食ってていいから。ただの喧嘩だから心配しなくていいからな』
手短に書かれたメール文から由斗兄の優しさが垣間見える。
由羽のために本文を読み上げたあと、私達は夕食を食べることにした。
由斗兄は不良だ。
しかも、都内一の不良。つまり番長、トップなのである。
由斗兄を見てまず最初に思うことといえば皆、百人が百人、「金髪」と答えるだろう。
鮮やかに染め上げられた金髪は太陽の光に反射して常にキラキラと光っている。この前、クラスメートや由斗兄のファンみたいなのが「浅原番長ってなんかキラキラしてるよね」「オーラっていうか、ね。直視できないよねー」と言っていたがそれは金髪がキラキラしていてそれが反射して物理的に見れないのではないだろうか。
いや、多分そうだよ。私も由斗兄見てて、物理的に「まっぶし!」って思うことよくあるし。
まぁそこはとにかくおいといて。
確かに由斗兄は金髪だ。不良に見えてもおかしくないかもしれない。…だけど。
どうしても私は、それ以外に由斗兄の不良要素が見つけられない。
喧嘩は確かに強い。でもそれはイコール不良にはならない。そんなこと言ったら例えばだが、柔道部の皆様イコール不良になってしまう。だからそこは不良要素にはならない。
由斗兄は不良でよくありそうな親や先生への反抗とか全くない。逆に先生と仲が良いくらいだ。「あぁ!?」とか「うっせぇんだよ、黙れっ!!」とかそういうのが全くないのだ。
一言で言うと…、素直である。
そんなの不良じゃねぇだろ! と思うかも知れないが私だって同意見である。
確かに人より何倍もぶちギレるととてつもなく怖いのだが。まぁそんなのは滅多に起こらない。由斗兄は寛大で器が大きく優しいのだ。
…不良なのに。
夜になってリビングで録画していたドラマを見ていたら家のドアがガチャリと鳴った。
由斗兄が帰ってきたようである。
「お帰り、由斗兄」
立つこともなく座ったまま声をかけると由斗兄は「ただいま」と優しく返してくれた。
「由羽は?」
「さっき寝た。明日はやいんだってさ」
「母さんは?」
「お父さんのとこ」
「…またか」
溜め息を少し漏らすと椅子にどかっと腰かけた。
「晩飯もう食ったよな」
「うん。由斗兄の分、冷蔵庫に入れといた」
由斗兄はさんきゅ、と言うと立ち上がって冷蔵庫に向かっていった。
「喧嘩、どうだった」
なんとなく聞いてみると由斗兄は手を止めた。
「んーそーだな。勝ったんじゃね?」
「え、なにそれ」
勝ったんじゃね? とかそんな曖昧でいいの!? その喧嘩。
「よくわかんねー。皆、俺に戦わしたくないみたいで最終的にどうなったのか見えなかったんだよな」
雑すぎだろ、おい。
「へー。 あ、そだ。そういえば聞きたいことあるんだけど」
「なんだ。勉強以外のことならなんでも聞いてくれ」
あ、大丈夫です。もともと由斗兄にそーんなこと聞くわけないから。
由斗兄は、何を隠そう、勉強できない系に属しているのだ。
「九谷秀って人知ってる? 私と同い年の男子の」
「まっ、まさかお前の彼氏とかじゃ」
「ないですからご安心ください」
あんな奴が彼氏だと? ふざけんな、謝れ私に。九谷め。
「…いや知んねぇけど? 誰だよ、まずそいつ」
「不良だよ、あっちは由斗兄の右腕だって言ってたけど」
「え、マジか。いや、そんな覚えねーけど…」
御愁傷様でございます、九谷くん。兄はあなたのことを全く知らないようでございますよー?
「ならいーや。おっけーありがと。もう寝るね」
「おう。おやすみ」
にっと笑った人懐っこい兄の笑みは不良とは思えないよなぁとまら考えながらも布団に潜った。




