3ーマジで勘弁
「ねねね、浅原さんのお兄さんって浅原番長だよね?」
「浅原番長って普段どんな感じなの? ほら朝起きた時とか」
「浅原番長って何か趣味とかハマってることとかある?」
由良はまさかの緊急事態に焦っていた。
「あ…いや」
肯定したくないが否定もできないので先程からこのように話から逃げている。が、それももうすぐ終わりを迎えそうだ。こうやって逃げ続けるにも限界があるだろう。その前にここから逃げなさなければ、と由良は辺りを見渡した。
一番前で窓際の角にある由良の席は逃げ場がないと由良はすぐに気付き、顔が真っ青になっていくのを感じた。
なんで終令の前に休み時間とか作ったんだ、若高の校長め! 「登校初日なので友達作りに設けた! 仲良くしてろよー!」とか言って小笠どっか行っちゃったし。
(ど、どうしよ。りのりんも居ないし…。あーもう! これも全部、由斗兄のせいだ!)
心の中でイライラとした感情を放出させながら溜め息を吐いた。どうしたら逃げられるんだろうか、と頭の中で考えるが全然良い案が思い付かない。
由良は自分の不運さを呪った。と、その時だった。
がらららら、と鳴ったドアと同時にある声が聞こえた。
「おい、浅原由良ってやついるか?」
一瞬で教室が静かになるのを由良は感じた。そしてすぐに視線が自分の方へ注がれる。
自分を呼んだ人の顔を見ようと由良はおずおずと顔を上げた。
由良を呼んだのはある少年だった。彼の特徴を上げるならば、まるで闘志を燃やしているようなぎらついた目を持っている、ということだろう。彼の金髪に近い髪も耳に一つだけ付いたピアスも自己主張するようにぎらり、と光っていた。由良は一目、その少年を見て、着崩した制服がこれ以上に似合っている人はいないだろう、と感じた。その少年は端正な顔立ちでそれと着崩した制服がこの上なくマッチしていた。
「聞いてんのか、おい。浅原由良ってやつ出て来いって言ってんだ」
少年はイライラしたように声を荒げた。
少年に見とれていてそんなことは全く忘れていた。自分の前でわらわらと集まっていた人達がさっと避けて少年への道をつくった。おお、気がきく。
(あぁ、やっと抜け出せる。誰だか分かんないけど感謝だ)
まだ少年の名前さえ知らない由良はクラスメートが作ってくれた道を視線を感じつつ通っていった。
「私が、浅原由良だけど」
少年の目の前まで言ってからやっと由良は口を開いた。
「…お前か。じゃあ付いて来い」
そしてズンズンと少年が歩き出すのを見て、また由良は呆気に取られた。
いや、名乗れよ。付いて来い、じゃねぇよ。名乗れよ。
しかし、そういう思いはそっと胸にしまい込んで由良は少年の背中を見ながら歩き出した。
「早く答えろ」
「え、いやあの」
「早く言えって言ってんだろ」
「あー…っと、えーっとぉー」
「はぐらかすな」
またまた現在困っている。今日は厄日なのだろうか…。
教室にいるあの「浅原番長はー」「浅原番長ってー」とずっと言ってたクラスメートからやっと逃げれると思って逃げてきたっていうのに…。
「あんたなんなの!?」
教室の前で私を呼んだこいつははっきり言ってめんどくさかった。教室にいるクラスメートより何倍もうるさいし。
「だからっ、浅原番長の右腕だって言ってんだろ!」
自称・由斗兄の右腕の男は耳元で大声でさけんだ。
「んで、浅原番長って家でいつもなにしてんだ!? 些細なことでもなんでもいーから、とにかく詳しく教えろ!」
「だから普通だってば! 別にこれといったことはしてないよ! 普通なの、普通! ていうか、ほんと早く名前言ってよ! 誰!? あんたマジで誰!?」
いまだに名前を教えてくれない少年は私を睨んだ。
「なんか…、なんかあるはずだ! なんか隠してるだろ! それを教えてくれたら名前言ってやる」
何様だ、こいつ。ていうか、じりじり近付いてくるな、この不審者! ここは一喝!
「ない! 何度言やぁわかるんだ!! ないものはない! 名前言え! お前の悪口永遠に流してやるから」
これで少しは落ち着くと油断していたら少年は怖じ気づくこともなく言い返してきた。
「言わねえ!! 教えてくれたら言うって言ってんだろ! なんでもいい! 朝起きたら、浅原番長は朝起きたらまず最初になにするんだ!?」
「二度寝する!!」
「まじかっっっっ!!!!! そういうの、そういうのを待ってたんだよ! 俺は!」
え…ひく。
凄く心の底からそう思ったが言わないでおいた。
凄くうれしそうにしてどこからか登場した「浅原番長になるためのノート」とタイトルに書かれたノートにいそいそとメモしている。
…なんだ、そのノート。
「じゃあまたな! 浅原由良! また浅原番長についていろいろ教えてくれ!」
気付いたら、少年はノートに書き終わったみたいで嬉しそうに手をぶんぶんと振ってどこかへ行ってしまった。
…名前聞くの忘れた。
教室に帰るとりのりんがいた。りのりんは私を見つけるとすぐに私の目の前に来て大丈夫?、と声をかけにきてくれた。大方、同じクラスの子が教えたのだろう。
「あー…大丈夫だよ」
「九谷秀でしょ? あいつ」
「へ、知ってるの?」
名前知りたかったから丁度いい。ごめんね、九谷くん。これから悪口いっぱい言わしてもらうよ。
「知ってるもなにも超有名だよ! なんていうの? 一匹狼な不良ていうか…。まぁそんな感じ! それに結構顔立ちもいいし、よくモテるみたい。この頃は浅原番長の手下っていうかパシりみたいなもん。結構一匹狼の不良っていうイメージ強かったから最初は驚いたよ。でもまぁ浅原番長だったらどんな人でもついて行きたいって思っちゃうよね、仕方ないや」
さらさらと話すりのりんの話に呆気にとられる。
「りのりんなんでそんな詳しいの?」
きっぱり聞いてみると、りのりんは苦笑いしながらそんなことないよ、と返した。いやそんなことあるよ。どっからそんなに噂っていうか情報っていうか、そういうのを得ているのだろうか。謎だ。
「で? どんな話してきたの?」
「あー…いや別に、これからよろしくー! みたいな?」
「いやいやいや、え? 由良?」
ごめん、ほんとごめん。りのりん。さっき入学式で、浅原番長は兄じゃないってりのりんに言っちゃった自分を呪うよ…。嘘がだんだん大きくなっていく…
「え、嘘だよね? いやだって九谷秀はそういう奴じゃないと思うけど」
「いやっ、なんかこれからよろしくー、仲良くしようぜ! みたいな感じだったよ!?」
ううう、罪悪感やばい。
「冗談はやめよ、由良! ほら」
「あーっと、もうすぐ終令じゃーん。帰り支度しなきゃー」
そう言って逃げる。うん、ごめんね。
丁度いいタイミングで小笠が「友達できたかぁ!?」とフレンドリーに入ってきた。ほんと、ナイスタイミング! ファンになっちゃうかも! いやならんけど。
「お前らーっ、生徒同士で仲良くなってもいいけどよー! 俺とも仲良くしような!」
いやもうファンとか無理みたい。なにこのノリ? マジで教師なのかよ、こいつ。
顔をしかめながら小笠を見ていたら隣の奴が声をかけてきた。
「浅原だよな? 俺、滝山さとし。これから隣みたいだしよろしくな」
「あ、うん。滝山くんか。私は浅原由良ってもう知ってるか」
「知ってる知ってる。さっき、九谷なんか来たらしいけど大丈夫だった? あいつ結構短気だから」
滝山くんはさらさらした黒髪の少年だった。
「え、九谷くんのこと知ってんの?」
「あいつ有名だし。ていうか俺と九谷結構仲良いからな」
「へぇ~、どうでもいい情報ありがとう」
「お前、結構毒舌だな」
滝山くんはとても面白かった。なんか九谷くんに滝山くんはもったいないなぁと思うけどほっとこう。口出すことでもないしね。滝山くんはサッカー部に入りたいらしい。小さい頃からサッカーをやっているそうで。浅原は何部入りたいの、と聞かれたけど無視しといた。だってないからなぁ。帰宅部とかにしようかなぁ。




