第四十二話 見えない敵
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こちらは、外伝となっております。
気になる方は、本編の『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜もご覧になってください。
景色がゆっくりと形づいてくる。
大きな円卓。
三条や豊富・徳田・ヒロ。そして各地の緋色の軍服をまとった伝達者と騎士たちが席に着いている。
重苦しい沈黙。
「櫻子はんはどないしたんよ?」豊富がヒロに尋ねる。
「……今も前線におる。」
「ちゃんと休んでいるんか?」
「………。」
「それを止めるのが、アンタの仕事やろ。」
「わかっている。……わかっているわ…。」
三条が静かに口を開く。
「櫻子君の事も心配だが、現状報告を。」
「偽の伊吹が主犯で間違いないみたいですね。」ヒロが話す。
ヒロが資料をばさりと机の中央に投げる。
「帝都にいた“伊吹真”と言うものに背乗りしたんは、本物が実家を出た後や。新神辺駅で新幹線を降りたのは、防犯カメラで確認できとる。」バラバラと散らばった資料を他の伝達者が見る。
「で、この女に声をかけられているのが、防犯カメラに映った最後。」そこで、ヒロは魔道具を使って映像を見せた。
そこには、前下がりのショートボブに白いワンピースを着て、キャリーケースを持っている女が、スマホを覗きながら、本物の伊吹真に声をかけていた。
「この女。私を襲った女ですね。」三条が見抜く。印象が違うが雉だ。
「パチモンの伊吹のアパートからは、指紋もDNAも一切出てこん。」ヒロが続ける。
「警察の顔認証も一致するものなし。」
「本名、不明。」
部屋が静まり返る。
「資金源についてはどうなんですか?」江州の伝達者・小野冬馬が弱々しく言う。
「資金の方を追ってみたが…海外でマネーロンダリングしているようや。追跡不能。」三条が話す。
「武器の鈴の解析は?」三条が豊富を見る。
「茜茜やその他研究員に見てもらったが、どんな理を施しているのかわからん。わかるのは、日本の神さんからは力を借りてない事だけや。」
豊富も資料を投げる。
そこには、鈴の特徴が書かれている。
手持ちの所や本体に呪詛がかけられており、鳴らすと周囲の魔素を一瞬で固める。
そんな特徴が書かれていた。
「茜茜は永喜王朝の道士がよく使用するもんやって言ってたで。」そこで、豊富がタバコに火をつける。
「ここは、禁煙ですよぉ。」江州の伝達者・小野友香里が咳き込む。
「一丁前に発言するなら、情報ぐらい持ってこいや。兄妹揃って何してんねん。報告ないんやったら櫻子はんに手伝いでもしてきたらどうや?そっちの方が、役に立つで。」豊富が八つ当たりをしている。
二人が下を向く。
「襲撃から二週間…。賊からの犯行声明なども接触も一切なし。」
「……何もわからんって事ですね。」ヒロもタバコに火をつけた。
誰も否定できない。
三条が静かに灰皿を出して、散らばった資料を風魔法でまとめる。
「逆に、確定している事は?」
「永喜王朝。」豊富が煙で輪っかを作って遊んでる。
徳田が、腕を組む。
「それが逆に気になる。敵が、国家ならこんなにわかりやすく尻尾を出すか?」
ヒロが、タバコの灰を落とす。
「俺ら、誰と戦っているやろう…。」その問いに答えられる者はいなかった。
「国家が動いているなら外交問題。国家でないなら、それ以上の何かだ。」三条が静かに言う。
そして、葉巻の口を切る。
一服すると
「どちらに転んでも、大和の建国以来の危機だ。」
景色が遠のく。
プレハブ小屋が並ぶ簡易的な街並みが見える。
空を見上げると大規模な結界がはられているのがわかる。
そこでは、人々が櫻子の周りを囲んでいる。
「何か不便はありませんか?医療品や物資は大丈夫でしょうか?」櫻子が朗らかな笑顔で老人に聞いている。
しかし、目に光がない。
「伊達様のおかげで、ここは安全です。ありがとうございます。強いて言うなら少し暑くなってきたので熱中症が流行っています。みなで気をつけていますので大丈夫です。」老人が答える。
「それは、いけませんよ。子供達とかは大丈夫ですか?」
「えぇ、子供達が一番元気ですわ。」そこで広場で遊ぶ子供達を見る。
「暑いでしょう。みんなに雪をプレゼントするわね。」櫻子が子供達に向かって微笑む。
子供達から歓声が上がる。
広場に進み櫻子が氷魔法で上手く雪を出して、子供達に遊ばせる。
夏の灼熱の大地に冷たく凍てつくような雪が降り注ぐ。
避難所の空気が少し、温度を下げる。
子供達がキャキャしながら雪遊びを始める。
櫻子は和やかだ。
知事を威圧した人と同じとは、思えない。
そんな櫻子に住民が集まり、避難所の様子と要望を話す。
「伊達様!うちの孫が熱を出したのですが、なかなか診察してくれないんですわ。」老人が櫻子に縋る。
「それは、大変!私が、治癒魔法を施しましょうか?でも、夏風邪しか治せないのだけどいいかしら?」
「ありがとうございます!では、早速。」そう言うと老人がプレハブから一人の男児を抱えてくる。
櫻子が、男児の額に手を当てて、キュアをかける。
男児の顔色が良くなる。
「ありがとう。お姉ちゃん。」
その言葉に櫻子が、微笑む。少し、目に光が戻る。
その後も櫻子は行き過ぎた要望にも笑顔で返す。
ーーーその中に櫻子を体育館で責めていた者もいた。
「自分の利益になれば、聖女様ですか。」ヒロがそんな様子をつまらなそうに見ている。
「水は低きを流れ、人の心もまた易きにって奴や。」丸山が話す。
「なんすか?それ。」
「水っちゅうのは高い所から流れるやろ。人間の心も同じで簡単な方や楽な方に流されるって意味やって。櫻子さんが言っていたわ。」
「櫻がねぇ。」そこで、ヒロがタバコを出す。
切らしたようで、タバコが入ってない。
ヒロは、タバコの箱を握り潰すと新しい箱を出して封を切った。
まっさらなタバコの箱をトントンと叩き、タバコをくわえる。
丸山が火を出す。
ヒロと丸山がゆっくりと煙を吐く。
煙の向こうの櫻子がゆらゆらと揺れている。
煙の向こうの櫻子は、誰にでも同じ笑顔を向けていた。
怒鳴った者にも。
感謝する者にも。
笑顔だけは、誰にも差別をつけない。
「……もう、やめぇや。その顔。」
ヒロの呟きは、煙の中へ消えた。




