第六十話 氷結の麗人と抑圧されたスナイパー
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こちらは、外伝となっております。
気になる方は、本編の『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜もご覧になってください。
神辺のテロ対策本部。
ホワイトボードの前に、後ろ手を組んだ櫻子が一人立っていた。
ヒロはいない。
ホワイトボードには神辺市街の地図、事件の経過、そして冬馬が命懸けで持ち帰ったファーリー製薬会社の資料が隙間なく貼られている。
櫻子はじっとそれらを見ている。
ノックが聞こえる。
「入ります。」静かに冬馬が入ってきた。
その後に異国の軍服を着た人が入って来る。
二人とも違う軍服だ。
櫻子が振り返る。
その瞳には、赤く燃えゆく業火さえ消え去っていた。
残っているのは、すべてを凍らせるような真っ白な絶対零度の世界だ。
アルビオンの軍人が思わず足を止める。
ステイツの軍人も無意識に息をのんだ。
櫻子は、ゆっくりと翻訳の魔道具を出す。
「お待ちしておりました。私は、神辺の伝達者。伊達櫻子といいます。」
「私はーーー。」
軍人二人が短く挨拶する。
無機質な机に座る面々。
「こちらをーーー。」櫻子が資料を二人に差し出す。
「良く調べましたね。」銀髪に碧眼の初老の男性が話す。アルビオン王国の軍人だ。
「あなたが、指揮官で?」ステイツ合衆国の軍人である、栗色の髪の毛に濃いブラウンの目の男が話す。
「ここの防衛を任されていますが、私は軍人ではないので。指揮官ではありません。」
「軍人ではない…?」
「はい。教師です。」
ステイツ人とアルビオン人が目を合わせる。
「では、あなたが指揮官なのですか?」冬馬を見る。
「いえ…。僕も軍人ではありません。検察官です。」
困惑する二人。
「驚かれるのも無理はありません。」櫻子は淡々と続けた。
「大和では、特権階級のみが魔術を扱えます。普段は教師、警察官、検察官、自衛官として暮らし、有事の際のみ、それぞれの役割を担います。」
そこで、ノックが聞こえる。
たぬきの耳と尻尾の亜人のなぎさが四人にお茶を運ぶ。
その様子にも驚く二人。
「失礼いたしました。」なぎさが一礼して退出する。
「このように様々な人種と手を取り合わないと大和は、滅んでしまいます。なんせ、魔術師が少ないですから。」
そこで櫻子がなぎさが持ってきたティーカップを持ち上げる。
カップを揺らし相手に見せる。
一口飲む。
ステイツとアルビオンの軍人を見て。
カップを下ろした。
アルビオンの軍人が目を細める。
「……毒見ですか?」
「えぇ、ホスト側が客人の前に口をつける。大和の鬼喰いの作法です。」
そして、どうぞ。
と二人にお茶を勧める櫻子。
しかし、二人ともカップに手が伸びない。
その様子を氷の様に冷たい目で見た櫻子が話を続けた。
「中央騎士団は帝都を主任務としておりますので、地方は地方の魔術師が守る。それが大和です。」
そして、もう一度お茶に口をつけた。
ゆっくりとカップを置いて、それぞれの国の軍人を見る。
櫻子は背筋を崩さぬまま足を組み替えた。
「そちらの情報を提供していだたきたい。どんな些細なことでも。」
そこで、櫻子はコテンと小首をかしげた。
異国の軍人を光のない真っ白な瞳で見据える。
戦場を駆けてきたであろう二人の額から汗が伝った。
景色が遠のく。
次に見えたのは、自衛官が忙しなく動き回るテントだった。
ヒロと上野・丸山が地図の前に立ち、何やら話している。
「地下街を洗っているがなんもでやんかった。」上野が言う。
「相手の陣へ戻ったんちゃう?」丸山が話す。
「いや、国際的に動いとる事は永喜も知っとるやろ。ここでわかりやすく戻るとは思えん。」ヒロが髭の剃り残しを気にしながら話す。
「空港はどうや。」上野がヒロに聞いた。
「あり得るな。」
自衛官と元傭兵の二人が敵の出方を模索している。
そんなヒロの表情を丸山がチラリと見る。
場面が変わる。
ヒロが大きなライフルを机に乗せていた。
そこに丸山がやってきた。
「探したで。」丸山がヒロにタバコを勧めた。
ヒロはタバコを仕草で断った。
「丸山さんも今はタバコやめてください。警官が持っているS &Wより危ないんで。」
丸山に注意するヒロ。
手慣れた手つきで部品を外し、細い棒のような物を銃口へゆっくりと通す。
うちには何をしているかわからん。
「それ、スナイパーライフルってやつやん。想像よりでかいな。」
「俺、元々は狙撃手なんすわ。」
ヒロがバラバラになった部品を迷いなく元に戻していく。
「櫻がおったから前衛しっとただけです。」
無表情のままライフルを机に置き、銃に取り付けられた小さな望遠鏡の様な物を覗き込む。
「……えぇんか?」
「何がですか?」棘のある声で答えるヒロ。
ぎろりと丸山を睨みつける。
そんな様子を見てため息を一つ吐く丸山。
「……後悔だけはしやんようにな」
丸山は振り返らず去る。
ヒロは答えない。
ライフルの大きな取手を引く。
カチャリ。
その音だけがテントに響いた。




