5ー早起き
朝。
朝である。
「いやぁー良い朝だねぇ、由羽」
「うっさい。うざい。てか、なんでもう起きてんの」
そうです。現在、午前4時。早いですねぇー。
「べっつにいーでしょー。学校に遅れないために起きてるだけだしー」
「それにしても早すぎだって。馬鹿じゃない?」
うわー朝から実の姉に対して容赦ねぇな。こいつの頭に尊敬や敬うことの大切さを叩き込んでやりたい。いや、うちも敬うことの大切さとか知らんけども。
「あ、もう出ないと。じゃあ」
そう言って由羽は家から出ていくのを見送る。
「佐々木さんにくれぐれも失礼のないようにねー」
「あんたは私の親かっ!」
「親類だよ、親類」
「家族っていえよ」
朝から切れのある突っ込み、あざーっす。
「じゃあね」
そう言って手を振る由羽に手をぶんぶんと振ると若干引きぎみに見られた。
え、せっかく手を振ってあげたというのに、酷いよ。
朝の度を過ぎた早起きのおかげで学校にとてつもなく早くついた。
私が一番乗りだろうと啖呵を切っていると校門に先客がいた。
「はっや…」
つい呟いてしまい急いで口をつぐむ。そう、空耳だと先客の少年が思うように、何事もなかったように…。
「なんて?」
少年はこちらを向いて正面から聞いてきた。あ、結構っつーかめっちゃ端正な顔立ちをしてらっしゃいますな、こいつ。
「あー…いや、ただ早いなぁと思って」
「いつもこれくらいだよ。俺、いつも朝練してるからな」
「なんの?」
「なんの…ってクラブのだけど?」
じゃなくて! なんのクラブの朝練ですか、と私は聞いたんだよ! クラブの朝練とかそんなのわかってるっつーの!
「えーっと、なにクラブ?」
「サッカー。あー…先に言っとくけどまだ入ってないよ。これから入るつもりだけどな」
入ってないのに朝練すんの!? しかも、いつもこれくらいって言ったよね、さっき。…え、なにこいつ。
そういや、サッカーって滝山くんと一緒だ。
「入ってないのに朝練?」
やっぱ気になるし聞いとこう。減るもんじゃないしね。
「あー俺、1年だからまだなんだよ」
まさかの同学年ということに驚きが隠せない。…あれ待てよ。
「え、でもいつもって」
どういうこと、と言い終わらぬうちに返答が来た。
「中学の頃の話だよ」
…うん、まぁそれしか有り得ませんよね。
「で、君は何年?」
「同じ1年。Aクラスだよ」
「俺もAだよ。びっくりした。まさか同じクラスとは」
私こそびっくりですよ。まじか、この爽やかそうなイケメン野郎と同じクラスとは。まぁ面白そうだし優しそうだから大歓迎だけど。
「なに?」
「え、なにが?」
いきなり、なに? ってなんだよ。この爽やかイケメン野郎。主語言え、主語。さてはこいつ、国語苦手なタイプだろ。
「名前だよ。あー、俺がまだだったか。俺は池澤拓斗」
「えーと、浅原由良、です。よろしく」
「んじゃ、よろしく。こうやって会えたのも同じクラスなのもなんかの縁だと思うしね!」
はっきり言って由斗兄とかのことで名字をとやかく言われるだろうともう心の準備をしていた私にとれば驚いた、としか言えなかった。
まさか、由斗兄を知らない、とか…?
いや、さすがにそりゃないか。
まぁきっと気を使ってくれたかなにかだろう。そこまで悩むことじゃない。
「んじゃ、あとでな」
と、グラウンドに向かっていった池澤くんに手を振り、話相手もやることもなくなった私は少し悩んだ結果、教室でゆっくり寝ることにした。
「おっはよー」
りのりんの声が聞こえて、頑なに閉じていた目をうっすらと開けた。
「何時から来てたの。結構長いこと寝てたんじゃない?」
「忘れたけど、結構早めに来たような気がする」
寝惚けた頭でそう答え、大きく伸びをした。んー、気持ち良い。
「もう朝礼だよ、行こう」
「理解したー」
「理解したならまず立とうよ…」
はい。ですよね。
朝礼に向かうと、もう結構人が集まっていた。一年の人達が沢山並んでいる列にりのりんと向かいつつ世間話をしていた。
「やっぱ校長ってハゲなのかな」
「あー、まぁ少なくとも私はハゲに一票だね」
「ほうほう。つまり、りのりんは校長の不自然なほどふさふさしている髪はカツラだと見ているわけですな」
「口調大丈夫? うーん、まぁでも植毛とかかもしれないよね」
「…植毛、か。なるほど、その手もあったか」
周りから見ればシュールな、先生が聞けば確実呼び出しをくらう話で盛り上がっていた。
で、実際のとこ、どうなの? 校長。
朝礼も終わり教室に戻ろうと歩きだすと、隣に滝山くんが登場した。
「おはよー、眠くねぇ?」
「あ、おはよ。そこまで眠くないけど。ていうか、どうせ教室で会えるのになんで登場したの?」
「え、なに? 俺って教室でしかお前と話せねーの? どんなキャラだよ」
知んねーよ。
「で、なに?」
用件は、と問うときょとんとした顔をされた。
「え、用がねぇと話しかけちゃいけねーの?」
「え? 普通なんかあるでしょ、なんか。え、それともなに? 暇だったから? 暇潰し程度に私に話しかけたの?」
「あ、いや。な、なんかすまん」
いや、謝られても。
「てか、お前って、なんか結構毒舌だよな」
「そーかな、そういうつもりはないんだけどねー。あ、そういやさ、滝山くん。池澤くん、て人知ってる? 同じ学年の人でしかも、同じクラスの人! 滝山くんと同じサッカー部に入るみたいだよ」
何気なくそう言うと滝山くんは勢いよくこちらを振り向いた。
「え、お前、あいつ知ってんの?」
この話題を提示した時点で私が池澤くんのこと知ってるっていうことぐらいはわかってくれませんかね、滝山くん。さては君、読解力ゼロだから、成績表の国語「1」でしょ? ん? ほらあたってるでしょ?
「知ってるけど、なに?」
「え、お前もしかして、あいつの、池澤のファンなのか?」
…は? え? いや、え? なんでそうなった? え、滝山くんの脳内では「池澤くんのことを知っている=池澤くんのファン」っていう方程式が出来上がっちゃってんの?
となると、池澤くんの周りはファンだらけじゃない?
「いや、全然違うけど」
はっきり否定すると、ほっとしたように滝山くんは息をついた。
「はぁぁああ、それならよかったぁー。はぁもう、変な神経使わせんなよー」
過剰にほっとしている滝山くんを見て私は首をかしげた。
「え、なになに? 池澤くんのファンだったらなんなの?」
少し、いや少しなんかじゃないが興味が湧いてきて身を乗り出して聞く。すると、滝山くんはあのな、と話し始めた。
「あのな、池澤って、ファンっつーもんが嫌いらしいから」
「へぇ、ファンが? 私とは無縁すぎてわからないけど、普通嬉しいもんじゃないの? 自分のこと好いてくれてるって」
「俺もそう思うんだけどよー」
滝山くんは首のふもとあたりをぽりぽりと掻きながら、教室に入り、席に座った。
全然気付かなかったが、いつの間にか教室に着いていたようだ。
「お、いたいた」
座ってからずっと、きょろきょろとあたりを見回していた滝山くんは急に他の人に見えないよう、小さく指差した。
「え?」
指差した方を見ると、眠そうにしながら座っている池澤くんが目に入った。
「あ、ほんとに同じクラスだったんだ…」
「あれ、お前が言ったんじゃなかったっけ?」
「いや、言ったけど、実感湧いてなくて」
そう言いつつ、池澤くんの顔をガン見していたら、確かに、と感じる。
あの顔ならファンできても普通だな。多分、本人にやる気があれば、超売れてる芸能人とかになれるんじゃないかなぁ。いや、なれるわ、これ。
「お前、あいつ狙ってんの?」
「誰が誰によ?」
滝山くんが話しかけてきたのを無視しようと思ったが、無言を肯定と受け取られたら困るな、と思い、質問に質問でかえす。
「え? 今の流れ的にお前が池澤を、だろ」
「全くそんなつもりはございませんが」
ちょっと迫力をだそうと敬語で答える。あと、睨むことも忘れずにね。
「だって、ガン見してんじゃん」
「全くそんなつもりはございませんが」
もう一度言うと滝山くんはもうやめとこうと言わんばかりの顔になった。
まぁ確かにがっつりガン見してましたけどねー、私が池澤くんを狙うなんて全くそんなつもりはございませんが!




