第五十一話 小さな英雄が守りたかった笑顔
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こちらは、外伝となっております。
気になる方は、本編の『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜もご覧になってください。
※安心してください。本編100話前後にロッキー再び登場!
景色が歪む。
ゴツゴツとした岩肌。
無造作に作られた板の床。
机・ソファ・テーブルの上の大量のハイボールの空き缶。
回復薬の空き瓶が転がる。
そして、灰皿の上の吸い殻の山。
壁にもたれかかり床の上に座る櫻子。
軍服を着たままだ。
ソファにはヒロが座っている。
竜胆が静かに泣いている。
涙目の楓と紅葉が慰める。
泣き腫らした目のなぎさが猫達を撫でている。
「私…あかんかった…。」不意に櫻子が言う。
「あの時…あぁ、このまま…って…。ロッキー…それも読んでいたのかな?」壊れたブリキ人形のような声で話す櫻子。
ヒロがおもむろに立ち上がり櫻子の前までいくと。
櫻子の頬をパンっ!と平手打ちした。
櫻子の目には光がない。
そんな櫻子を見て喉が詰まるヒロ。
そして、櫻子が着ている軍服のブラウスを引きちぎる。
黒いボタンが弾け飛んだ。櫻子を押し倒す。
「ちょっと大夢さん!」なぎさが立ち上がり、止めようとする。
「あかんな!こんな服着て!」ヒロが腰からナイフを出す。
軍服の肋骨服の紐を一本、一本切り刻む。
「櫻は!白のブラウスに白のカーデガン着て!」
ヒロは櫻子の肩章を掴む。
ブチリと糸が切れる。
肩章が床へ投げ捨てられた。
「櫻は!それを!書写や図工で汚してきて!」
肩口から袖口までナイフを入れて軍服を引き裂く。
櫻子の瞳にはそれでも光がない。
ヒロが、軍服だけを裂く。
胸元の勲章。
腕章。
階級章。
その全てを切り刻む。
「俺やロッキーに別の服着たらえぇやんって!」
ヒロは、櫻子の腰に巻かれていた軍用ベルトをナイフで引きちぎる。
軍服の裾を引き裂く。
緋色の布切れが床へ散らばる。
下着姿の櫻子が虚空を見上げる。
「でも…。でも…。俺もロッキーも」そこで、ヒロの言葉が詰まる。
「こんな服着てくれって言っとらんで…。」ヒロの嗚咽が聞こえた。
強く櫻子を抱きしめるヒロ。
「私…でも…でも…。人が、魔石…。」そこで櫻子から涙が溢れる。
「ロッキーが!ヒロ!ロッキーが…。魔石に…。」櫻子がヒロを抱きしめ返す。
なぎさは、その姿をただ静かに涙を流して見ている。
トントンと牛女がなぎさの肩を叩き部屋の外へ促す。
なぎさはそれに従いつつも振り返り、二人を見つめる。
そうして、部屋を出た。
ーーーーーーーーーーー。
景色が滲む。
瞬きをしたら広場だった。
武装した自衛官・亜人や異形の妖達が集まって整列している。
色々な人種が一堂に会し、武装している姿は壮観だ。
みな、前方の壇上を見ている。
壇上にゆっくりと櫻子が上がる。
壇上の下には、緋色の戦闘服を着たヒロ。その隣に普通の戦闘服を着た丸山・上野。
そして、亜人の集落の軍服を着たなぎさが大斧を持っている。
櫻子は緋色の軍服を着て。
笑顔で後ろで手を組みながら歩く。
櫻子は壇上の中央へ歩みを進めた。
軍靴を鳴らし、静かに前を見据える。
「皆さん。」
その一言だけで、広場が静まり返る。
「嘆かわしい事にこの神辺が、永喜王朝との戦の最前線となりました。」
一拍置く櫻子。
「昨日まで教室にいた子供達がいます。」
「昨日まで会社に出勤していた人がいます。」
「昨日まで店を開け、家族の帰りを待っていた人がいます。」
「その日常は、もう戻りません。」
悲しげに目を伏せる櫻子。
広場に静けさだけが、広がる。
「だからこそ!」櫻子がゆっくりと顔を上げる。
「私達は守ります!」
「人間も。」
「亜人も。」
「妖も。」
「この地で生きる、すべての命を!」
ゆっくりと両手を広げる。
「龍脈が流れ。」
「魔素が満ち。」
「神々が見守る、この大和の地を。」
「私達は決して渡しません。」
櫻子は胸の前で静かに手を合わせる。
「恐れても構いません。」
「泣いても構いません。」
「その代わり、生き抜いてください。」
「生きて。生きて。生き抜いてください。」
「未来は、生き残った者が紡ぐのです。」
櫻子は静かに目を開き、大衆へ微笑みかけた。
「そのために。」
「私がいます。」
「菊理姫様のお導きが、皆様にありますようにーーー。」
そこで、静かに目を瞑り祈る櫻子。
「さぁ、戦争の授業を開始しましょう。」カッと目を見開く櫻子。
人々から歓声が上がる。
真面目な顔のなぎさ達。
櫻子の歪んだ笑顔を見て、ヒロだけが目を節目がちにした。




