第五十四話 敵が残した傷跡
毎日18時更新
こちらは、外伝となっております。
気になる方は、本編の『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜もご覧になってください。
次に連れて来られたのは、病院だ。
病室の前には、項垂れる小野冬馬となんとも言えない表情の豊富と三条がいた。
「豊富さん!友香里ちゃんが…。」櫻子がその先が言えず言い淀む。
「とりあえず、命は無事や…。俺ら男は、近づけん。看護師が「友香里が櫻子はんを呼んで」って…。」
櫻子がゆっくり扉を開ける。
点滴をつけて目が虚ろな友香里が病室の天井を見つめている。
「友香里ちゃん…。」櫻子が近づく。
「櫻子さん…。」虚ろな目で櫻子を見る友香里。
「私…神器持ってないやないですか…。」静かに聞く櫻子。
「魔力が尽きちゃって…。そうしたら…あいつら…。」
櫻子がぎゅっと友香里の手を握る。
「私の近くに中学生ぐらいの女の子がおったんですよ…。そいつら、その子を」
「私、別にそういうこと、初めてじゃないし…。私が身代わりになったらって…」
「友香里ちゃん!喋らんでえぇ。」そこで櫻子が泣き出す。
「櫻子さん…。私、悔しいです…。なんで、なんで…。」友香里の光のない目から涙が溢れ出す。
友香里がゆっくり起き上がる。
「無理して起きんでもえぇ。」櫻子が、背中をさする。
「櫻子さん。治癒魔法と忘却魔法を私にかけてください。」友香里の目に鬼女が宿る。
「忘却魔法って…。忘却魔法は、術が解けた時、押し込めた記憶が一気に戻るで…。」
「知っています。でも!今、アイツらをぶちのめさないと!男の人怖がっている場合じゃないんですよ!」そこで子供のように友香里が泣いた。
「わかった…。」櫻子は、短く答えて友香里の頭に手を置いて忘却魔法を使う。
櫻子の顔が歪む。
忘却魔法は、消し去りたい記憶を術者も読み取らないといけない。
友香里の見た地獄を思って心が締め付けられる。
ゆっくりと櫻子が病室から出てきた…。
俯いている。
「……櫻子さん。友香里は…。」冬馬が近づいてきた。
「……忘却魔法をかけた。」
「なんでですか!……なんで…。」冬馬が涙目で櫻子の胸ぐらを掴む。
「友香里ちゃんが望んだんや…。」
「止めてくださいよ!友香里は、もう一度あの地獄を見るんですよ!大人じゃないですか!なんでですか!」櫻子の胸ぐらを掴み大きく揺さぶる冬馬。
「冬馬。私は、大丈夫。」それを聞いていた友香里が病室から出て来た。
「…友香里。」
「櫻子さん。申し訳ないですが、引き抜いた記憶を使ってください。」友香里がしっかりと櫻子を見る。
「友香里ちゃん!ホンマにいいのか?」櫻子の目が驚きに満ちる。
「はい。ちょっとでも…。ちょっとでも情報が欲しいです。」そこでドン!と壁を叩く友香里。
その覚悟にみな言葉が出ない。
「わかった…。」そう短く答える櫻子。
目を閉じる。
泣きたいのを我慢しているのだろう。
ここでは、泣けない。
一番泣きたい気持ちの友香里がいるのだから…。
そんな、感情がうちの中に入り込んできた。
ーーーーーーーー。
次に魔道具を使い櫻子と茜茜が友香里の引き出した記憶を見ている。
俯いた櫻子の手からは、タバコの紫煙が揺らいでいた。
無表情の茜茜が魔道具を動かす。
「……。」
「……。」
二人とも無言だ。
魔道具から友香里の悲鳴と男達の笑い声が聞こえる。
茜茜が無言で停止する。
数秒。
煙だけが揺れる。
再生。
友香里の悲鳴。
茜茜がおもむろに映像を巻き戻した。
友香里の声を取り除く。
そして…。
男達の永喜語だけが残る。
「修金赫?」茜茜が呟く。
「人の名前か?」櫻子が顔を上げる。
「“修金赫”…“社長”永喜語でそう聞こえるネ。」
櫻子がPCを操作する。
「修金赫……。永喜王朝の政治家。7年前に選挙に当選して現在は政治局員として活動。
ファーリー製薬会社元社長…。」
櫻子と茜茜が顔を見合わせる。
「その会社は日本にあるのカ?」
「ちょっと待って!」
櫻子がPCを操作する。
「ある…。神辺と浪華の間に一社。」
そこで、櫻子達は部屋から出ていく。
PCの画面には、柔らかな笑みを浮かべる中年の男が映っていた。
黒目がちの瞳。
通った鼻筋。
口元の黒子。
まるで20年後のアレクを見ているような顔だった。




