第七十四話 高天原と葦原中国の狭間で
これにて『菊理姫様!お導きを!』〜英雄の誕生〜
完結
目を開けると現代に戻っていた。
うちは、舞台にいる。
隣を見ると驚いた顔の櫻子とヒロがいる。
そうして、目の前には白馬がいる。
白馬はうちにゆっくり近づく。
そうして、ふぅと息を吹きかけてきた。
中学校の制服だったのが神楽装束へと変わる。
神楽を舞えということなのだろうか?
白馬が頷く。
舞台の下を見る。
そこには、遺影を持って憎々しげに櫻子を睨む男がいる。
櫻子の写真に赤バツをつけているプラカードを持っている者。
その視線がうちにも刺さる。
「私は、後神侯爵家嫡子の後神かよ。先の大永事変の御霊を鎮めるために神楽舞を奉納しよう。」
そう言うと鉾鈴に魔力を込めた。
お囃子が鳴る。
『貪欲と三毒は千の思いと萬の生きし御霊を
一片の祈りもゆさず飲み込む』
先ほどより、はっきりとお囃子が聞こえる。
神器の鉾鈴に魔力を流す。
りん。
静かに厳かに鳴る鈴。
『裂けていった御霊の祈りが届くように』
五色の緒を左手に添えて
鉾鈴を鳴らす。
祈りを込めて足を運ぶ。
『御霊は則ち天下の神物なり』
鉾鈴と五色の緒を天に掲げ魔力を流し、鈴を鳴らす。
禊の雨が降り注ぐ。
『八百万の声を救いたまえ 御霊は則ち静め鎮まることを掌るべし』
左手の五色の緒を離して、扇の神器を出す。
鉾鈴を頭上に掲げ、扇で会場を清める。
りん。
鈴を鳴らす。
『現世で砕けた御霊が霊世を求めて 今も何処かへ耐えず叫び続ける。』
りん。
鈴の音が人々に届く。
『高天原と葦原中国の狭間で生きるは
現世で痛みに狂う この時に清く潔いさぎよきことあり』
『いずれ形のない御霊に出会い 引き換えに現世で生きるは 御霊を震わせ声をあげよ』
うちは神楽を終わらせた。
周りを見る。
櫻子の頬に一筋の涙が伝っていた。
貴賓席には太陽の君がいる。
その顔は穏やかだ。
前を見る。
白馬がゆっくり帰っているところだった。
会場に静かに降った雨は止み。
雲の隙間から光が差し込む。
そこには、遺影を抱いた父親が静かに嗚咽を漏らしながらその場に崩れ落ちた。
うちは、天を仰いだ。
大和の空は魔素に満ち、神々の加護が煌めいている。
お囃子の一文を思い出す。
『高天原と葦原中国の狭間で生きるは
現世で痛みに狂う この時に清く潔いさぎよきことあり』
だから…。
目一杯、生きないと。




