第六十九話 英雄の隣に立つ者
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こちらは、外伝となっております。
気になる方は、本編の『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜もご覧になってください。
『此く依さし奉りし國中に』櫻子の口から静かに詠唱が流れる。
「櫻!あかん!それは、あかん!」ヒロが必死に雪をかき分けながら進む。
吹雪が全てを飲み込む。
アレクが影に入ろうとして櫻子のハサミに半身を斬られた。
泥のようにグスグスと崩れ落ちるアレク。
それを見てより一層、劉の顔が焦る。
ーーー菊理姫さまから縁を切る神器を貰ってよかった。
『荒振る神等をば』
ーーーヒロとの糸が切れたら…。
ーーーヒロは私を忘れて生きてくれる。
『神問はしに問はし賜ひ』
ーーーそうなったら、ヒロは結婚して…。
ーーー子供とか生まれて…。
ーーーー幸せになってほしいな…。
「櫻子!あかんって!俺!アンタを忘れたくない!」ヒロが叫ぶ!
チャリン。
ヒロの腰の狐のマスコットが揺れる。
ヒロの叫びが吹雪にかき消える。
「はじめてだったんよ!俺の技術!認めて笑ったんわ!」
チャリン。チャリン。
狐のマスコットが激しく揺れる。
ヒロは、櫻子の緋色の姿に向かって吹雪の中をかき分け進む。
『神掃ひに掃ひ賜ひ』
ーーーでも、少し寂しいかも…。
櫻子の記憶が流れる。
初めて会った公園。
ロッキーが、櫻子の心を読んで“違う!”と否定する姿。
櫻子がヒロに食べ方や喋り方を指摘している姿。
ヒロにバイクの乗り方を教わっている櫻子。
ヒロが魔道具を作っている姿を見ている櫻子。
野菜を食べないから料理を工夫している櫻子。
ーーーそして、ヒロの笑顔。
チャリン。チャリン。
櫻子の神器の狸のマスコットが櫻子の吹雪で激しく揺れた。
『この身を捧げしーー。』
「櫻!」
そこで、ヒロの声が聞こえた。
ヒロが櫻子の元に必死に近づこうとしている。
その隙に劉が影に入り消えていく。
「櫻!戻って来い!行くな!」ヒロが叫ぶ。
櫻子の動きが止まる。
吹雪も止む。
「こちら本部!司令部より通達!テロリストの殲滅完了!これにて作戦を終了する。」丸山の報告がヒロの魔道具に入る。
「こちら田中!了解!」
ヒロが雪をかき分けながら櫻子に進む。
櫻子の瞳が戻る。
肌が色づき、髪の毛が黒く艶やかになる。
「櫻!終わったんや!」
ヒロがやっとのことで近づく。
櫻子が神器を振り上げる。
「俺やって!」
「…ヒロ、ごめん。私、私…。」
「終わったんや。帰ろう。な。」
そこで、ヒロは櫻子の体を抱きしめた。
その体はとてもとても小さかった。
うちは静かにその様子を見ていた。
「終わったんやな…。」
『いや。これからだ…。』
白馬が静かに話す。
うちは、その時、その意味がわからなかった。
場面が変わる。
御所だ。
謁見の間に櫻子・ヒロ・三条・徳田・豊富・小野兄妹・丸山が首を垂れている。
「伊達櫻子。其方の先の大永事変の功績を鑑み、伊達を改め、後神侯爵を叙す。」
その後、式部官が櫻子に神辺領地を封ずる旨を話す。
三条達にも爵位が上がること、そしてそれぞれにも領地を与えた。
丸山は子爵から伯爵になる。
「田中大夢。其方は此度の事変で後神侯爵をよく支えて献身的に働いたその功績を鑑み、田中男爵を叙す。」
それを聞いていた式部官たちが一斉にざわめく。
「忌守が?」「穢れてしまう。」「あの者が社交界を出入りするのか?」「うちの娘に近づいてほしくない。」
ヒソヒソとそんな言葉が飛び交う。
「お上の決定に異議がある者は、今ここで申せ。」近衛が静かに話す。
しんと鎮まりかえる。
「申し上げますが。」ヒロが発言した。
「男爵の位は、自分には身に余る光栄です。自分は、仕事をしただけです。この度の受勲を辞退します。」ヒロの言葉が静かに流れる。
「無礼だ。」「やっぱり品がない。」「でも、これでよかった。」「身の丈をわかっておるではないか。」
「どっちが無礼なんだか…。」櫻子が静かに吐き捨てる。
場面が変わり、舞踏会だ。
三条と櫻子がファーストダンスを踊っている。
「田中君と踊らなくて良かったのかね?」三条が壁にもたれかかっているヒロを見る。
ヒロと茜茜・ライラがいる。
なぎさの姿もあるが俯いている。
そこだけ誰も近づこうとしない。
「ヒロはダンスが踊れませんから。外宮は習わないとダンスなんて踊れませんよ。」
「そういう意味では、なくてだな…。」三条は櫻子の色のない瞳を見た。
「今回の舞踏会…。差別をなくすために、ヒロ達を呼びましたが、本人達には逆に酷ですね。」櫻子の声が氷のように冷たい。
「食べへんの?」ヒロ達にローストビーフの皿を持った豊富が話しかけてきた。
「食べ方わからんし。こっちにはドリンクもないので。」
「ホンマやな。オイ!」そこで豊富がボーイに声をかける。
「こちらの方々にドリンクを」
「……かしこまりました。」
「なんよ。あの態度。」
「普通っすよ。」ヒロが首元を緩めながら話す。
ネクタイが窮屈なのであろう。
「社交中にタイいじらん方がいいで。下品や言う奴いる。」その仕草を豊富が指摘する。
「知らんっすよ。そっちのルールなんて。」
「そう言うなや…。ホイ。」そこで豊富がヒロに皿を渡す。
「茜茜ダンスするぞ。」そう言って茜茜の手をとる豊富。
「っ翔太郎!私、踊った事なんてないネ!」戸惑う茜茜。
「俺に合わせればえぇねん。」
そうしてホールに入り、ダンスを始める豊富達。
茜茜が耳を少し伏せて、顔を真っ赤にしながら豊富のリズムに合わせて踊る。
「はっはっ身分差の恋!」ライラがタブレットを出して絵を描きはじめた。
「良かったんですか?」なぎさが、皿に乗ったローストビーフを乱暴に食べてるヒロを見る。
「何が?」
「男爵…。断って。」
「こんなの毎年やらんといけんやで。嫌や。」
「そうですか…。」耳を伏せて前を向くなぎさ。
なぎさの目線の先には櫻子と三条が映る。
櫻子の目は色を失ったままだった。




