第四十四話 紫煙の誓い
毎日18時更新
こちらは、外伝となっております。
気になる方は、本編の『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜もご覧になってください。
再び円卓の間に来た。
部屋の中は、濃いタバコの煙で霞んでいた。
伝達者や騎士の他に関白・九条、太政大臣・近衛をはじめ、何人もの式部官が席に着いている。
小野兄妹は、マスクをしているが、苦しそうだ。
「ここに来て、永喜王朝が声明を出してきたのだが…。」三条の葉巻の煙が揺らぐ。
そうして、静かに声明を読み上げた。
「我が永喜王朝は、大和における魔法災害および人体改造事件を重く受け止めている。
魔法は人々を魔物へ変え、都市を崩壊させる危険な邪術である。
現政権はそれを制御できず、多くの生命を危険に晒している。
よって我々は、人道的見地から一般市民の保護のため、軍を派遣する。」
読み上げていた紙をそっと置く。
櫻子が、吸っていたタバコを灰皿に押し付けた。
吸い殻の火が消える前に新しい一本を口に咥えて火をつける櫻子。
「ええように言ってるけど、どさくさに紛れて侵略する気満々やん。」豊富がタバコの煙を吐きながら話す。
「それにこの条件。全魔法使いの登録。神器の没収。魔法研究所の閉鎖。魔法の全面禁止。そして、従わない者は邪教徒として認定して
ーーーー処分する。…か。」徳田が三条が見ていた紙の追加通告を読む。
「永喜王朝は、大和でホロコーストをしたいようね。」櫻子が、煙を吐く。
「外宮の外務大臣は、どう対応しているんですの?」ヒロが、タバコの火を消しながら話す。
「条件を飲みそうだ。」九条が話す。
「…それ、本気で受け入れる気ですか?!」小野冬馬が驚く。
「今の政権は超ハト派政権だ。自分たちの手は汚したくない奴が多い。月の君が総理大臣を連れてきたのは、どうしようもない状況だったからや。心の中では、封印を解きたくないと思っていたろうよ。あの総理大臣は、我々を犠牲にしてでも平和が成り立つなら喜んで差し出すだろうな。」そう言ってタバコの煙を吐く櫻子。
とても、不味そうだ。
「戦争を止めたいのではなく、戦争の責任を負いたくないということだな。」九条が灰皿を引き寄せて煙管に火をつけた。
「他の諸外国はどうなってますか?」櫻子が質問する。
「静観している。欧州諸国の魔法省から此度のテロについての説明を求められたので答えた。」近衛の煙管から煙が揺れる。
「自分達も非魔術師と手を組むか…国で話し合っているんでしょうね。排除する側に回るか、それとも共に歩むか…。声明を出すのは、その後でしょう。」櫻子が縦肘を突いて、ゆっくりとタバコを吸う。
「所詮、人ごとや。」ヒロが呟く。
「世論の方も二分化している。特にエネルギー関連の団体からの批判が強いな。石油と天然ガスも止められておる。産業界が黙っとるはずがない。」三条が葉巻を吸いながら話す。
部屋の中を様々なタバコの匂いと不穏が充満していく。
紫煙だけが静かに天井へ昇っていく。
その場にいる誰も、大和の未来を楽観視してはいなかった。
おもむろに櫻子が立ち上がる。
「近衛様。外交はお願いいたします。三条さん、難民の受け入れを多くしてほしいです。私は、議会の決定に従いますよ。」最後に大きくタバコを一服する。
「たとえ、この命一つで戦争が避けられるならこの身を捧げましょう。」そう言って、灰皿にタバコを押し付けた。
「ヒロ。前線へ戻るよ。」そう言って、空間移動魔法で姿を消してしまった。
「櫻子はん…。死なないよな…。」豊富が呟く。
「田中が報われないな。」徳田がタバコの箱を出した。
そして、タバコを一本出すと火をつける。
徳田の目線の先には、櫻子が座っていた椅子へ向いている。
灰皿の上には、櫻子が最後まで吸っていたタバコの煙だけが、まだ、静かに揺れていた。
景色が歪み別の場所にきた。
警報が鳴る。
「第3小隊は民間人の避難を!」
「こちらに早く!結界の中へ入ってください!」
爆撃の爆風。
紙の様に人々が舞い上がる。
神辺の街は地獄と化していた。
永喜王朝の国旗をつけた軍服を着た者が人々に銃口を向ける。
そこに櫻子がやってきて、雷を打ち込む。
「民間人への発砲は国際法違反だがなぁ。法律をお教えしましょうか?」
櫻子を捉えようとしている軍人に向かって岩の塊を打ち込む。
岩塊の下から血が溢れた。
「伊達様!」一人の母親が近づく。
「うちの子が怪我をして…。」母親の腕の中では、頭から血を流している子がいる。
「大丈夫ですよ。」笑顔で治癒魔法を施す櫻子。
その後ろでは、建物が爆発する。
結界を張って、母子を守る。
「ここは、危ないです。自衛隊の指示を聞いて避難してください。」和やかに微笑む櫻子。
「ありがとうございます!」母親は、涙目になりながら自衛官の方へ逃げる。
母子の姿を見届けると、ゆっくりと振り返る櫻子。
その顔には、もう笑顔はない。
「お望みは、戦争で?」
神器のハサミに魔力を込める。
大剣ほどの大きさにした。
そして、戦場をかけていった。
夜遅く、やっと警報が鳴り終わった。
空間移動魔法の光が消える。
誰もいないダンジョンの秘密基地だった。
テーブルの上には、タバコ・酒・回復薬。
ソファに座り、俯く櫻子がそこにいた。
※ホロコースト……第二次世界大戦中にナチス・ドイツがユダヤ人などに対して組織的に大虐殺を行った事。語源は、ギリシャ語の「全てを焼き尽くす」という意味。




