第五十九話 言葉の戦場
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こちらは、外伝となっております。
気になる方は、本編の『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜もご覧になってください。
次に見えてきたのは病室だ。
櫻子が黒のブラウスに袖を通している。
軍服のスカートに脚を通すと軍用ベルトをきっちりと締める。
髪の毛をつげ櫛で整えると一つ結びにする。
軍服のジャケットを着るとボタンをゆっくり一つずつ止めた。
そうして、軍帽を被る。
病室を出る。
「櫻!」ヒロが櫻子の元に駆けてくる。
「お願いや!行かんとくれ!」ヒロが櫻子の肩を掴む。
「……。」無表情の櫻子。
「俺が!俺がどうにかする。だから…。」ヒロが櫻子に縋る。
「どうにかってどうやって?」櫻子が今まで見たことがない冷たい目でヒロを見た。
「友香里ちゃんがあんな事になって…。」
「豊富さんまで攫われて…。」
「徳田さんの甥っ子は魔石にされて…。」
「ーーーそして、ロッキーは死んで…。」
櫻子は小さく息を吸う。
「どうにかって…どうするの?」
「教えて?」
櫻子がヒロを見上げる。
その氷結のような眼差しに驚愕するヒロ。
ヒロの力が抜ける。
カツカツと軍靴を鳴らしながら、櫻子がヒロから遠ざかっていった。
呆然とヒロがその場に崩れ落ちた。
視界が歪む。
あの日の櫻子の絶望だけが、うちの心の中に入り支配した。
次に現れたのは、円卓の間だった。
円卓の間には、白い布が掲げられ、各国の代表が遠隔魔法で映し出されていた。
円卓の中央には、太陽の君と九条・近衛。その端を式部官が控え。
会話を記録するのに筆を走らせていた。
前線では命を削り、後方では国運を賭けた言葉が交わされる。
「我がアルビオン王国では、この資料だけでは貴殿達に協力する義理がない。大体、テロリストにつけ込まれて魔法を公開して…。こちらも外向きの外交で大変なんだ。」アルビオン語で語られたが、すぐさま翻訳され字幕として布に映し出される。
「我々まで出ると言うことは、世界大戦になりかねん。そこまで大和を助ける義理はこちらにもないな。」同じくアルビオン語で話すステイツ合衆国の代表が話す。
「では、お聞きしますが…。」ゆっくりと九条が切り出した。
「2017年、アルビオンで起きた《ニューポートテロ事件》。犯人の遺体は何処へ?」
「……その件は、国家機密だ。」アルビオン代表の眉が上がる。
「だから伺っています。」
「………。」何も話さないアルビオン代表。
次に九条はステイツ合衆国の代表を見た。
「2001年ステイツ合衆国・双塔同時襲撃事件。ゾンビ化した暴徒23名。貴国では薬物事件と処理していますが、その薬物は何処から出ているかご存知で?」
ステイツ代表の顔色が変わる。
「こちらが我が国で入手した、ファーリー製薬会社の資料です。写しを転送しましょう。」そう言うと式部官が資料を転送装置に送った。
各国の代表が静かに読む。
「こちらの資料にありますように、修金赫は各国の魔物を非魔術師に埋め込み…キメラも生み出し、各地のテロ組織に売却しているようです。近年、魔法犯罪が各国で増えていますが、その中心には修金赫とファーリー製薬会社がいます。」
「これは、大和だけの話でしょうか?次に狙われるのは、どちらのお国でしょう。」九条が静かに締めくくる。
円卓の間に沈黙が流れる。
「大和は助けを乞うているのではない。共に世界を守る者として協力を求めている。これは、大和一国では、裁けぬ犯罪です。」太陽の君が静かに話す。
「お願いしたいことは、三つ。」九条が静かに話す。
「一つ、情報提供。」
「二つ、国際調査団の設立。」
「三つ、修金赫の身柄拘束への協力です。」
各国の代表が唸る。
「…資料を提出しよう。」ステイツの代表がゆっくりと話す。
「…2017年の調査記録を持ってこい。」アルビオンの代表が自分の政務官に声をかける。
「我々は、協力致しかねます。この証拠が捏造でない保証は?」そこで、一人の男が意義を申し立てた。
「今、提出された写真を解析した。本物だ。」ステイツ代表が話す。
「しかし、そちらの神々の事は、我がルーラー教の神と違います。我が国アル=サフルは、ルーラー教の神エラヒームの御心のままに。」そう言って通信を切ってしまった。
すると何国は同じように挨拶をし、通信を切る。
「かの国はぶれないな…。」アルビオンの代表がぼやく。
沈黙が流れる。
各国の代表の政務官が慌ただしく動いているのが映し出された布の端に見える。
「……九条。一つ聞こう。」おもむろにステイツの代表が話す。
「貴国は、この事件を永喜王朝との戦争にする気か?」
「いいえ。」
「修金赫一人を裁きます。」きっぱりと話す九条。
「国家に罪はない。罪を犯した者だけを裁く。」太陽の君が静かに話す。
再び重い沈黙が流れる。
「我が国が聖ルクス教の神イエズレイルは、貴国の神々の良き隣人として、福音をあらんとする。よってステイツ合衆国は大和の申し出を受けよう」ステイツの代表が胸に手を当てて宣誓する。
一人、また一人と代表たちが胸に手を当てる。
白い布に映る各国の代表が次々と誓をたてた。
「しかし、我々にも時間をくれ、はじめに調査団を派遣しよう。」アルビオンの代表が話す。
「十分でございます。」九条が短く答える、
こうして、世界を巻き込む外交戦の火蓋が切られた。
大和を守る戦いは、剣でも魔法でもでもなく、一枚の証拠と一つの言葉から始まった。




