第六十三話 諦念のソナタ
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8月9日11時2分です。
テロ対策本部の一室。
机の上にある自宅の鍵を見つめる櫻子。
白い瞳の先には、狸のマスコットがある。
一瞬。
本当に刹那。
櫻子の瞳に色が戻る。
櫻子が狸のマスコットを取る。
そうして、神器のハサミの持ち手にくくりつける。
菊理姫様の糸を出し、取れないように狸のマスコットと神器にくくった。
そうして、腰に収める。
チャリン。
神器にマスコットがあたる音がする。
櫻子の白いはずの瞳から暖かな涙が溢れ。
頬に一筋の跡を残した。
次に見えて来たのは、円卓の間だ。
円卓の間には、人々が一堂に会していた。
ステイツとアルビオンなどの国際騎士が座り、対面には大和の緋色の軍服が並ぶ。
九条・近衛・三条に徳田。小野兄弟と今回は丸山と上野もいる。
そしてーーー。
ヒロと櫻子が離れて座っている。
櫻子は、三条の隣だ。
ヒロは普通の戦闘服を着て丸山の隣に座っている。
空間移動魔法の光が強くなる。
豊富と茜茜がやって来た。
豊富は二人の異変に眉を顰める。
そして、茜茜を見る。俯く茜茜。
「もう、体は大丈夫なのかね?」そんな様子を見た三条が問いかける。
「あぁ、しっかり禊をしたから大丈夫や。」そう言って座る。
茜茜は豊富の後ろに控えた。
「櫻子はん、おおきにな。俺を助ける時に茜茜に魔力分けてくれたんやろ?」
「仕事ですから。」短く答える櫻子。
その様子に面食らう豊富。
そうして、ヒロを見る。
目を合わせないヒロ。
次に三条を見た。
三条が小さく首を横に振る。
舌打ちをする豊富。
タバコを出して一服する。
「あの大聖堂にあった薬を分析した…。豊富君この話をして大丈夫か?」近衛が豊富に尋ねる。
「そんなか弱く見えてますか?」煙を吐きながら話す豊富。
「…あいわかった。奴らは、魔力を強制的に凝固して石に変えていたようだな。街中で放った魔法はその仕組みを利用して、光に変換。それで、無抵抗の者は魔石化したようだ。」
会議についている面々は、手元の資料を目を通す。
「ファーリー製薬会社の瓦礫から出て来た液体とも一致した。此度の事から、この会社が関与しているのは、間違いない。」九条が話す。
「後は、修金赫との関係だけだな…。」九条が話す。
「我々からも報告が、追跡していた部隊の中に永喜王朝軍の装備と酷似した小隊が帝都で人々を魔石に変えて確保していた事が確認された。証拠を国連に提出した。現在、永喜王朝は孤立しつつある。」アルビオンの軍人が話す。
「永喜王朝は、なんと声明を国連に提出したのですか?」近衛が尋ねる。
「今回の一連の事件は、永喜王朝政府および軍とは一切関係がない。犯行は反政府テロリストによるものである。」ステイツの軍人が静かに言う。
沈黙が流れる。
「ありえないじゃないですか!」冬馬が叫ぶ。
「明らかに軍を使って!人を魔石にして!それにこんな研究!」
そこで冬馬がクシャと資料を掴む。
「民間だけで出来るはずないじゃないですか!」
「井伊も!それに…。」そこで友香里を見る冬馬。
「…冬馬。」友香里が泣きながら首を横に振る。
「冬馬君は…。海斗と仲良くしてくれていたからね…。…ありがとう。」徳田が組んでいた手の上に頭を置き項垂れる。
「じゃ、冬馬君はどうしたいの?」感情のない声で櫻子が尋ねる。
「戦争ですよ!責任とってもらいましょうよ!」
冬馬は怒りで真っ赤な目を櫻子の真っ白な目に向ける。
櫻子がゆっくりそれを見返す。
「じゃ、それであと何人死ぬの?」
たじろぐ冬馬。
「そして、私はあと何人殺せばいいの?」
冬馬の心に櫻子の吹雪が襲う。
冬馬が櫻子の威圧で失神しかける。
「冬馬君、気持ちはわかるが、ここで開戦したらより多くの血が大和に流れる。」九条が静かに話す。
「こちらからは、ファーリー製薬会社の関与の証拠と相手が言う“テロリスト”の情報公開を呼びかけましょう。」
そして、会議が終わる。
櫻子が立ち上がる。
チャリン。
ヒロが櫻子の腰の狸のマスコットを見る。
櫻子が光に包まれ空間移動魔法で消える。
「オイ!田中!ちょっと面かせや!」豊富がヒロに声をかけた。
乱暴にタバコの火を消すとヒロの前までいき胸ぐらを掴んで円卓の間を出ていく。
三条がその様子を見て一つ息を吐いた。
「なんやあれ?」豊富がヒロを壁に押し当てる。
「何がですか?」ヒロが豊富を睨む。
「櫻子はんのことや!」
「……。」
「それに何や。こんなしょっぱい色の服着おって!緋色の奴はどないしたんよ!」
そこで豊富がヒロに殴りかかる。
それをヒロが手で受け止める。
「豊富さん関係ないやないですか?」ヒロが豊富の拳を押し返す。
「っ!?」豊富の顔が歪む。
「体術で勝負っすか?華族のボンボンには負けやんですよぉ!」
そこで、ヒロが豊富を蹴りを放つ。
蹴りが当たる前に間合いを取る豊富。
「何してるネ!」
「田中!やめろ!」
茜茜と丸山が止めに入る。
「俺!伊達先輩の事!華族学校の頃から憧れてたんやで!」豊富がヒロに殴りかかる。
ヒロは拳を振り上げることもなく、紙一重で避ける。
「そん時とおんなじ顔しているやん!」豊富が拳を振り上げる。
「いや!今はもっと酷い!」
「なんで!お前隣におらんねん!」
豊富がメチャクチャに拳を振り上げる。
「伊達先輩!こっち配属って聞いてワンチャンあると思ったら!」
「お前がいっつもぴったりおって!」
「邪魔な時にぴったり隣におるにの、なんで今はおらんねん!」
豊富がドンと壁を叩く。
「じゃ!今から豊富さんが行けばえぇやないですか!」
「同じ華族の公爵家やないですか!」
豊富の顔が苛立ちで歪む。
「お前ふざけるのも大概にせいや。」
ヒロの胸ぐらを掴むとドンっと壁に押し当てる。
「伊達先輩のあの笑顔作ったんは、田中やろぉ!」
「華族学校でも社交界でも見たことがない!」
「俺は勝負する前から田中に負けてるんや!」
「行けてたら、とっくにとっくに今すぐに行っとるわ!」
そこで豊富が泣き崩れる。
「紫苑の物語みたいな伊達先輩と田中なんだから!」
「俺じゃあかんねん!」
「田中じゃないと!」
ヒロは何も言わない。
豊富は俯いたまま、拳を握りしめる。
「俺はな……伊達先輩が笑っとるんが好きなんや。」
「俺とおる時の笑顔やない。」
「お前とおる時の……あの顔が好きなんや。」
ヒロの目が僅かに揺れる。
「せやから……。」
豊富が涙を拭う。
「俺は、お前に伊達先輩を任せたんや。」
「……。」
「せやのに……。」
豊富が顔を上げる。
「なんで、お前が先に諦めとんねん!」
ヒロの喉が、小さく鳴った。
豊富の泣く声が廊下に鳴り響いた。




