第五十五話 命の演舞
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こちらは、外伝となっております。
気になる方は、本編の『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜もご覧になってください。
車の中に丸山と豊富がいる。
豊富は魔法陣を展開し、車窓の向こうにある工場を見つめている。
「修金赫ファーリー製薬会社の元取締役…。今は、永喜王朝のお偉いさんね…。」と豊富が資料を見ながら話す。
「尻尾出しそうかねぇ…。」丸山が双眼鏡を覗く。
「ここを叩いても…。外交が弱腰やからな…。」豊富がタバコに火をつけた。
「嫌な事言わんでくださいよ…。」丸山がぼやく。
「でも、友香里が頑張ってくれたんや。やるしかないな…。」ゆっくりと豊富が煙を吐く。
そこへ冬馬が車に乗り込んできた。
「豊富さん!また、タバコですか?」冬馬が咳き込みながらも豊富にコーヒーを渡す。
「タバコ吸わんとやってられやんわ!それより…。冬馬は寝れてるんか?」豊富がコーヒーを受け取り冬馬に尋ねる。
見ると冬馬の目の下は隈が酷い。明らかに疲弊してるのがわかる顔つきだ。
「僕は、大丈夫ですよ!妹が頑張ったんやから…。これくらい…。」冬馬の肩が震える。
「田中もそろそろ限界や。早くこんな馬鹿らしい事終わらせんとな…。」最年長の丸山が冬馬が持ってきたコーヒーのプルタブを縦に切りながら話す。
「ヒロもか…。櫻子はん…あんなんになってももうたからな…。」豊富が顔を押さえて天を仰いだ。
豊富の持っていた新聞には、【聖女!また民衆の心を救う】とデカデカと書かれている。
「魔力を抑えろ!」双眼鏡を覗いていた丸山が短く言う。
豊富と冬馬が魔力を抑えた。
「あいつや…。あいつがおった!」丸山が豊富に双眼鏡を渡した。
双眼鏡の先にアレクがいた。
買い物帰りなのだろうか?ビニール袋をぶら下げて歩いている。
「当たりや!」豊富が冬馬を見る。
「冬馬!ここを徹底的に調べるぞ!お前の得意魔法見せたれや!」
「わかりました!」そう言うと冬馬がアレクの姿になる。
「櫻子先輩♩」しかし、言葉遣いが少し違う。
「あかん。これだと気付かれるわ。一般社員捕まえてそいつにしようや。」豊富が冷静に突っ込む。
変化魔法を解いて落ち込む冬馬。
景色が歪み場所が変わる。
メリーさんの館だ。
中のホールには避難してきた人々がごった返している。
庭にも簡易テントが貼られ人々が休んでいる。
大きい屋敷だが、人でぎゅうぎゅうだ。
「いつまで、こんな事しやんといけんのや…。」
「お家…帰れないの?」
「逃げても逃げても…。どこなら安全なんよ。」
人々のぼやきと不安が漏れ聞こえる。
じわりじわりと人々の心を蝕み始めている。
そこへ笑顔の櫻子がやってきた。
隣に無表情のヒロがいる。
「ヘラヘラ笑いおって…。」そんな言葉が聞こえた。
「おい!誰や今言うたん!」ヒロの激昂する声がホールにこだます。
「誰や!今!“ヘラヘラ笑ってる”って言った奴!」
「ヒロ。私は、大丈夫。」櫻子が完璧な笑顔でヒロを制す。
ヒロが櫻子の笑顔を悲しそうに見た。
「みなさん、不安ですよね。」民衆を掻き分け、櫻子が二階に続く階段へ上がる。
なんとも言えない表情で階段を上がる櫻子の背中をヒロが玄関ホールで見ていた。
二人の間を隔てるように人々が立つ。
櫻子がゆっくり振り向く。
「今日は、皆さんに祝福を贈りますね。」
櫻子が、神器を取り出し魔力を込める。
神器のハサミを天に掲げる。
お囃子が鳴り始めた。
人々の胸から菊理姫様の細い糸が一本、また一本と天へ伸びていく。
それは、外に居た者にも届き、細い糸が出て天に伸びる。
黄金の粒子が舞い、神楽が始まる。
あまりにも神々しい光景。
人々は息をのみ、ただ見上げている。
ーーー違う。
「……櫻!」
櫻子が神楽を演舞する。
顔色が悪い。
足元がふらついている。
普段よりも一拍遅い足つき。
異変に気がついたメリーさんも駆けつけた。
「櫻子!何をする気ですの!」メリーさんの叫びがお囃子にかき消される。
人々は、櫻子の演舞を拝んで見ている。
ヒロは、人混みを押し分ける。
「あかん!こんな人数の祝福なんて!」
櫻子は、ハサミを回しながら祝詞を上げる。
「櫻!」ヒロが叫ぶ。
棒立ちになった人々が、無意識にヒロの行く手を塞ぐ。
「祓い清めたまえよ。」
微笑んだまま、
櫻子の膝から力が抜けた。
ドサリと倒れ込む櫻子。
誰も動かない。
誰も理解できない。
「………え?」呟く声が聞こえた。
その中でヒロだけが櫻子に駆けつける。
「櫻!櫻!回復薬を飲め!」ヒロが櫻子の口に回復薬を押し当てるが、櫻子の口からこぼれ落ちる。
ヒロは、回復薬を口に含むと口移しで薬を飲ませた。
「伊達様…?」人々が何が起きたかわからないでいる。
「ヒロ!どいて!魔力を流しますわ!」メリーさんが櫻子に魔力を流す。
「どいて!どいて!どかないと切り刻むよぉ!」ヴィクターが、ストレッチャーを持ってくる。
ストレッチャーに櫻子を乗せる。
その体は、ひどく痩せている。
「ヴィクター!櫻子は!」
「魔力の枯渇だけじゃない。魔素神経まで焼き切れている。早く処置を。」そう言ってストレッチャーで櫻子を運び出した。
その様子を人々は呆然と見ている。
「田中様…。伊達様は…。」
「お前らやろ!」
「お前らのせいやろ!櫻があんなんなったのは!」
「何が聖女じゃ!」
「何が女神じゃ!」
「言いたいことばかり言いよって!」
ドンっと壁を叩くヒロ。
そこへ初老の女性がヒロの元へ駆け寄る。
「私は、ヒーラーです!櫻子さんの所へ連れて行ってください!」そう言ってヒロの肩を掴んだ。
「わかった。」ヒロが短く頷く。
ヒロ達はヴィクターを追いかけた。




